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斜線堂有紀「キネマ探偵カレイドミステリー」 - 映画好きにはたまらない短編集
「何観てるんだ?」
「『グラン・ブルー』」 嗄井戸は素っ気なくそう言った。恐らく、それが映画のタイトルなんだろう。
「へえ、面白い?」
「面白いけど、そう一口には言えない映画だよ。ここには人生があるんだ」
「うわ、めんどくさい感じがする」
引きこもりのオタクキャラ、すごい頭脳持ちがち。
デスノートのLのような安楽椅子探偵
筋金入りの映画オタクで、一歩たりとも自宅から外に出ない休学中の白髪大学生「嗄井戸高久」が、ワトソン役の友人である奈緒崎くんとさまざまな事件を解決していくライトな探偵ドラマ。
かと思いきや、ラストは結構ハードな内容も含まれていて、読み応えがありました。
とにかくこの嗄井戸、キャラがめちゃくちゃ濃くて、デスノートのLを思い起こさせる。
そんな彼が、次第に人との友情を育んでいく過程も見どころのひとつです。
あの日の記憶が蘇る映画雑学の数々
ニュー・シネマ・パラダイス
独裁者 (チャップリンの演説シーンが有名)
ブレア・ウィッチ・プロジェクト
セブン
といった映画のタイトルが各話のタイトルに含まれている通り、各事件が何らかの映画と関連づけられていて、映画に関する記述がかなり多いのも本書の特徴。
『セブン』というのはこの間嗄井戸に薦められて観たサスペンス映画のことだ。カトリック教会における七つの大罪──傲慢・憤怒・嫉妬・怠惰・強欲・暴食・色欲、に擬 えた猟奇殺人が起こり、それを追う刑事が主役に据えられている。
僕は『ニュー・シネマ・パラダイス』は観たことが無いのであんまりピンときませんでしたが、特に『セブン』なんかは簡単なあらすじを復習するだけでも、最初の事件現場の暗さや夕暮れのラストシーンなど、眠っていた古い記憶の封を破るような感覚があって、それも楽しかったですね。
「いやあ、どうだった奈緒崎くん。この映画でマレーナを演じたモニカ・ベルッチはね、この映画で注目されて、大女優への階段を上るんだ。だって、たまらないくらい魅力的だろう?彼女、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の『シチリア!シチリア!』にも出演してるんだ。この際だし、ついでにそっちも観ておこうか。どうだろう?……奈緒崎くん?」
内容が濃すぎて付いていけないことも多々あるけど。
他にも『冷静と情熱のあいだ』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』など、往年の名作が物語に華を添えます。
映画好きなら文句なく楽しめる。
全3巻のシリーズもの
斜線堂有紀さんのデビュー作でもある本書は、シリーズの第1作。
このシリーズに限らず、現在多くの作品がKindle Unlimitedで読めるので、興味があればぜひ。
ちなみに僕はこちら、一冊購入しました。アンリミ期間が終了したら読みます。