アルバイトの職分
台湾からの留学生がアルバイトを始めたと言ってきた(わたしは日本語教師をしている)。ゲストハウスで受付業務が主だが、時間帯によってはクリーニングもするらしい。このところの外国人観光客の増加に伴う宿泊施設の建設ラッシュのためか、ホテルやゲストハウスでの求人が増えているようだ。
留学生のアルバイトの上限時間は1週間に28時間。これを守って、かつ学業に支障が出ないのなら、日本語学習のためにも日本社会経験のためにもアルバイトは大歓迎だ。日本語学習歴は1年足らずだが、中国語も英語も堪能なその学習者なら、即戦力になるだろう。
ふと、わたしも学生時代に宿泊施設でバイトをしていたのを思い出した。そこは、オーナーが常駐しておらず住み込みのバイトが一人。わたしは通いのバイトだったが、住み込みのバイトが休みで不在のときは、一人で任されることがあった。
そんな時に困ったのが、外国人観光客のクレーム対応。何かあったらオーナーに電話をして対応してもらうことになっていたが、それまでの間をカタコトの英語でなんとかしなければならない。
英語が伝わっているかが不安なのが多分にあるのだが、それ以外にも、
「わたしのお客様への説明が不十分だったのかな」
「何かもっとうまい対応があったのではないか。」
など、たとえそれが「イメージしていた部屋と違うからキャンセルさせてくれ」という申し入れだったとしても、気に病んでしまってしんどい思いをした。
そんなことをその学習者に話すと、
「部屋のイメージが違うのは先生の問題じゃない。それは会社の宣伝の問題でしょ?それは先生には関係がないと思います」
との答えが返ってきた。
単純明快
「そ、そうですね…」
言われればそう。それはそうなんだが、そうじゃない空気があの当時あった気がする。お客様に不快な思いをさせてはいけない。もしそうなったとしても、自分がなんとかしなければならない。たとえ、それが自分の仕事以外でも立場がアルバイトであっても。そんなプレッシャーがあった。
飲食店でアルバイトをしていたときも、社員に近い仕事を任された。わたしはそれにやりがいを感じたし、まわりのアルバイトもそうあるべきだと思っていた。お客様のために、店のために、やれることは全部やろう、さ、みんな一丸となって!絵に描いたような熱血アルバイター。
今から思えば、面倒くさいやつと思っていた同僚もいたかもしれない。自分の目的があるし、ペースもあるのに。
でも、自分のやるべきことはやって当たり前で、それ以外にどのぐらい会社に貢献したかというところで価値を見出されていた気がする。いかにバイト同士でコミュニケーションをはかって、新人に教えて、店が回るようにするとかいうこと。
募集要項には一言も書かれていないマネージャー的役割が自然に任されていく。ほんの何十円か時給があがるだけで。
今はどうなのだろう。
この手の話に明るくないが、ヨーロッパやアメリカのように、職務で評価される働き方になっているのだろうか。業種によっては成果で賃金が支払われ、スペシャリストが育っているイメージがある。でも、そうではない昔ながらの企業文化が根付いている会社もまだまだあるんじゃないかと思う。
どちらがいい、悪いと言いたいわけではない。
でも、日本の企業に就職した外国人に聞く「専門じゃないこと、自分がやりたくないことやらされるんです」という声があるのも事実。
「せっかく仕事を覚えたと思ったら、すぐやめちゃって。」という企業の声もある。これは外国人に限ったことではないけれど、「北海道に住みたいから会社辞めて北海道に行くよ」というような、住む場所で仕事を変えるような人もいる。
マッチングの問題と言えばそれまでだけど、マッチング云々の前に互いをできる限り知ることが大切なんだと思う。息をするように普通だと思っていることが、意外に普通じゃないことが多々あるんじゃないかと思う。
ちなみに、件の学習者とは立ち話だったのでここまでの話はできなかった。一度話してみようかな、と思っている。