オレンジ色のキツネに出会った。『いのちの木』――絵本を思い出すところ#18
絵本の中の風景へ想いを巡らすとき、それを手にした幼い頃の記憶もまた、絵本の思い出の一部になっていく――そんな「絵本を思い出すところ」を編集者とカメラマンが探していきます。
朝起きて、一番はじめにするのは
植物に水をあげること。
息苦しい日常に、
少しずつ集めた植物たちが
寄り添ってくれる。
つい最近、本屋さんでオレンジ色の
キツネに出会った。
その日に、家に連れてくることにした。
ソファに座って、
出会ったばかりの絵本の
ページをめくる。
キツネは、ゆっくりと瞼を閉じて、
その目は二度と開かなかったんだって。
やがて、オレンジの木が生えた。
この木が大きく育つたび、
みんなの悲しみは軽くなったんだって。
ふと、窓辺を見ると、
絵本とそっくりな
オレンジの木が伸びていた。
これまで自分が別れた、
何人かの大切な人のことを考えた。
別れた人たちが残した物に囲まれて、
自分の毎日は続いていく。
日の光を浴びた植物のように、
大切な人との記憶も、
ゆっくりと大きく育ってゆく。
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『いのちの木』 作・絵/ブリッタ・テッケントラップ 訳/森山京
ある日、森の中で旅立ってしまった一匹のキツネ。森の動物たちは悲しみに暮れていましたが、思い出を語り合ううちに、キツネの横たわっていた場所からオレンジの芽が生えてきました。芽はやがて、大きな木になり、キツネの仲間をやさしく包みこむ、みんなの生きる支えとなりました。
命のあたたかさを描いたイギリスの絵本に、児童文学作家の森山京さんが美しい日本語訳をつけました。静けさを感じると同時に、鮮やかな色彩がいつまでも心に残る珠玉の作品です。https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/2730037.html
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(文・編集/齋藤侑太 写真/白井晴幸)
ポプラ社 齋藤侑太
1985年、茨城県生まれ。2012年、ポプラ社入社。営業職、社内デザイナー、幼児向け書籍の編集を経て、2020年から絵本の編集を中心に担当。
白井晴幸
東京都生まれ。2010年、多摩美術大学卒。作家として活動する傍らカメラマンとして本の装丁や風景、建築などを撮影している。≪Website≫