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読書感想文におすすめ! 楽しく読めて心動かす本を、児童書の編集者4名が選びました!

夏休みがはじまりました!
夏休みといえば、海水浴に虫取り、絵日記に、読書感想文
大人になったみなさんも、読書感想文の思い出はたくさんお持ちなのではないでしょうか。

そして読書感想文といえば、本選び
課題図書もおすすめですが、他にも読んでみたいなあと思っている方に。または童心に帰って、子どもの本をこの夏、読んでみたいと思ったあなたに!
今回は、4名の児童書の編集者が、おすすめ本を紹介します。

編集者の視点から、子どもたちが共感でき、お話の世界を存分に楽しんで、いろんな感情を刺激する作品を選びました。お話のあらすじはもちろん、こんなふうに書いてみたら? というアイデアもご紹介しています。

よろしければ参考に、のぞいてみてくださいね!


*****小堺加奈子おすすめの本*****

夏休みは、あついあつい民話を読もう!

三ねんねたろう(小学校低学年・中学年 )

文・おおかわえっせい
絵・わたなべさぶろう

 △見ているだけで眠気をさそう表紙

暑いですね。エアコンのきいた家の中でまったり過ごすに限る、と思っている小学生に私がおすすめする一冊は、『三ねんねたろうです。
 
 この絵本、まいにちまいにち、ぐうたらぐうと寝てばかりいるものぐさ男の話、なのですが……、

△寝ているようにみえて、いろいろ考えているのかしら…

こうなったのもあるきっかけが。
彼は病気の母親を看病しながら、だれよりも早く田畑に出て、だれよりも遅くまで働いていた男なのです。しかし、かんかんでりが続き、川のない村に、野菜や米はいくらがんばっても育ちません。村の人たちは、毎年毎年、雨が降りますように、と神頼みするもむなしい結果。 

△雨乞いの祈りもむなしく…

そのうち病気の母親は「いまちっと おこめのごはんがたべたいのう」と言ってぽっくりなくなってしまうのです。
 
それからというもの、ねたろうは「ああ おら はたらいても はたらいても、だめなんやなあ」と言ったかと思うと、ただひたすらに、寝るのです。村の子どもたちがちょっかいを出しても、お役人が年貢を取り立てにきても動じず、ごろごろごろごろ。

△子どもたちのちょっかいにも動じないねたろう。

ところが3年と3ヶ月が経った秋祭りの日に、ねたろうはむっくらと起き上がり、となり村を越えてごうごうと音を立てて流れる川まで歩きます。そして川を指を差し、「ここに水があるがな」と言うなり、水を引くための道を掘り出したのです。 

△「ここに 水が あるがな。」というシンプルながら強い言葉。

この民話では、寝ているときも、用水路を掘り出したときも、村の大人たちは笑ったり呆れたりして誰も相手にしないのに、子どもたちは常にねたろうのことを気にかけているのです。そしてお役人にも動じないねたろうのすごさに気づいていくのです。
 
そのうち大人もだまって見ているわけにはいかず、ついに用水路が完成。ねたろうのおかげで、その後の村には、毎年お米や作物が穫れるようになり、
ぐうたら男が、一躍ヒーローになったというお話。

△民話で知る灌漑農業のしくみ

この絵本は、山口県の厚狭(あさ)に伝わる民話が元になっていますが、全国にこのような「ねたろう」話がいくつもあるそうで、絵本の最後には、「となりのねたろう」というもうひとつの民話も収録。
同じ題名でも、その土地土地で語られる内容が異なる、というのも民話の魅力ですね。地域ごとの「ねたろう」物語を夏休みに調べるのも、楽しいかもしれません。
 
大人になった私は、ねたろうがはじめからぐうたら男だったわけではなく、心が折れた理由があったことに、共感せずにはおれませんでした。
 
願うばかりでは、前に進まないということ。
そして、一歩前に進むには、人それぞれの充電期間が必要だということ。
民話は、現代に生きる私たちにも、たくさんの気づきを与えてくれます。
 
この夏休み、ぐうたらぐうとしながらも、小さいことからでもやりたかったことを行動にうつしてみてはどうでしょうか! ねたろうのように。


*****高林淳一おすすめの本*****

主人公のように新しいことにチャレンジ!

キワさんのたまご(小学校中学年 )

作・宇佐美牧子
絵・藤原ヒロコ

ついに始まった夏休み。どんな風に過ごそうかと、わくわくして眠れない人、いつも会ってた友だちに会えなくなるからさみしいと思ってる人、せっかくの休みなのに家族が休めなくて、どこにも行けずつまんないなと思ってる人…。
いろんな人がいると思いますが、夏休みという時間は、みんなに平等に流れていきます。どうせ過ごすなら、じっとなんてしていないで、何か新しいことをしてみませんか?

この本の主人公サトシも、友だちがサッカーを始めたので、夏休みに一緒に過ごすことができずにいました。
つまらない夏休みが始まろうとしたその時、お父さんの仕事について行った先で、運命的な出逢いをします。それは、素敵な女の子……、ではなく、なんと「まぼろしのたまご」。なにが幻かというと、数が少ないので、お手伝いをしないともらえない。働かざる者食うべからず、ということでしょうか?

サトシは、まぼろしのたまごを一口食べたくて、養鶏場を営むキワさんのお手伝いをはじめました。
キワさんの畑や養鶏場でお手伝いするうちに、毎日当たり前のように食べていたきゅうりなどに、新しい発見をしていきます。つまらないはずだった夏休みの毎日が楽しくなっていく様は、読んでいる人の気持ちも不思議と明るく、そして新しいことをしたい気持ちにさせてくれます。

思い返しても、夏休みが終わって再び会えた友だちが、すごく変わってびっくりした経験って、一度くらいしたことがあると思います。それは、きっと自分だけが同じ場所に取り残されて、知らないうちに友だちが先を歩いている、そんな焦りと寂しさが混じった気持ちだったように思います。

サトシも、ある日友だちの颯太から自分の知らないサッカーチームの話をされて、戸惑ってしまいます。しかし、遅刻してせっかくの試合に出られなくなった友人をみて、サトシはキワさんのことろに誘います。
そこでサトシは、キワさんの畑はサッカーのように明確な勝ち負けなどの目標がある世界ではありませんが、サッカーと変わらないくらい、大切なことを教えてくれることに気がつきます。そうして焦りや寂しさが消えていく場面は、読んでいる人に新しいことに挑戦したい気持ちの背中を押してくれるように感じます。

作中、きわさんの印象的な言葉が出てきます。

「重くなったらおろすこった。がんばって運ぶことも、思いきって下ろすことも、同じくらい大事だよ」

これは、スイカを運ぶサトシにかけた言葉ですが、これから生きていく中で、悩んだ時に幾度となく思い出すのだろうと思いました。
そして、生きていく中でなにかを背負いすぎて重たく感じたなら、それはきっと誰かのために頑張りすぎている時かもしれない。そんなときは、決して無理をしすぎず、ときには重たいものを下す勇気も大切だと教えられた気がします。つまり周りの人を愛することと同じように、自分も愛することができる、そんな人になりたいと気付かされた作品でした。 

せっかくの夏休み。出かけることで、普段と違う体験をすることも、すごく楽しいと思います。でも、お家にいたって、読書を通して、空を飛んだり、ドラゴンを倒したり、新しい友だちをつくったり、まