27歳、日々更新。
子どもが産まれて少しして、
夫との恋愛はもう終わったなと思った。
恋愛感情はないから、
可愛いと思われる努力はしない。
血の繋がりのない相手だ。
ある程度、可愛くいることがマナーだし、
円滑な夫婦関係の秘訣だし。
それでも、
ときめくことはないし、嬉しくない。
自分は磨かれないし、
産後1年経ってからようやく鏡の前で静止する時間が持てたときに、
顔が、肌が、点々だらけで驚いた。
出会ったとき、彼は35歳だった。
恋は盲目で、歳の差なんて気にかけてもいなかった。
隣にいる40歳になった背丈の変わらない夫を横目で見てから、真っ直ぐ前を見つめた。
私は25歳だ。
魔法は解けはじめていた。
単純計算もできなかった。
恋は盲目とは、事実を捻じ曲げる力すらもつ。
夫婦円満の秘訣は、可愛く思われ続けたい自分がいること。
何度も何度も恋に落ちること。
お願い神様、もう一度魔法をかけてください
人生の絶頂は、
あまりにも急で、あまりにも短くて。
一気に底まで来てしまったけど、
そこは住み慣れた場所だったと思い出す。
そもそも私の居場所は、わたし程度の人間は、
底に足が着く場所が安定するのだ。
これからもずっと。こうやって生きていくんだ。
*
社会人1年目に遡る。
総合職として入社した会社は同期が200人いた。
それぞれが希望の部署を夢見るも、“配属”という魔法の言葉で、8割が介護職に振り分けられ、私もそのうちの一人となった。
意思とは大きく違っていたけど、
2年間頑張って続けた。
私が居なかったら、この人たちは死んでしまう。
自分の好きなタイミングで、トイレにも行けない。お風呂も週に2回だけ。ドロドロしたご飯しか食べられない。
同情だったかもしれないけど、それが若い私の身体をしゃかりきに動かせた。ハタチ。
17時から翌朝10時までの休憩なしの夜勤。
その後日勤帯の人員不足のため、お昼の12時まで入浴介助のため残業した。
正社員の勤務はほとんどが夜勤ばかりで、
昼夜逆転の日々が続いた。
利用者さんの寿命を伸ばすことで、
若い私の寿命は縮まった。
*
それは休日。休日にだけ私を襲う。
電車に乗り移動している。
立っていると、アレが起こりそうな気がする。
ヤバい、まただ。目の前が、、
見えなくなってきて、真っ暗で。
呼吸もうまく出来ない。
だんだん立ってはいられなくなる。
手から汗が滲む。
暑くて、でも多量の汗で寒くなってきて。
電車から急いで降りて、呼吸を整えたら、やっと視界が戻ってきた。
パニック発作を起こすようになった。
自分を護るために仕事を辞めた。
判断能力が残っているうちでよかった。
退職の意向を告げて、少しして
お腹に赤ちゃんがいることが判った。
彼に伝えたら、「そんなわけない」と言われた。
仕事はない。赤ちゃんだけがお腹にいた。
絶頂であるはずの、あるべきのこの出来事を。
人生の底で迎えてしまった。
遡っている話ではあるが、今目の前にいる4歳の女の子の顔を見つめるたびに、本当にごめんなさい。本当にありがとう。
あなたのおかげで変わるから。変われたから。
あなたに対する想いは絶対魔法じゃない。
だから一生解けないよ。
一生愛している。
*
子どもが産まれて母になり、
母親という役割が、
間違いなく私を強くしてくれた。
子どもが産まれて4年間、
あれほど繰り返したパニック発作を一度も起こしていない。
*
子どもが産まれて発作を起こさなくなったことは本当によかった。
体調に対する不安は消えた。
将来に対する不安は増えた。
お金もない、仕事もない、
子を授かったときに「そんなわけない」と言った彼は、夫になった。
子を授かってから今までに計6回転職をして、
その度に収入は増減し、
幾度となく不安にさせられた。
賃貸住宅は子育てするには狭くて不便。
私の仕事復帰はいつ?
周りが羨ましく思え、私から余裕を奪っていく。
そうすると子育てが楽しくない。
子どもの泣き声にますます余裕がなくなる。
*
ハタチだった“わたし”を通過し
新婚だった“わたし”を通過し
母になった“わたし”とここまで歩み。
絶望と、絶頂と、喜びと、どん底を繰り返し、
27歳の今の“わたし”を迎えた。
結論、なかなかにたのしくて驚いている。
1年前、子どもが3歳、年少の歳になり
たっぷり自宅保育期間を設けて(葛藤の日々だった)から、保育園に預けた。飲食店で仕事を始めた。家事と心の平和といろいろ考慮して扶養内勤務で。週3.4回の出勤。
仕事でそれまで減っていた他人と関わる時間。
皆無に近かった自分のためだけの時間。
家を整える時間。
本当にバランスが良い。
今までの失敗が、どん底が、
全て糧となった。
仕事は無理をしない。でも精一杯やらないと楽しくない。体調管理は大切。自由な時間は予告なしに終わる。もてる時間は有意義に。お金は大事。
経験は、心の余裕に繋がる。
*
最近嬉しいなと思うことは、自分に飽きていないこと。
無趣味だった私が、
好きなことに出会い始めている。
子どもが昼寝をしているときに、本を読む。
家事をしているときは大好きなラジオを聴きながら。
一生懸命働いたお金で、最高のランチタイムを過ごす。
家を整える日は、外でご飯は食べられないから、お気に入りのNetflixを見ながら自宅でランチ。
日々を消費しない。味わう。
少し億劫だと思う時間も、色をつける。
休日は思いっきり、自分を甘やかす。
27歳になり自分の好きなこと、好きな場所、好きな食べ物、飲み物がまだまだ見つかる。
嬉しくて、楽しくて、自分に発見があることが、日々を充実させてくれる。
*
相変わらず、夫との恋愛再開しないけど、
今でも、もっと別の20代前半の過ごし方があったんじゃないかと悔やむけど、
今がなかなか楽しいのは事実。
今日も、こうしてわたしを通過していく。