GARO session works〔2〕~他アーティスト作品への客演、曲提供
◎リサーチ・リスト作成・文:高木龍太 / TAKAGI, ryuta
〔2:演奏参加+楽曲提供作品〕
◆森山良子『旅立ち/森山良子 1972~RYOKO NOW』(FX-6025)
1972.7.25<Philips / Nippon Phonogram >
*参加内容→日高富明(アコースティック・ギター、詞・曲提供、アレンジ)
*参加曲→A①「心の旅路」/A④「旅立ち」[作詞・作曲:日高富明、編曲:日高富明、柳田ヒロ]
*再発CD→PHCL8068(1994.11.26)/『旅立ち / 森山良子 1972~RYOKO NOW / ハートの10』TECH-29143/4(2006.9.27 ※アルバム2枚セット) ※配信あり
【作品概要】1960年代の学生フォーク・シーンを出発点に、次第にその枠に留まらないポピュラー・ヴォーカル的な幅広さを持つ実力派シンガーへと歩を進めて行った、森山良子。ガロとは縁の深かった、かまやつひろしの従妹でもある。本作は彼女が長女の出産などでの暫しの休止期間を経て発表した復帰第一弾のアルバム。ガロから日高富明が参加しており、楽曲提供および、演奏、アレンジを手掛けている。
復帰作=心機一転ということもあってか、英題に“RYOKO NOW”とあるように、彼女にとって新たなサウンド・アプローチを全面に押し出した、意欲的な姿勢の窺える一枚。具体的には当時のトレンドである海外のシンガー=ソングライター系の作品を意識した音作りといった感があり、特に多くの曲でスワンプ・ロック風味の、アーシィな薫りを漂わせているのが印象的だ。その一方では曲によってはほっとさせるソフトロック的なものもあったりと、緩急ある構成ともなっている。プロデュースは本城和治、エンジニアはマッシュルームでのガロの作品も手掛けた吉沢典夫(黒田典夫)。
レコーディングはジャケット見開きに記載のクレジットによれば1972年4月15日から6月7日にかけて行われ、日高のほか、細野晴臣、鈴木茂、加藤和彦、つのだひろ、柳田ヒロ、深町純、大野克夫、村井邦彦、瀬尾一三、重実博など、当時のアルファ/マッシュルーム系人脈も多く含むロック、フォーク系のミュージシャンが集結。
選曲は日本語オリジナルと英語による洋楽カヴァーを半々収録するというものであり、オリジナル曲は日高、加藤、瀬尾、小室等、村井らが書き下ろし曲を提供したほか、森山自身の作曲も1曲。併せて収録された洋楽カヴァー曲は、ブレッド、レスリー・ダンカン、キャロル・キング、レオン・ラッセル、ヴァン・モリソン(「Crazy Love」をリタ・クーリッジのヴァージョンで)といった、やはりSSW系の楽曲ばかりが選ばれている。
【参加曲詳細】本作への日高の関与は計2曲。まず、アルバムのタイトル曲となったA④は作詞・作曲が日高、編曲が日高、柳田ヒロの共同名義というもの。日高らしい切々としたドラマティックな構成の、好バラード作品。CS&N風の雰囲気も漂わせつつ、メロディにはA&Mポップスあたりからの影響もほんのり薫らせ、それらをうまくブレンドした洒落た仕上がりとなっている。
そして歌詞カード記載のクレジットによれば、日高は同曲とA①(作曲:瀬尾一三)でギターもプレイ。特にA④でのアコースティックのソロは一聴してすぐに彼とわかる日高得意のCS&Nタッチのそれで、ファンにとっては思わず頬のほころぶものとなっている。
◆小林啓子『かなしみごっこ』(SKD-1011)
1972.12.25<Pop shop / King>
*参加内容→ガロ(コーラス)/堀内護(ギター、詞・曲提供、アレンジ)/日高富明(ギター、曲提供、アレンジ)/大野真澄(詞・曲提供)
