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わたしを励ます旅先ごはん



生活がルーティン化していると感じたとき、少し遠くへ行きたくなる。此処ではない何処か、というやつ。

生活圏の中でお気に入りの場所が見つかって、行きつけになる。それはそれで嬉しいことだけれど、生活が“いつもの”だけで繰り返されるとちょっと退屈に感じちゃう。

涙するほどではない。でも凄くもやもやすることがあったとき、落ち込んだ気持ちが浮かび上がってこないときほど厄介だ。涙に変換できたなら良かったけれど、ぐるぐるぐるぐる 消化できないまま。そんなとき、わたしは自分を慈しみたくなる。まずはわたしがわたしを大事にしてあげようって、そう思う。


そうしてわたしは、生活圏から飛び出すのです。えいやっと、思い立っては扉を開け、“いつもの”がない場所へと駆け出すのです。

すると不思議なことに、噛むたびにもやもやが晴れるような、飲み込むたびにすーっと何でも許せるような、食べ終わる頃にはむくむくと元気が湧いてくるような、おいしいごはんに出逢うのです。

そんな旅先で出逢ったおいしいごはんとお店の方々に感謝の気持ちを込めて、この記事を書きます。



1. 落ち込んだわたしの駆け込みカフェ
テールベルトとカノムパン(北鎌倉)


紫陽花が咲く季節、東京での仕事を終えたわたしは、その週末も関東で過ごすことにしていました。されどあいにくの雨模様、それではそれが風情となる場所へ行こうかと思ったら、真っ先に浮かんだのは鎌倉でした。

いや、鎌倉は訪れたことがあるから、ひとつ手前の駅で下車して北鎌倉に行ってみよう。ということで、はじめて北鎌倉へ降り立つことにしたのです。少し調べてみると、北鎌倉にはかつて駆け込み寺と呼ばれていたお寺がありました。その名も東慶寺。女性からの離婚が許されなかった時代に助けを求める女性がやってくる場所だったそうです。

まずは此処に行こうかとわたしが決めた理由は、当時ちょっぴり落ち込んでいたからで。自暴自棄になりかけの心ごと駆け込んだなら、その静けさでどうにか暴飲暴食に走りそうな自分を落ち着かせられるだろうかと考えました。更に調べると縁切り寺とも書いてあって若干怯みましたが、関東に来ることもあまりないので深く考え過ぎず行ってみることに。



少し心がスッとしたところで、やはりお腹が空いてきたことに気付きます。でも暴飲暴食には走らないぞと心の中で宣言し、ランチの場所を探し始めました。Instagramアカウントを持っていないので、周辺のお店を探すときはGoogleMapで現在地周辺に表示されたものの中から本当に直感頼りで行きたいお店を選びます。この時もそうでした。

気になったお店は此処からまだ20分ほど歩くらしい。湿気がむわんむわんなこの季節。果たして歩けるだろうか…でも一度気になっちゃったなら行くっきゃない。そうして足を進めました。

軽く山を越えて辿り着いたお店は、なんと素敵なカフェ&パン屋さん。イートインは履き物をぬいで2階へ。そこは秘密基地めいたすてきな空間。注文を済ませ、本を読みながら待っているところに現れたプレートを目にすれば、声を漏らさずにはいられませんでした。


まるで自由に絵の具が置かれたパレットのように豊かな彩り。じめっとしたグレー色の空も心も、一瞬で晴れやかになる。目から栄養補給が出来ちゃいます。

そしておいしい。オシャレとおいしいは両立出来るんですね。オシャレな味でありつつ、しっかりおいしい。お野菜とハーブの組み合わせが素晴らしくて、よくもこんなに名コンビばかり生み出せるもんだな〜と、ひと種類ずつ食べる度に驚きと感動が止まりませんでした。

色鮮やかで目にも楽しいし、異なるお野菜の食感と様々なハーブの香りも面白い。色彩、香り、食感、そして味。それらを楽しんでいる内に、自分が落ち込んでいたことをあっという間に忘れていました。

1階に降りて、こちらのパンを買って帰ろうと数品選びました。袋詰めしていただいている間に口を慎んでいられなくて、「お料理凄くおいしくて、元気でました!」とお伝えすると、「嬉しいです。その言葉でこちらが元気になりました!」とお返してくださいました。

落ち込んだわたしの駆け込みカフェ。わたしが駆け込むべきだったのは、お寺ではなくカフェだったようです。持ち帰った変わり種カンパーニュは個性的でおいしかった。そしてお店のフライヤーはわたしのお部屋のインテリアとなりました。

こういうのだいすきだ



2. もちもちごはんがもやもやを消し去る
鹿の船 竈(奈良)


予定がなくなってしまった。久しぶりのお出かけだったから、前日からうきうきしていて。うきうきの行き場がなくてどうしようかな〜と思いながらゆっくり家事をしている頃には11時。

奈良、行きたいなぁ。奈良には心残りがあるのです。

1年前、春日大社の鳥居をくぐってから出逢う鹿すべてに立ち止まり反応していたら、本殿に到着する前にレストランの予約時間が近づき参拝出来なかったということがありました。そこからずっと春日大社に御詣りしたいと思いつつ出向けていませんでしたが、最近その奈良欲が再熱し始めていたところ。

これから準備をしたら出発はお昼前になっちゃうけど、電車で行けるし行っちゃおうか。そんな感じで春日大社参拝を目的とした day trip in Nara が決定しました。


さて、遅めのランチはどうしようか。下調べ皆無で出てきたので、行きの電車内で調べようと思い、noteを開きました。そして「奈良」と入れて検索。巡り合ったのは、あをそめ.さんのこちらの記事。(すばらしいとっておきをありがとうございます!)


