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「魅力設計」ごとのインサイト設計について

「採用活動における求職者さまへのメッセージングの究極系とは何なのでしょうか?」

そんな話を社内でしていたのは最近のことですが、この問いについては非常に深いと感じています。なぜなら、採用活動における企業さまからのメッセージング(魅力)は、求職者さまに伝わっているようで、実際には伝わっていないことが多いからです。その理由はいくつかありますが、本ブログではその一つについて探求していきます。

本ブログの主役となるキーワードは「インサイト」と「TIM」の二つです。

では、参りましょう。




1. TIMというサービスについて

ポテンシャライトでは「TIM」という概念を提唱しており、

T : ターゲット
I : インサイト
M : メッセージング(魅力)

上記のことを指しています。採用広報の記事作成や求人作成時には上記を意識して実施すると、ターゲットに訴求できるメッセージ作成が可能です。

1-1. 採用ブランディングサービスの課題点

採用ブランディングとは、採用企業さまの魅力の「発掘」「言語化」「整理」を行うことです。当社が設立以来、約280社さまに提供してきたサービスで、採用企業さまの魅力をヒアリング形式で引き出し、言語化して整理するサービスです。非常に評判が良く、売り手市場の昨今において、どのような発信を採用活動で行うべきかを探求しています。

1社あたり10,000字以上で魅力を取りまとめることが多く、ご満足いただけるケースが多いのですが、唯一の課題を挙げるとすれば、

「求職者さまが求めている魅力と必ずしも合致しているわけではないこと」

です。

例えば、今日どうしても中華料理が食べたいと思ったとしましょう。しかし、友人に連れて行かれたのは和食の名店です。もちろん和食も好きですが、どうしても今日は中華料理が食べたかった。そのため、和食の名店の印象は悪くはないものの、最高レベルに達するわけではありません。このようなことが採用活動でも発生します。

企業さまは福利厚生を強調したかったが、どうしても採用したい佐藤さんは福利厚生の優先度が低く、会社のミッションやビジョンにこだわりが強かった。この場合、

「企業さまが打ち出したい魅力と求職者さまが求めている情報に齟齬が生まれる」

という事象が発生します。これが採用ブランディングの課題点です。

前項で説明したTIMとは、この採用ブランディングの課題点を解決するために生まれたサービスです。


2. TIMの課題点

TIMの課題はズバリ、

「事前に設定したインサイトの種類や粒度によって、メッセージングが必然的に決まってしまうこと」

です。言い換えると、

「設定するターゲットの粒度によって、インサイト・メッセージングの粒度が変わってしまうこと」

とも言えます。

たとえば、「フィールドセールス」を採用するとしましょう。フィールドセールスのインサイトの事例としては、

- 数字(実績)を追わなければならないことにやや疲れを感じ、もう少しじっくりと顧客の課題を解決できるサービスを営業したいと思っている。

- 自社の商材の優位性を感じられず、価格勝負に頼らざるを得ないと感じている。

などが挙げられると思います。

ただ、「フィールドセールス × SaaS企業」というターゲットで考えるとどうでしょうか?

- 自社の商材の単価が高くないため、セールスの能力よりもプロダクトの価値が売りに出されるため、自分の営業能力を高めるのが難しいと感じている。

- AIの登場により、単一的な課題解決があまり求められなくなり、もっと深い課題を解決できるプロダクトに関わりたいと思っている。

といった具体的なインサイトが浮かびます。

次に、「フィールドセールス × SaaS × シリーズAのスタートアップ」について考えてみましょう。

- 自社のプロダクトは顧客の課題解決に役立っていると感じているが、そのマーケットの規模が小さく、会社が大きくなる見込みがないと感じている。

- 代表や役員との関係がうまくいかず、20名規模のためコミュニケーションを避けられず、居心地が悪い。

さらに、「フィールドセールス × SaaS × シリーズAのスタートアップ × シニア」にしましょう。

- 自社のプロダクトに可能性を感じ、拡販を進めたいが、子供がいる社員が自分しかおらず、働き方についての権限はあるが、気まずい思いをしている。

- 小規模なスタートアップであるため、セールスに限らず企画やマーケティング、カスタマーサクセスにも関わっているが、勤務時間が長くなり、家族との時間が減っている。

このように、ターゲットを細かく設定することで、インサイトも具体的になります。粒度が細かくなると、インサイトが具体的かつ角度が変わることが理解できるかと思います。

これに気づいたことで、2つの悶々とした課題が浮かび上がりました。

2-1. ターゲットにおける項目はどこまで増やすべきか?