*参加曲→A①「やさしい朝の歌」/A②「やさしい風の歌」/A④「雨あがり」[作詞:高橋信之、作曲:日高富明、編曲:日高富明、高橋信之]/B①「かなしみごっこ」/B②「酒びたり人生」[作詞・作曲:大野真澄、編曲:高橋信之]/B④「トンガリ帽子の赤い屋根」[作詞・作曲・編曲:堀内護]/B⑤「私の歌よ(愛の終わり‥…)」
*再発CD→VSCD-3729(2003.6.20) ※配信あり
【作品概要】小林啓子もまた、1960年代半ばの学生フォーク・シーンを出自に、その枠に留まらない独自の道を歩んできた女性シンガー。1970年代初頭にはラジオ番組のパーソナリティや、NHKの人気音楽番組『ステージ101』へのレギュラー出演、広川太一郎とコンビを組んでのNET『23時ショー』の司会などの幅広い活躍でも知られた。
その後、プライベートの優先から4年ほど芸能活動を休業することになるが、その直前に音楽面で力を入れて制作された作品が、セカンド・アルバム(ビリー・バンバンとの共演企画盤を除く)となる本作である。
その内容は、洗練と清新さが強く感じられる、非常に洋楽的なアコースティック・ロック系作品であり、さらに言うなら、以降のニューミュージック~シティ・ミュージックの芽吹きのひとつと言えるもの。同時期の国内のマッシュルーム・レコード、ベルウッド・レコード、ショーボート・レーベルなどのリリースとも共通する志を感じる、先進性にあふれた、今日の耳にも新鮮なポップな音作りが展開される、注目すべき一作だ。
制作の中心となったのは当時の伴侶でもあり、デビューから近年に至るまでの彼女の音楽活動を随所でバックアップしている作・編曲家、プロデューサーの高橋信之。
クレジットはないものの信之が実質のプロデュースを手掛けたようであり、またほとんどの曲でのアレンジも担当。加えて信之の実弟・高橋幸宏(DS、曲提供)と小原礼(B)のリズム隊コンビを中心に、デビュー直後のBUZZ(Chorus, G)や荒井由実(Piano/表記は新井由美)、まだ無名だったジョージ吾妻(G/本作が初レコーディングとのこと)、さらに小坂忠とフォー・ジョー・ハーフ(バンド演奏および曲提供)、かまやつひろし(G、曲提供)、そして、ガロの堀内護・日高富明・大野真澄(G、Chorus、楽曲提供)など、信之・幸宏兄弟の周辺人脈だった、錚々たるミュージシャンたちが集結。そのアルバム作りをサポートしている。
特にガロのメンバーは本作で全13曲中、半数を越える7曲もの曲に関与しており、参加曲の数は幸宏・小原(11曲参加)やBUZZに次いで高い。その関与の度合いから、ガロのセッション参加作の中でも、とりわけファンにとって聴き逃すことのできない一枚ともなっていると言えるだろう。
アルバムの音作りは前述の通り、全体にアコースティック・ギターなどの生楽器の柔らかなトーンを基調とするが、時に大胆にフィリー・サウンドを取り入れていたり、先鋭的なロック・サウンドへのアプローチも試みていたりと、アイデアも豊富で、ポップかつ野心も感じられるもの。さらに詞においても現代詩を思わせる新鮮な表現(実際、茨木のり子の詩も取り上げている)が見られるなど、“洋楽サウンドと日本語”の可能性を探るような、様々な実験を試みた跡が随所から感じられる。
そして何より、曲調、参加ミュージシャン、楽曲提供者も複数に渡りながら、全体には凛とした空気が貫かれており、不思議と統一された手触りとなっているのが見事だ。そこには当時、ヒット作「ケンとメリー」(BUZZ)などCMソングの世界を軸足に、独自のスタンスで新たな時代のポップ・サウンドを模索していたであろう、高橋信之のアレンジャー、プロデューサーとしての目線というのもやはり大きく影響していたように感じられる。
