【短編小説】 地下鉄とふしぎの感覚
式の準備といいますか、軽い打ち合わせのようなものをするために、わたしは式の1日前に東京にやってきました。せっかく東京へ足を運ぶのだから、観光をしたり買い物をしたりするべきだったのかもしれません。わたしも出発前日まではそのつもりでいました。けれども、前日の夜に、床について薄暗い天井を見つめていたらみるみると気持ちが萎んでいったのです。どういうわけか、自分でも理解することができませんでした。わたしは、新幹線の指定席を予約していたのですが、結局それはつかわず終いでした。在来線を乗り継いで、5時間近くをかけて東京に到着しました。日はすでに傾き始めていました。東京に到着するとわたしはすぐさま打ち合わせのために、銀座へ向かいました。銀座へ向かうなら銀座線に乗ればいい、と田舎者のわたしはひとつ覚えにしていたのですが、残念なことに、東京駅には銀座線は通っておらず、スマートフォンのアプリケーションに従って、ひとつ、ふたつと乗り換えるうちにあっという間に——わけもわからないうちに——自分が銀座の地に立っていて驚きました。おまけに、電車はほとんど地下を走っておりましたから、移動している感覚もなく、なんだかわたしはふしぎな感覚に囚われたような気持ちになりました。それは乗り物酔いの感覚とひじょうに近くもあり、一方で遠くかけ離れた感覚でもありました。とりあえず、わたしは薬局に立ち寄って、酔い止めの薬を手に入れました。一緒に買った水と、ともに口に含んで、勢いよく飲み下しました。それから数時間後、少なくとも打ち合わせの間中はいくらか気分は晴れやかになりましたが、打ち合わせを終えてホテルへ向かうために地下鉄に揺られるとなるとまた気分は悪化しました。
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