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詩の編み目ほどき② 三好達治「Enfance finie」
三好達治の詩の「編み目ほどき」第2回目。
最も初期の詩「Enfance finie」に、私は青年達治の漂泊願望の思いを読む。アレゴリーに満ちた表現の詩であるが、異郷を夢想する詩人の魂を感じ取れば、一見屈折して見えるこの詩もまた、司馬遼太郎が近代日本の人々の心情を表現した『坂の上の雲』のあとがきのことば
「のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶(いちだ)の白い雲がかがやいているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう」
に重なる思いの作品だと感じられる。
先ず元の詩はつぎのとおりである。
🔶 Enfance finie 三好達治
海の遠くに島が……、雨に椿の花が堕ちた。鳥籠に春が、春が鳥のゐない鳥籠に。
約束はみんな壊れたね。
海には雲が、ね、雲には地球が、映つてゐるね。
空には階段があるね。
今日記憶の旗が落ちて、大きな川のやうに、私は人と訣れよう。床(ゆか)に私の足跡が、足跡に微かな塵が……、ああ哀れな私よ。
僕は、さあ僕よ、僕は遠い旅に出ようね。
🔲 以下の詩は、私なりに「Enfance finie」の意味を翻案したものである。
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「Enfance finie」が収まる詩集『測量船』には、底流に漂うものがこの詩の主題と同じ作品がいくつもあると感じている。
象徴詩の技巧的な面が語られる『測量船』の詩篇であるが、若さゆえの、憂愁と情念とが渦をなした思いが生み出した詩が、時代を超える普遍性を持っていることを、『測量船』の最大の価値だと見たい。
それはさらに別の記事で語ろう。
令和5年5月 瀬戸風 凪
setokaze nagi