さりげなくもたしかな芯を感じさせる小林のヴォーカル(自作もある)を軸として、高橋兄弟をはじめとする当時の若きミュージシャンたちの創造力が“あふれ出る瞬間”もが真空パックされた感もある、充実した、聴き応えのある作品と思う。
【参加曲詳細】前述の通り、このアルバムでガロのメンバーは演奏と楽曲提供の両方で関わり、計7曲がガロ関与の楽曲となっている。
まずざっと概要を確認しておくと、オリジナル盤添付の歌詞カードに掲載されているクレジットによれば、ガロとしてコーラス参加した曲が1曲(A①)。ギターでは堀内が4曲(A①、A②、B④、B⑤)、日高が5曲(A①、A②、A④、B①、B⑤)に参加。堀内はピアノでも1曲(B④)参加している。このうち、A④は日高、B④は堀内の提供曲であり、さらに演奏にはノータッチのようだが、B②が大野の提供曲となっている。
残念なのは“ギター”とクレジットされている曲がアコースティックなのかエレクトリックなのかについて明記がなく、詳細不明となっている点だが、聴こえてくる音から判断する限りでは、ガロのメンバーがエレクトリックを演奏していると思われるのはB⑤のみ(後述)で、残りはすべてアコースティックのようである。
それら演奏のみ参加の曲に耳を傾けていくと、出色なのはなんといってもやはり、冒頭を飾るA①(作・編曲は高橋信之、A②、B⑤も)だろう。ここで聴けるのはガロ本体のレコードでもなかなか聴けないほどの、じつに透明感あふれる、瑞々しいアコースティック・サウンド。たった一か所だけに挿入されるガロ3人によるコーラスも鮮やかの一言であり、聴く人の耳をこのアルバムの世界へとグッと誘うに充分な、素晴らしい仕上がりの楽曲となっている。
続くA②は前曲と連作になっているが、こちらでもストローク中心ながら、ガロの初期アルバムと同様の質感のあるアコースティック・サウンドが味わえる。ただし、このA①とA②では堀内・日高のほかにこの2曲の作曲者でもある信之自身もアコースティックを弾いているとあり、聴こえてくるフレーズのどれが誰によるものかは細かには判断し辛い。
アルバム・タイトル曲B①はかまやつひろし作曲(作詞は詩人の酒井チエ、編曲はかまやつと信之の連名)。CS&Nを意識したのだろうか、組曲風にバラードからロック調へと、大胆に移り変わるのが興味深い。この曲もかまやつ、日高のふたりがアコースティックを同時に弾いているようだ。
B⑤ではアコースティックと、前述の通りエレクトリックの音が聴こえている。この曲にギターで参加しているのはクレジットを見る限り堀内と日高のみであり、つまりどちらもガロのメンバーによる演奏である。
そしてガロの提供曲の方に注目してみると、日高によるA④は彼の得意とするメロウな感覚が出た、小粒ながら忘れ難い、爽やかな佳曲。高橋信之が手掛けた朝の空気の薫りと新たな一歩を感じさせる詞や、クラシカルなストリングス・アレンジとも相性がいい。演奏面では日高がアコースティック・ギター、信之がピアノ、ベースは小原、ドラムは幸宏が担当。コーラスは作者である日高自身のガロではなく、あえての選択だったのか、BUZZのふたりに任せており、この組み合わせも面白い。
堀内のB④は曲名から想起されるように、どことなくグラハム・ナッシュの「僕達の家」あたりを思わせるピースフルな小品。演奏は堀内がアレンジ、アコースティック・ギターとピアノ、小原がベース、幸宏がドラム。堀内がレコーディングでピアノを弾いた例は数少なく、その意味でも貴重なセッションだ。なお、コーラスは<BUZZをはじめ小林啓子とメンバーそしてスタッフとそのお友だち>とあるが、堀内やガロのメンバーの参加の有無は不明。
最も個性的な印象の大野作のB②はこれが初出で、のちにガロの1974年発売のアルバム『サーカス』でもセルフ・カヴァーという形で取り上げられた曲。ユーモラスでノスタルジックな、ジャズ風のこの小品はガロのほかの二人にはない大野ならではの切り口だが、当時の彼はニルソンやハリケーン・スミスのレコードなども愛聴盤に挙げていたことがあり、こうしたオールドタイミーな感覚も、その辺りから刺激を得たものだったのかもしれない。ここではクラリネットをフィーチャーしたスロー・スウィングなアレンジで、リズム隊は小原・幸宏となっている。
◆かまやつひろし『あゝ、我が良き友よ』(ETP-72033)
1975.4.1<Express / Toshiba>
*参加内容→堀内護(曲提供、ギター)/日高富明(曲提供、ギター)
*参加曲→A②「道化役」[作詞:松本隆、作曲:日高富明、編曲:今井裕]/B②「男の部屋」[作詞:安井かずみ、作曲:堀内護、編曲:高中正義]/B④「何とかかんとか」[作詞:安井かずみ、作曲:堀内護、編曲:高中正義]
*再発CD→TOCT-5786(1991.8.28)/UPCY-40005(2018.9.19)ほか多数 ※配信あり
【作品概要】同年2月に発表され、オリコン1位を記録するビッグ・ヒットとなった「我が良き友よ」を収め、こちらも好セールス(4位)を記録することになった、かまやつひろしの著名なアルバム。
「我が良き友よ」が吉田拓郎の作であったように、細野晴臣、大瀧詠一から、荒井由実、井上陽水、南こうせつに至るまで、当時、かまやつと親交のあったフォーク、ロック系の若手アーティストからの提供曲を多く含んだ、十人十色なアプローチが詰め込まれた内容。だが、かまやつのいずれの作品もそうであるように、彼が歌えばそこには“ムッシュ”としかいいようのない味わいが生まれている。そんな中、かまやつとはデビュー以前からゆかりの深いガロのメンバーも書き下ろしの曲をプレゼントしており、日高がA②を、堀内がB②、B④を作曲している。
また本作は裏ジャケットに参加ミュージシャンと思われる面々の名前がSpecial Thanksとして羅列されているのみで、どの曲にも演奏者の個別のクレジットが一切書かれていないが、当時インタビューでかまやつ自身が述べたところによれば、日高、堀内の提供曲に関してはふたりともレコーディングにも参加している、とのこと。作業は堀内の作品の方が1974年の11月に、日高の作品は12月に行われたということも語られている。ただし担当したのはギター、としか触れられておらず、具体的なパートについては残念ながらよくわかっていない。
【参加曲詳細】A②は作者の日高本人も気に入っていたというビターで感傷的なメロディのバラードで、ソロ時代のライヴでは自身でも歌ったことがあったもの。松本隆の詞も上手くマッチしている。1982年には日高と親交のあった杉田二郎も「片想ひ」と改題してカヴァーしシングル発売しており(のちにアルバム『虹のメッセージ』にも収録)、またTHE ALFEEの坂崎幸之助も近年、自身のラジオ番組では度々話題にし、自らも歌い継いで行きたい曲だと発言するなど、隠れた人気がある曲だ。
かまやつのインタビュー発言を信じれば、全編に登場するアコースティック・ギター、間奏などで登場するジョージ・ハリソン風のエキゾティックなエレクトリックのスライド・ギター、これらの演奏のいずれかが日高によるもののはずだが、その詳細については先に述べた通り、断言できる資料が見つけられていない。
