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024「貴方が好きな私」

 第二回目となる今回は、恋人好みになり続けようと自分を偽ってまで苦闘する、そんな女性を描いた歌。ただの恋愛ソングではもちろんなく、今回もあべまらしいひねりにひねられた歌詞。でも意外とシチュエーションとしてはリアル。だがこれを取り上げている歌は、類を見ない。それではいきましょう。

「貴方が好きな私」歌詞
作詞:阿部真央
作曲:阿部真央

わたしが貴方だけに染まるのを 貴方が嫌うから
前のめりで坂を転げないように 少し距離を置いた

 この歌の主人公は「わたし(私)」、そして男性であろう「貴方」。「貴方」は「わたし」が”貴方色”に染まることを嫌がっている。だから少し距離を置いて、転がり落ちないように身を守っている。

本当はその胸に飛び込んで泣きじゃくってみたいけど
貴方の好きな私は そういう可愛い子じゃないから

 でも本当は違う。胸に飛び込んで泣いたり、やりたいことはあるけど、それは「貴方」が好むような可愛い子じゃない。

自由なフリをしながら 孤独にのまれる夜に
隠れて涙して それでも貴方に愛されたくて

 いい付き合いだよ、「貴方」との関係に不満なんてない、自由だよ。
というフリを日々「貴方」の前ではしている。それがだんだんと辛くなり、孤独を感じる、涙を流すまでに。「貴方」に愛されるために、こんなにも辛くなりながら、「貴方」からの愛をもらえるならば、、、

「貴方が好きな私」が わたしを殺してく
終わりのない迷路を貴方の左手に引かれ行く

 「貴方が好きな私」と「わたし」はまるで違う。本当の私は「わたし」。胸に飛び込んで泣きじゃくりたい可愛い子。だけど「貴方」のために「貴方が好きな私」で現れる。これはまるで終わりの見えない迷路のようだ。「貴方」は私をどこへ連れていくの?

瞬きをするその度に今の私を焼き付けて
「貴方が好きな私」を今日も 上手に出来たわたしを愛して

 「貴方」に愛されるために、「貴方」が愛してくれるように、合わせているのよ?いいでしょ?私は今日も上手に「貴方が好きな私」になれてた?「貴方」に愛されたいの、だから、愛してよ。

もし貴方の言葉ひとつひとつをいつまでも忘れられずに
何も手につかなくなる程に思いつめたり
気に留めない素振りの裏側の 妬ける程の狂おしさが
本当のわたしだと知ったなら 貴方は私を捨てるかな?

 貴方の言葉はときどき、私を、他に何も手がつかなくなるくらい悩ませる。でも、自由なフリをしている。私は気に留めてないように振る舞うけど、本当は気に留めている。他の女の話かな、なんの話か分からないけど、「貴方」を妬んでしまう話をされると、狂おしくなる。妬けるほど。こんな「わたし」を知ったなら、「貴方」はどう思うだろう。捨てるのかな...

甘え方も知らずに 近づく事さえ躊躇させる
貴方にしがみついて わたしはどこへ行きたいんだろう?

 「貴方」が求めてくる「貴方が好きな私」でしか接することができない。自分から進みゆくことができない。「貴方」の求める「わたし」になって、「わたし」は何がしたいんだろう、辛いのに。どこに行きたいんだろう....

貴方の側に居る程に わたしが死んでゆく
やり場の無いこの寂しささえ 生まれてはいけなかった

 「貴方が好きな私」に近づこうと演じるほど、「わたし(=本来の私)」の首を絞めることになる。”らしさ”が死んでいく。辛い。でも「貴方」に愛されるためにはこうするしかないの。辛い。寂しい。こんな気持ち生まれてはいけないのに....どうすれば...

息をする度に酷い言葉で私をぶたないで
「貴方が好きな私」をきっと 上手にやり切るから、愛して

 息をする度だなんて、「わたし」がどれだけ辛い思いをしながら「貴方」と付き合い続けているかがよくわかる。直接、言葉の暴力を食らっているわけではないだろう。「貴方」が私に対して求めてくるそのすべてが、痛い、ぶたないで...私はその代わり、「貴方」からの愛を受け取りたいの...

ここから抜け出す術も 逃げ方も 知ってる でも 踏み出さぬ私が居る
暗闇の向こうから 貴方が呼ぶ
その声に身震いして それでも貴方に愛されたくて

 私はどうすればいい。この痛みから抜け出すにはどうしたらいい。そんな方法は誰よりも私が一番わかっている。いつでも逃げ出すことはできる。けど、踏み出せない。「貴方」からの愛で......この身が持つのならば。
 次はどんな言葉で「貴方」は「わたし」を傷つけるの?怖いよ。でも、「貴方」に愛され続けることができるのなら....

「貴方が好きな私」が わたしを殺してく
終わりのない迷路を貴方の左手に引かれ行く
瞬きをするその度に今の私を焼き付けて
「貴方が好きな私」を今日も 上手に出来たわたしを愛して

上手にやり切るから、愛して

 「貴方」に愛され続けることができるなら、「わたし」は「貴方が好きな私」を演じ続けるよ。これでいいよね?上手にやりきるからさ、愛してよ....


 歌詞中で、「わたし」「私」「貴方が好きな私」と使い分けていることに気が付いただろうか。普通に歌だけを聞いている時では、気が付かなかったことである。この「わたし」を救ってあげる方法はあるのだろうか。「貴方」からの愛がなくなったとき、「貴方が好きな私」も「わたし」もどちらも死んでしまうのかな。どうにかこの「わたし」に、迷路のゴールを示してあげてください....

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