竈ごはんに、土地のもの。こんなの絶対食べたいな。こんなの絶対好きだもんな。わたしはいくつも記事にもするほどパン屋さんが好きですと謳っておきながら、元気が足りてないと感じるときに身体が欲しがるのは専らお米なんですよね。駅から15分程歩くらしいけれど、その分落ち着いていそうだし。電車を降りて直ぐにそちらへ向かいました。


店内には立派な竃。メインはお野菜の天ぷらかアジフライだったのですが、わたしは天ぷらをチョイス。セルフサービスですと告げられた副菜はどれもおいしそうで、うきうき度は上昇する一方です。

副菜を持ってテーブルに戻る頃に運ばれてきたのは、ご飯、天ぷら、お味噌汁。一目見れば分かる。君たち、きっといいチームなんでしょうね。


ご飯はふっくらもちもち。噛めば噛むほどにおいしくて、やはりお米は元気の源だなと思わずにはいられない。稲作を始めてくれた人々よありがとうの気持ちです。

メインのお野菜天ぷらも、ひとつひとつが主役で、脇役なんていなかった。お茄子は衣の食感と風味が面白かったので後で店員さんに質問してみると、その回答も面白くて驚きでした。

副菜も、ぜんぶぜんぶおいしかったなぁ。お野菜同士の組み合わせが面白い。蓮根のきんぴらしか作らないわたしは、まさか牛蒡とトマトが一緒にきんぴらになる世界線があるのかと驚きました。

お料理には奈良県内で育てられた、製造されたものがたくさん使用されているようでした。素敵だなぁ。こんなにおいしいお料理を作れることも、作物を育てられることも。そんなことを考えながら、ごちそうさまですと両手を合わせました。

実はこの日も日々蓄積されてしまったもやもやを抱えていたのですが、そんなものはもちもちご飯を噛んでいくうちに、どこかへ消えていってしまいました。お米パワー、そして奈良パワーにすっかり満たされたランチでした。


この後、無事に春日大社参拝もできました。

空を撮ろうとしたところフレームインしてきた鹿様



3. 風に吹かれてゆったりやさしいランチ
棚田テラス 籾庵(岡山)

実家に帰省した際、母が棚田カフェに行きたいと突如言い出したので早速予約してみました。その頃、わたしは波が途切れることを知らない仕事に疲弊しており、ゆったりと脳を休ませたいと思っていました。

此処は岡山県、久米南町。車を走らせ(父が)辿り着いたのは、棚田空間。わたしも初めて目にする景色でしたが、風が吹き抜けるテラスから棚田を眺めていると、脳がバカンスしているような感覚になりました。秋桜は風に揺られ、アゲハ蝶も遊びにやって来ます。


そんな素敵すぎる場所でいただく、おにぎりセット。お野菜たっぷりのお味噌汁に、自家栽培された大豆で作られたお豆腐とおから。やさしい味付け。これは間違いなく身体が喜びます。それはもう大喜びです。「胃腸歓喜」、そんな四字熟語さえ思い浮かびました。


所謂メインとされるものがないな、と思われるかもしれません。天ぷらもハンバーグも唐揚げも、焼き魚もない。でも安心してください、お腹いーっぱいになります。もちもちのお米とたっぷりのお野菜をよく噛むことで、しっかりとお腹が満たされます。お味噌汁の中には、まだいたの?と驚くくらいお野菜がたくさん入っていました。

こんなに素敵な景色を眺めながら、こんなにもおいしくて栄養満点のランチを食べることができる。身体にいいものを食べることは、自分を大切にすること。それをしっかりと体験できるランチでした。

頭も心もゆったり出来て、此処でカフェを開いてくれてありがとうの気持ち。岡山県魅力度ランキング、棚田カフェでひとつ上がっちゃうと思うなぁ。



心と身体はつながっていると言いますが、本当にそうだなと思います。良いときも悪いときも、どちらかがどちらかに引っ張られます。

心に元気がなくなってしまったとき、わたしに必要なのは、旅とごはんです。

旅先で出逢う、おいしいごはん。

そのやさしさが、ぬくもりが、落ち込んだ心を励ましてくれる。気付けば悩んでいたことも忘れちゃうくらい、お腹も心も満たされている。おいしさの余韻に浸りながら、帰路につく。

その土地のおいしいものを食べることで、元気をおすそわけしてもらっているような気持ちになります。そんな旅先ごはんがあるから、明日からまた始まろうとしている“いつもの”だって、輝くのです。

旅先ごはんよ、ありがとう。
ごちそうさまでした。




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風音 ぽっぽ
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