堀内の提供曲はどちらも彼が得意としたオールディーズ・ムードのある作品で、B②はしみじみと聴かせるロッカ・バラード調、B④は「おお、キャロル」や「ダイアナ」のような、心弾むダンサブルなリズムのナンバーとなっている。B②ではアコースティック・ギターが、B④でもこの手の曲ではおなじみのミュートしたスタッカートのエレクトリック・ギターが聴こえるが、これもどれが堀内の担当した演奏なのかは証言がない限り、判別が難しいかもしれない。また、B②では女性コーラスに混じり、エンディングで男性によると思しきコーラスも聴こえる気がするが、ひょっとして堀内も参加していたりするのだろうか。
本アルバムには前述のようにクレジットがないが、歌詞カードの裏側には見開きでスタジオ内のミュージシャンの姿を捉えたスナップ写真が散りばめられており、これは後年のかまやつの発言によれば、彼自身がポラロイドでレコーディング・セッション中に撮ったものであるとのこと。その中にはエレクトリック・ギターを携えた日高の姿や、堀内、さらにスタジオに遊びに来ていたらしい大野の姿も見つけられる。
なお、A面最後に収録されている「TOWER OF LONDON」という曲は、作曲・編曲=かまやつとなる、インタールード的な短いインストだが、これがどことなくCS&N風とも言えそうな、開放弦の響きが心地好いアコースティック・ギターがメインのナンバーとなっている。ともすれば堀内か日高がなんらか関わっていてもおかしくない曲調ではあるが・・・そのあたりはどうなのだろうか。
〔3:楽曲提供作品〕
◆加橋かつみ『パリII』(FX-8608)
1973.1<Vertigo / Nippon Phonogram>
*参加内容→堀内護(曲提供 ※堀内麻九名義)/日高富明(曲提供)
*参加曲→A①「夕陽の空」[作詞:加橋かつみ、作曲:日高富明、編曲:クリスチャン・シュバリエ]/A③「水色の世界」[作詞・曲:堀内麻九、編曲:ジャン・クロードリック]/A⑤「この広い世界」[作詞:加橋かつみ、作曲:堀内麻九、編曲:ジャン・クロードリック]/A⑥「ある夏の終りに」[作詞:加橋かつみ、作曲:日高富明、編曲:クリスチャン・ゴベール]/B③「貴方がいなくなった」[作詞:加橋かつみ、作曲:堀内麻九、編曲:ジャン・クロードリック]
*再発CD→PHCL-8072(1994.11.25)/UPCY-6265(2006.10.4)
【作品概要】元ザ・タイガースであり、そしてガロ結成の大きなきっかけとなった、ラヴ・ロック・ミュージカル『ヘアー』日本版の主演のひとり、中核的存在であった、加橋かつみ。本作は彼のサード・ソロ・アルバムで、タイトルは1969年のファースト『パリ1969』以来、2度目のパリ録音作であることに由来する。このアルバムに堀内護、日高富明があわせて5曲の楽曲を提供している。
本作の発売は1973年の1月(レコード会社総目録)とかなり後になってからだったが、レコーディング自体は1972年の半ば時点での加橋の雑誌での発言によれば、“1971年の年末”にすでに行われていた、とのこと。つまり時期的にはガロがレコード・デビューした直後の仕事であり、これがガロのメンバーによる初の他アーティストへの楽曲提供例ということになる。堀内はこのアルバムでは『ヘアー』出演時と同じ〈堀内麻九〉の名義を用いている。
初のパリ録音とジャン・クロード・プチの力作アレンジで評価の高いファースト『パリ1969』や、デビュー前の荒井由実が楽曲提供した国内録音のセカンド『1971 花』といった前2作に比べると大きな話題性がないためか、加橋の初期アルバムのなかではいまひとつ、注目度が低い感もある本作だが、これもまた全体にパリ録音らしいエレガントな空気を纏った、心地好い仕上がりの良質のポップ・アルバムである。ジャケットに採用された印象的な猫のイラストレーションは加橋自身の筆によるもの。
