『花・flower・華 2024』
ぎりぎり開期に間に合いました。
玄関脇の実物の桜はもう散ってしまいましたが。
山種美術館の企画展では、いつも1点だけ撮影可になります。
今回、その1枚は、ポスターにもなっていた奥村土牛の『醍醐』。
101歳まで生きた土牛の83歳のときの作品です。
今更説明するまでもありませんが、京都・総本山醍醐寺の「太閤しだれ桜」がモチーフ。
いつか制作したいと思いつつ、長い間思いがまとまらなかったところ、完成に至ったのは、師である小林古径の七回忌の帰り、醍醐寺に寄ったときに見た桜のおかげだとか。
小林古径とは同居していたし、強い師弟関係で結ばれていたのですね。
このふわあああっとした桜、春以上に春を感じます。
ある花びらは100回以上重ね塗りをした由。
なのにこんな淡い色が?
花びらを接写。いわゆる琳派の花の形ですね。
地面に散った花びら、遠くからでは見えるか見えないかの淡い色ですが、実はこんなに厚ぼったい。
醍醐寺の境内にある「太閤千代しだれ」
こうして見ると、花のボリュームも幹の太さもだいぶデフォルメされていることがわかります。
特に幹の存在感はすごいですね。
何色も使って、何重にも重ねて塗られています。
さて本日、私が見たかったメインはこちら。
『八ツ橋』 川端龍子 山種美術館蔵
この春、美術館をはしごした、木島櫻谷の『燕子花図』、尾形光琳の『燕子花図』そしてこちら川端龍子の『八ツ橋』。
それぞれの燕子花を見比べてみたかったのです。
あくまでも私の好みですが、川端龍子の『八ツ橋』が一番好きでした。
理由はただパッと見た印象ですが、しいていうなら、一番生気を感じたから?
そして。
メトロポリタン美術館所蔵の、尾形光琳作『八ツ橋図屏風』はどれほど素晴らしいんだろう、思いを馳せました。
ちょっと他所様からお借りします。
『八橋図屏風』尾形光琳 メトロポリタン美術館蔵
伊勢物語第九段「八ツ橋」の場面ですから、間を通っているカクカクしたものは、橋です。橋なのか木管なのかわからないほど、最大限に意匠化したのだと思います。
しかし川端龍子はこれをさらに意匠化したのですね。川端龍子の思い切りよさったらすごい。
この構図は尾形光琳が初めてというわけではなく、伝統的な図のようです。
福田平八郎『牡丹』2曲1隻 山種美術館蔵
こ、これは美しい、絶句。
中国・宋代の院体派の花鳥画を感じます。
しっとりしていて妖艶。
竹内栖鳳『梅園』山種美術館蔵
まるまるとしためじろと、ぽちっとした梅が文句なく可愛い~。
和紙を漉くときに銀色の砂子を入れているそうで、角度によってはキラッと輝きます。
『椿ノ花』 速水御舟
一瞬、不安定な構図に見えます。
しかしこの形、どこかで見た気が…。
折り鶴に似ていませんか?
日本人にとっては安定して感じられる構図なのかもしれません。
『四季花鳥』荒木十畝
荒木十畝は、先日、練馬区立美術館で拝観した池上秀畝の師。
画面を覆い尽くすかのような花や樹木、そしてどの画面にも鳥がいます。
一度も修復していないのにこの鮮やかさ。
この大きさが画面ではお伝えできないのが残念です。
縦は183.5センチですが、掛け軸ですから2倍近い。
美術館を建てるとき、この作品が入るように考慮して、今の天井の高さになったそうです。
さて、ちょっとした疑問
小林古径の絵は色がなにしろきれいで、好きな画家のひとり。
ではあるのですが。
どうも気になるところがあります。
『白花小禽』 小林古径 山種美術館蔵
花に対して、鳥が小さすぎる気がします。
もしこの比率があっているとしたら、花が大きいのか、鳥が小さいのか。
おそらく別々の場所で写生したものを、一緒の画面に表したのではないかと思うのですが。
『蓮』小林古径
大輪の2本の蓮の重なり具合。
すこしこちらを向いた蓮が手前にあり、背の高い蓮が一番奥にあるように思われます。
それなのに、2つの花びらは、奥のほうが手前に来て重なっているのです。
ああ、違和感。
小林古径も、当然セザンヌの影響は受けていたと思いますが、写実よりも内面的なものを重視したのでしょうか。
山種美術館が主催する公募展「Seed 山種美術館 日本画アワード」の受賞作2点が展示されていました。
『素心蠟梅』重政周平
絵でも文学でも音楽でも、私は古典的なものに惹かれるのですが、今の絵ってすごいんですねえ、形の忠実さを保ちながら、装飾的で幻想的。
どういう技法で描いたのかもわかりません。
『唯』長谷川雅也
最後に着物生活普及活動。
本日の着物は、田能村直入の『百花』 にあやかって、いろいろな種類の花を散りばめた小紋です。
帯と帯留めも、花。
田能村直入の『百花』
藩主の命によって100種の花を描いたそうですが、圧巻でした。
一緒に行った友人も着物です。
桜の色に合わせたピンク。
友人はすらっとしているので、色無地が似合うー。
山種美術館は着物で行くと200円引きになります。
<カバー写真>
上村松園『桜可里(さくらがり)』
桜狩はお花見のことです。
桜狩を桜可里と表記したのは、万葉の文字を意識してのことでしょうか。
他にもお花見の絵があったのですが、そちらでも、女の人が桜の枝を持って歩いていました。
昔は「桜折るばか、梅折らぬばか」という言葉はなかったのかしら。
あ、桜を手折るから、桜狩なの?
しかし上村松園の絵のきれいなこと。
筆のタッチがまったくない、このなめらかーなお肌。
最後までお読み頂きありがとうございました。
<参考資料>
山種美術館HP
https://www.yamatane-museum.jp/