前項で説明した最下段のターゲットは、

「フィールドセールス × SaaS × シリーズAのスタートアップ × シニア」

でした。ここでは「職種」「業界」「会社のフェーズ」「年齢層」の4つの項目を掛け合わせています。しかし、これだけでは足りないと感じます。例えば、以下のような項目も追加できます。

  • 思想(利益と思想のバランス)

  • プロダクトの種類(単価、テックタッチ/ハイタッチなど)

シンプルにこれら2つの項目を追加してみましょう。思想についてターゲットに加えると、さらに鋭利なインサイトが構築できます。また、プロダクトの種類を追加することで、さらに具体的なインサイトが生まれます。

ただし、追加すると項目数が6つになります。仮に1つの項目に対して4分類できると、4の6乗で4,096通りのターゲットが誕生します。フィールドセールスを募集する際に、4,096通りのインサイトを作ることは、日々の採用活動において非現実的です。

しかし、そこまでやり切るのであれば、やり切りたい気持ちもあります。これはどうすれば良いのか?と考えていました。

2-2. インサイトの種類

あえて「種類」という単語を使います。そして、遠回りして説明します。

皆さまは、今の会社に入社した「理由」は何ですか?そして、前職を退職した「理由」は何ですか?これが本項でいう「種類」に該当します。

例えば、

  • 企業のミッションやビジョンに共感した(philosophy)

  • 企業のプロダクトが自分の興味関心にぴったりだった(product)

  • 面接でお会いした上司の人柄に惹かれた(person)

  • 前職よりも働き方に自由度を感じた(privilege)

  • スタートアップフェーズで働きたいと思っていたのでぴったりだった(phase)

  • 成長やチャレンジだけでなく、落ち着いたカルチャーの企業に転職したかった(culture)

  • 新しい業界で今後も成長する余地があり、エキサイティングだった(market)

これらの内容が「種類」に該当します。皆さんの現職への入社理由や前職の退職理由をいずれかに分類できるかもしれません。

本題に戻りましょう。

前項で説明したターゲット設定を細かく行った場合、「インサイトの種類」を明確にしないと、設定したインサイトを解決するためのメッセージングだけに終始してしまう恐れがあります。


3. 「魅力項目ごとにインサイトを設定してみる」という莫大な作業

これについて本気で向き合おうと思ったのは、2024年の6月ごろでした。当社では、これまでに複数回採用支援に関わった職種が58ほどあり、それぞれの職種を5つ程度のターゲットに分類しています。たとえば、バックエンドエンジニアのポジションでは、Web受託系企業出身、Webプロダクト(ベンチャー)企業出身、Webプロダクト(大手企業)出身など、同じバックエンドエンジニアでもターゲットによってインサイトが異なります。職種によってターゲットの数は異なりますが、58職種×5つのターゲットを単純に掛け合わせると、290パターンが生まれます。

その290のパターンに対して、当社が定義している魅力項目を10掛け合わせると、2,900のインサイトを作成することになります。また、ある職種のあるターゲットに対して、1つの魅力項目のインサイトが1つとは限りません。

たとえば、Webプロダクト(大手企業)出身の「職務内容(profession)」のインサイトが少なくとも3つ以上存在する場合、2,900に「3」を掛け合わせると、8,700通りのインサイトが生まれる計算です。

さて、どうしたものかと考えていましたが、この作業を実行してみることにしました。ただ、ここで一つ気づきがあったのです。

※ここから話が難しくなります。


4. 「魅力項目」を軸にしたインサイト設定をしてみて気づいたこと

結論から言うと、「魅力項目」を軸にしたインサイトは「職種横断」であることがわかりました。正確に言うと、職種横断であることもある、という表現が適切かもしれません。

たとえば、「philosophy」という魅力項目について。
これはミッションやビジョンについての項目です。ミッションやビジョンの捉え方は、「職種」や「ターゲット」が変わったとしても、大きく変動することはありません。たとえば、フィールドセールスの社員と経理の社員が自社のミッションやビジョンを語る場合、職種によって大きく捉え方が異なることはあまり良いことではないでしょう。なぜなら、職種によってミッションやビジョンを分けるわけではないからです(会社のミッションやビジョンの話をしています)。

一方で、「profession」という魅力項目について。
これは「職務内容」についての項目です。職務内容は当然「職種」が変わると大きく変動します。そのため、職種ごとにインサイトが異なることは理解できるのではないでしょうか?