【参加曲詳細】堀内の提供曲は3曲。A③はガロが1971年の夏頃にレコーディングし、11月にアルバム『GARO』の中ですでに発表しており、厳密にはカヴァー、あるいは競作とすべきだろう。逆にA⑤はガロが1972年の10月に発表したシングル「涙はいらない」の原曲と言えるもので、録音は加橋の方がはるかに早い。ガロの「涙はいらない」では堀内自身が新たに別の歌詞を付け、さらにサビのメロディを追加し、盛り上がりのある展開に仕上げている。B③は3曲中唯一、ガロによるヴァージョンのない書き下ろし曲。メランコリックな旋律にパリ録音らしさがよくマッチした、独特のポップな仕上がりだ。個人的には夏の夕暮れのパリをひとり歩くような、そんな情景がなぜか浮かぶ(実際の歌詞にはそのような描写はないが)。アレンジのクリスチャン・ゴベールはフランシス・レイとの仕事で知られる人物。
日高の提供曲は2曲ともまっさらの書き下ろし。アコースティック・ギターをフィーチュアしアルバム冒頭を飾るA①は、ガロ・ファンの耳にも親しみやすいものだろう。日高の持ち味のひとつである感傷的なメロディが美しい良曲であり、加橋の歌唱と相俟って、胸に響く。ワルツ調のA⑥も、小粒ながらメロウな味わいのメロディが沁みるようで、心地好いものだ。
◆BUZZ(バズ)「朝 b/w 夏の空」(BS(L)-1666)
1973.4 <London=Pop shop / King>
*参加内容→大野真澄(詞提供)
*参加曲→A①「朝」[作詞:大野真澄、作・編曲:高橋信之]
*収録CD→『BUZZ』KICS-91808(2012.8.22)ほか ※配信あり
【作品概要】高橋信之がプロデュースを手掛けていたヴォーカル・デュオ、BUZZのセカンド・シングル。A面曲「朝」の作詞を大野真澄が手掛けた。同じく信之が作・編曲を手掛け、大きな注目を浴びた前作シングル「ケンとメリー(愛と風のように)」のフォローアップとなった佳曲で、同時発売の彼らのファースト・アルバム『BUZZ』のA面トップにも収められている(SKD(L)-1013)。初期のガロが信之や実弟の高橋幸宏をはじめ、BUZZ周辺と近しい関係だったことからの作品提供だった。
【参加曲詳細】ガロ本体以外でメンバーの詞・曲がA面に起用された、初のシングル作品でもある。そうしたこともあってか大野自身も愛着があるようで、2004年4月16日に六本木STB139スイートベイジルで行われた単独ライヴ「自画像~セルフポートレイト」のほか、何度か自身のステージにおいても取り上げている。
◆左とん平「とん平の酒びたり人生 b/w続・東京っていい街だな」(3A-124)
1974.6? <Trio>
*参加内容→大野真澄(詞・曲提供)
*参加曲→A①「とん平の酒びたり人生」[作詞・作曲:大野真澄、編曲:村岡健]
*収録CD→『とん平のヘイ・ユウ・ブルース』ALCA-5028(1995.1.25)ほか ※配信あり
【作品概要】俳優・左とん平が、話題となった歌手デビュー曲「とん平のヘイ・ユウ・ブルース」に続いてリリースした2枚目のシングル。プロデュースはガロと同じくミッキー・カーチス(レコード・ジャケットにはカーティスと表記)。A面曲「とん平の酒びたり人生」が大野の作詞・曲。もともと1972年12月に小林啓子のアルバム『かなしみごっこ』に提供された曲であり、その後、作者の大野自身も1974年5月リリースのガロのアルバム『サーカス』で取り上げた「酒びたり人生」と同曲である。厳密に言えばカヴァー作品として別枠で取り上げるべきものだが、後述の理由から準提供作と見做し、ここで取り上げる。
