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私って何?私って誰?

あなたの生まれてから一番最初の記憶は、なんですか?

自分の小さい頃のことはほとんど思い出せないんですが、唯一妙にハッキリ覚えている出来事があります。

それは幼稚園の年少さんの頃。近所のスーパーの前、電車の線路沿いの道を祖母に手を引かれて歩いていました。

クリーム色のスヌーピーのカーディガンを着ていました。細いリブ生地で、エメラルドグリーンの模様が入っていたのを思い出せるくらいなので、お気に入りの洋服だったのでしょう。

なんてことない日常の一コマ。そこへ突然、こんな感覚が降ってきます。

私って、どこから来たんだろう?
「私」って、何?
「私」って、誰?

はっきりとは覚えていませんが、おそらく祖母に何か言われたからではありません。寡黙でほとんど口を開かない祖母と、おしゃべりすることはあまりなかったから。

その一瞬、なぜだか急に「私」という体がそこに存在すること自体が不思議に思えて、足元がふわふわおぼつかなくなって、体が急にふっと軽くなった、と思ったら…



ドブにはまりました。



正確に言うと、雪国特有の側溝に落ちたんですが。春先だったので、底に溜まった泥が乾ききっていない状態でした。

スヌーピー、べっちゃべちゃ。手も足も顔もぐっちゃぐちゃ。

うわああああーーーーん!って大泣きして、呆れ顔の祖母に引きずり上げてもらったことを鮮明に覚えています。祖母からしたら、普通に歩いていたはずの孫が何も言わずに突然溝に落ちたわけですからね、何なんこの子?って思ったでしょうね。

***

溝に落ちるくらい、意識のすべてを持っていかれた「疑問」。言ってみれば「私」という意識そのものに対する不可思議さなのですが、それをこんなに強烈に感じたのは、この時が最初で最後でした。

高校の頃に「ソフィーの世界」が流行って、哲学の雰囲気にちょっとかぶれていた時、

「私」という意識はいつから、どこからあるんだろう? そもそも「私」を認識するって、どういうこと?

なんて考えてみたことはあります。

でも、それはあくまで「思考」したもの。年少の私はもちろん、そんな風に筋道立てて考えることはできません。急に降って湧いた「感覚」でした。

いまここにあるはずの身体が急にふわふわと不確かなものに思えて、その中に入っている「私」という意識が身体から切り離されて。その瞬間、自分という視点が急にどこか遠のいて、あたかも宇宙の遥か遠いところから別の私が私自身を眺めているような。

記憶を辿って言語化しようと試みても、せいぜいこの程度で全然うまく表現できません。あれは一体何だったのか。今でも思い出しては狐に包まれたような気分になります。

あなたの一番最初の記憶、良かったら教えてください。


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