なんとなく、本項でお伝えしたいことが理解できたかもしれませんが、「魅力項目」によって、インサイトは「職種によって変動するもの」と「職種によって変動しないもの」が存在することに気づきました。

1つだけグレーな話をしておきたいのですが、心の中でこんな問いが生まれた方もいらっしゃるかもしれません。それは、

「いや、けど、ミッションやビジョンについて、その達成について、体感しやすい職種とそうでない職種があるのではないか?」

ということです。

たとえば、ミッションやビジョンには少なからず「顧客」がステークホルダーとして紐付いていることが多いです。そのため、顧客に近い職種であれば、ミッションやビジョンの達成を体感しやすいポジションかもしれませんが、バックオフィスのポジションでは、そこまで体感できないかもしれません。そうなると、このphilosophyは職種によって「変動」するのではないかという問いに直面します。

「インサイトを設定する際の要素がまた増えるのか…」

と途方に暮れていたのですが、ここで一つ気づきがあったのです。

4-1. 魅力項目を軸にしたインサイトは、職種によって「尺度」があるだけなのではないか?

先ほどのphilosophyという魅力項目におけるインサイトの話を続けます。

仮に、顧客と接するセールスのポジションと、バックオフィスのポジションの2つが存在するとしましょう。セールスの方が顧客と接する機会が多く、ミッションやビジョンの達成に体感を持てるポジションだと仮定し、バックオフィスは顧客から少々遠いので、ミッションやビジョンの達成を体感しにくいポジションだと仮定します。

この場合、セールスとバックオフィスでphilosophyについてのインサイトの「違い」は発生するかもしれませんが、これは、

  1. 「全然違うのか?」

  2. 「そもそも種類が違うのか?」

  3. 「体感できる尺度が異なるのか?」

の3つのうち、どれが該当するのでしょうか?私の答えは「3. 尺度」だと思います。

ミッションやビジョンに対する共感度合いは社員個々にしかわかりません。ただし、顧客との距離感は職種によって異なることはありますが、「顧客との距離」がミッションやビジョンに対するインサイトを「極端に変えている」とは感じず、これは「尺度」の問題なのではないかと考えたのです。

※ここからさらに話が複雑になります。

ということは、philosophyに限らず、personやmarketなどの他の魅力項目も「職種」によって体感する尺度が異なるのではないか?

あれ、これは「職種」や「ターゲット」とはそこまで関係ない種類のインサイトなのではないかと感じました。

たとえば、フィールドセールスでも温厚で内向的な方もいれば、バックオフィスで攻めが好きで、顧客の前に積極的に立つ人もいるでしょう。それは「人」によっての違いであって、採用活動を行う立場として、ターゲットにおける細かい分類を議論するとキリがないのですが、「人」によって変動する要素があるという前提で話を進めると、「尺度」があるインサイトの魅力項目と、「職種が異なればインサイトが全く異なる」というインサイトの魅力項目がある、と感じたのです。

繰り返しになりますが、私たちが定義している魅力項目の中で「profession」は間違いなく職種やターゲットによってインサイトが大きく異なる項目です。一方で、「profession以外」は職種やターゲットによって多少の変動はありますが、これは「尺度」の違いが多く、「種類」が全く異なることはあまり多くないのではないかと考え始めました。


5. (続)「魅力項目」を軸にしたインサイト設定をしてみた

となると、私が気づいたこととしては、

◆職種やターゲットごとに大きくインサイトが異なる魅力項目
- profession

◆ターゲットごとにインサイトがそこまで変動しない魅力項目
- philosophy
- product
- person
- privilege
- phase
- culture
- market

このように分類できるのではないかという気づきが生まれました。

ただし、後者については「全職種、全く同じインサイト」というわけではありません。そのため、各職種によって後者の魅力項目の「表現の仕方」は変えるようにしています。しかし、前述の「8,700」ものインサイトを作成しなくても良いのではないかという気づきがありました。

では、改めて「魅力項目」を軸にしたインサイトを作成する場合、どのような分類ができるのかについて、もう少し探求してみることにしました。

5-1. 魅力項目ごとに「状態」を細かく設定してみた

ここで「状態」という言葉を使います。たとえば、ミッションやビジョンは各社によって「状態」が異なると思います。たとえば、

  • ミッションやビジョンがそもそも存在していない

  • ミッションやビジョンは存在しているが、絵に描いた餅になっている

  • ミッションやビジョンは存在し、認知されているが、共感・浸透していない

  • ミッションやビジョンは存在し、共感・浸透しているが、達成するロードマップが掲げられていない

  • ミッションやビジョンは存在し、共感・浸透し、達成するロードマップも明示されているが、達成できる人材が揃っていない

これらが「状態」として挙げられます。

これらを記載すると、気づかれる方もいるかもしれませんが、この5つの「状態」は、職種によって大きく変動するわけではないことが理解できるでしょう。これが前項で説明した「ターゲットごとにインサイトがそこまで変動しない魅力項目」ということです。