【参加曲詳細】同じくミッキーが手掛けた前作「ヘイ・ユウ・ブルース」は本格的ジャズ・ファンク調の演奏に左のトーキング・ブルース風のヴォーカルが絡む、という現在の耳にも刺激的なものだったが、この「とん平の酒びたり人生」もバック・トラックはやはり充実したもの。
編曲者でもあるサックスの村岡建(ガロの「学生街の喫茶店」の印象的な間奏も彼のもの)、ドラムの村上ポンタほか、当時の国内のトップ・スタジオ・ミュージシャンたちが演奏に参加した堂々たるビッグ・バンド・ジャズのサウンドを背に、左が悠々と自慢の歌声を披露している。小林版、ガロ版と比べても音数も多く、最もインパクトの強い、ゴージャスな仕上がりのヴァージョンだ。
ちなみにこれら3つのヴァージョンの「酒びたり人生」だが、アレンジが異なるのはもちろん、ジャズ風の楽曲という性格上、節回しや歌詞もそれぞれ若干崩して歌われている。歌手ごとのその解釈の違いを聴き比べるのも一興かもしれない。
なお「酒びたり人生」については前述の通りガロ版のリリースが1974年5月。左版は1974年6月のリリースであり、単なるカヴァーというよりは、競作的な扱いだった、といっていいだろう。当時の雑誌では、この曲を巡って左とガロの3人による異色対談も掲載されたことがあった。
◆浅田美代子『美代子の新しい世界~浅田美代子オリジナル・セカンド・アルバム』(ECLL-5)
1974.9.1<Epic>
*参加内容→日高富明(曲提供)
*参加曲→B④「わたしと私」[作詞:浅田美代子、作曲:日高富明、編曲:田辺信一]
*再発CD→『美代子の新しい世界 / この胸に この髪に』DQCL-782/3(2020.1.27 ※ソニー・ミュージック・ショップ通販限定)
【作品概要】現在でも女優として活躍する浅田美代子の1974年のアルバム(通算5作目)に、日高富明が楽曲提供で参加。それまでの浅田のアルバムは筒美京平などの職業作家が手掛けた曲やカヴァー曲が多かったが、そこから離れ、かまやつひろし、加藤和彦、吉田拓郎、佐藤公彦など、当時フォーク系と目されていたミュージシャンからの書き下ろしプレゼント曲で統一する、というのがこのアルバムの趣旨だった。
【参加曲詳細】本作では浅田自身が全10曲中4曲の作詞を手掛けているが、B④はその内のひとつ(詞先か曲先かは不明)。1970年代の人気女性アイドルのひとりであった浅田のヴォーカルやキャラクターを念頭においてか、どことなくフレンチ・ポップ風の雰囲気を思わせる、愛らしいメロディの小品となっている。
〔4:未商品化提供作品〕
◆西城秀樹「ラレーニア」
*参加内容→ガロ(詞提供)
*収録CD→なし(未商品化)
【参加曲詳細】当時レコード化はされていないが、1973年にガロがドノヴァンの「ラレーニア」の日本語詞を作り、テレビ番組などでの共演を通じて親交のあった西城秀樹にプレゼントしたことがある。この話は当時の『週刊セブンティーン』誌において“秀樹とガロの意外な友情”と紹介されたことがあった(1973年9月4日号)。
同記事によれば、日本語詞は大野真澄を中心に、堀内護、日高富明がアイデアを出し合い、共同で手掛けたもの、とのこと。誌面にはその日本語詞も載せられているが、クレジットは“ガロ作詞”となっている。同年7月23日・24日に名古屋・御園座で行われた西城のリサイタルで初披露されたとのことで、その後の一時期、西城のステージにおいてこの歌詞で取り上げられていたことがあったようだ。
文中敬称略
主要参考文献(文中で触れたもの以外):各レコード会社総目録、1970年代音楽誌、週刊誌、新聞各紙など
Special Thanks:大野真澄、堀内護、GARO FAN PAGE Members
©POPTRAKS! magazine / 高木龍太