担当編集が検証! セラピードッグで歯医者は怖くなくなるのか!?~新刊『犬のまほうのはいしゃさん』~
皆さんは「セラピードッグ」をご存じでしょうか。ケガや病気に苦しむ人、心のケアが必要な人に寄り添って心身を癒し、活力を与えてくれる犬たちのことです。
この度、実在するセラピードッグ「ちにた」の活躍を描いたノンフィクション読み物が刊行されました。タイトルは『犬の まほうの はいしゃさん ―「ちにた」が いれば こわくない―』。そう、ちにたの活躍の場は小児歯科、つまり子ども達のための歯医者さんなのです。
著者は児童向けノンフィクションの名手・今西乃子先生。歯医者さんにやってきた子ども達が、ちにたや仲間の犬たちに励まされて怖さを乗り越えていくお話です。
ちにたは、子ども達と一緒に診察台にあがってくれて、治療のあいだ、ずっとおなかの上にいてくれます。子ども達は、おなかの上のちにたをなでているうちに、いつの間にか治療が終わっているのです。
編集を担当した記者も、昔は歯医者さんが怖かったクチ(歯科だけに)なので、そんな素敵な歯医者さんがあったなら通いたかった。せめて、ちにたさん(女の子です)におなかの上に乗ってもらう経験をしたかった!
――いや、乗ってもらうだけなら、いまからでも遅くないのでは⁉
という訳で、本のモデルになった茨城県の「パレットデンタルクリニック」さんを訪ねてみました。
作中にも登場する、クリニックの鈴木伸江(のぶえ)先生にご相談すると、
「子ども達の予約が入っていない午前中なら」
とのこと。たしかに、子ども達は学校に行ってますもんね。
(※取材は夏休みに入る前でした)
お邪魔してみると、クリック内にはすべり台や大きなぬいぐるみなど、子ども達が喜びそうなものがいっぱい! これも、できるだけ子ども達にリラックスしてもらうため、ということなのでしょう。
伸江先生にご挨拶をして、できあがったばかりの本を見ていただきます。もちろん、編集段階で内容に間違いが無いかチェックしていただいてはいますが、本の形になったものをご覧いただくのは初めてなので緊張します。
先生にも喜んでいただけました。ご期待を裏切らずに済んだようで一安心。
そうとなれば、いよいよ「ちにたさん体験」です。
本に掲載する写真を選んでいる時にも思いましたが、ちにたさんの毛並みはいつもきれいに整えられています。
じつはちにたさん、クリニックに来るときにはシャンプーや爪切り、歯磨きやトイレも済ませて、衛生面は完璧にしているとか。大勢の来院者さんを迎えるためのケアに抜かりはないのですね。
そういえば、ちにたさんはクリニックに来ない日は、何をしてるんでしょうか?
「診療は火曜日だけだけど、じつはそれ以外の曜日も医院にいるの」
と伸江先生。先生と一緒が好きなのでしょう。
そして驚いたのは、セラピードッグとして働く合間に、「アジリティー」の訓練もしているそうです。アジリティーとは、犬版の障害物競争のような競技。飼い主さんの合図とともにハードルやトンネル、シーソーが設置されたコースを駆け抜けていく姿を、動画などでご覧になったことがある人もいるんじゃないでしょうか。
あれを、ちにたさんもやる、と。しかも大会で入賞経験もある、と。
多才すぎますね。
そんなお話を伺いながら、診察室に通していただきます。
それでは、治療する時の感じでお願いします。
診療台に横になる記者、形だけとはいえ、歯医者さん自体けっこう久しぶりなので緊張します。
それでも、横たわった記者の足の間にちにたさんが入ってくれると、じんわりと体温が伝わってきて、たしかに少し落ち着きます。
「こういう感じですね」
といって、記者の口に治療器具(あのキィーン!というやつ)を差し入れてくださる伸江先生。
「で、こう」
と吸引器具を添えてくださる衛生士さん。
なかなか真に迫る体験です。久しぶりな事もあって、少し……いや、けっこう……怖いな。
もちろん、治療器具の電源は入っていないので怖がる必要など何もないのですが、小さな頃の記憶がよみがえるというか、妙に不安感が高まります。
でも、ある意味では、子ども達の気もちを、身をもって味わえているのかも! ここで、ちにたさんを撫でれば、怖さを乗り越えられる、というわけですね。
と思ったものの、ここでちょっとした問題が発生します。
記者の胴が長く手足が短いからか、ちにたさんが体を丸め気味の姿勢をとっているからか、ちにたさんをなでようとした手は空を切るばかり。思ったよりしっかり口をホールドされているので、体をずらして手を伸ばすこともできません。たしかに、実際の治療中に身じろぎされたら危ないですもんね…。
期待から急転直下の空振りに、記者の動揺はピークを迎えます。いや、これ怖い。怖いです。
「大丈夫ですか?」
と聞いてくださる先生に、治療器具を突っ込まれたまま
「あいおうぅえふ(大丈夫です)」
と答えたものの、すみません、本当はかなり怖いです。
じたばたと手を動かす記者を見かねたのか、衛生士さんが声をかけてくれました。
「ちにた、もう少し上にしましょうか」
「あいおぅ……おえあぃいあふ(お願いします)」
恥をしのんでお願いすると、足元でもぞもぞと動く気配がして、手に触れるものがあります。おお、つやつや、むっちり。ちにたさんの体です。きれいに整えられた毛並みの、なんとも言えずなめらかな手ざわり。そして意外としっかり体重を感じます。聞けば、ちにたさんは8キロ超。アジリティーをやっているだけあって、ぎゅっと締まった筋肉の心地よい重みを感じて安心感があります。
安心感、そう、怖さが薄れてきたのです。
これは効いてる!
こうして、セラピードッグちにたさんの実力が、たいへん深く身に染みたのでした。お邪魔した甲斐がありました。
伸江先生、クリニックの皆さん、ありがとうございました。
衛生士さんに
「歯医者さん、怖いですか?」
と声をかけられる記者。たいへん恥ずかしく気まずいですが、これはある種の振りととらえ、こう答えさせていただきます。
「ちにたがいれば、怖くないです」
というわけ(?)で、『犬の まほうの はいしゃさん ―「ちにた」が いれば こわくない―』には、今回ご紹介した記者の醜態とは比べ物にならないくらい心温まるエピソードが満載です。
夏休みの読書にも最適ですので、よろしければぜひ一度お手に取って、ちにたさんの本来の活躍をご覧になってみてください。
(文/担当編集 勝屋圭)
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