話を戻します。

そのため、ミッションやビジョンの「状態」は「企業」によって大きく異なりますが、これはターゲット設定における「職種」「年齢層」「業界(業態)」には大きく関係していないということに気づきました。

※次項で複雑な話をします。

5-2. 同じ会社にいるのに、同じ事実に触れているのに、「解釈」が異なる話

この話も興味深いので、ぜひお読みください。

少し遠回りして説明しますが、こんなことがありました。
私が採用支援に入っている企業さまで、同じ部署・同じ職種・同じグループで働いている2人のメンバーに個別でインタビューを取る機会がありました。すると、その2人が全く異なることを言っていたのです。「おかしいな」と思い、話を深掘りしていくと、以下のことがわかりました。

  • どうやらこの2人のメンバーは、ほぼ同じ職務内容で、同じミーティングに参加している

  • そのため、2人が触れている「事実」は同じである

  • 同じ環境にいるのに、同じ事実に触れているのに、2人の「解釈」の仕方が大きく異なっていた

ということです。

これには驚くと同時に、ものすごい可能性を感じました。

なぜ「可能性」という表現をしたのか?

なぜなら、ほとんど同じ環境で同じ事実に触れているのに、解釈が異なるというのは、一方が「嘘をついている」と捉えられかねない状況になっているということです。そんな中で、本ブログで説明している「ターゲット」や「インサイト」を議論することは健全なのでしょうか?同じ環境(会社)で働いていて、同じグループであれば、インサイトがほぼ同じでもおかしくない。しかし、現実にはここまで言っていることが違う。

これはもうお手上げではないですか?(笑)

とはいえ、私はHRの仕事を投げ出したりしないので、ご安心ください。ただ、その事象に直面し、「成人発達理論」に出会い、この問題を解決することができるようになったのは、私が38歳の頃でした(1年前)。本ブログでは成人発達理論の話はしませんが、この点で私の中で「可能性」がどんどん浮かんできました。

「なぜ同じ環境にいるのに、同じ事実に触れているのに、解釈の仕方が異なるのか?」

という問いに対して、適切な答えを持てないのであれば、HRに限らず、マーケティングやその他の分野においても、自分自身や相手(会社)の可能性を最大化することは難しいでしょう。

※話が逸れましたので戻します。


6. (公開)「魅力項目」ごとに設定した「インサイト(状態)」について

では、様々な魅力項目について、ある程度職種横断で設定できるインサイトを少しご紹介したいと思います。

インサイトの状態(philosophy)

これらの記載は、職種やターゲットを問わず、皆さまが体感しているインサイトの「状態」であるかと思います。これらは「転職理由」になる可能性がある内容の羅列だと思っていただければ幸いです。


7. (ここまでやるか?)もう少し探求してみました。

もはや、ブログを書くのが疲れてきたので、本項で話を終わらせたいと思いますが、ここでさらに別の課題が発生しました。それは、

「魅力項目ごとのインサイトの状態はわかったけれども、さらに分析できるのではないか?」

ということです。

  • ミッションやビジョンがそもそも存在していない

  • ミッションやビジョンは存在しているが、絵に描いた餅になっている

  • ミッションやビジョンは存在し、認知されているが、共感・浸透していない

  • ミッションやビジョンは存在し、共感・浸透しているが、達成するロードマップが掲げられていない

  • ミッションやビジョンは存在し、共感・浸透し、達成するロードマップも明示されているが、達成できる人材が揃っていない

これらは前述の通りですが、これらはphilosophyという魅力項目におけるインサイトを構成する「状態」を羅列したものに過ぎません。したがって、これらを「インサイト」として明確にする必要があります。そのため、これらを変換してみました。

philosophyのインサイト(一部)

個人的には、理想的な魅力項目別のインサイトがある程度完成したことに興奮しています。

ただ、まだ一つ探求が残っています。それは、

「この内容を、さらに『職種』という変数を加えて設計したらどうなるのか?」

本項で掲載した魅力項目ごとのインサイトの羅列について、これでも十分に戦えると思いますが、本ブログのどこかで説明しましたように、「初商談で通用するインサイト」の中でも、微妙にインサイトの尺度が異なる場合があります。そのため、やはりベストなのは、

「魅力項目×職種ごとのインサイト」

なのです。

そこで、UIデザイナーで試しに作ってみました。こちらを公開します。

UIデザイナーの魅力項目ごとのインサイト

これが究極系なのではないかと個人的には思っています。
ここまでこだわることができると、本ブログの冒頭で説明した、

「採用活動における求職者さまへのメッセージングの究極系とは何なのでしょうか?」

という質問への回答になるのではないかと思っています。


最後に

皆さんいかがでしたでしょうか。
※当社の採用/人事組織系支援にご興味がある方はお気軽にお声掛けください。

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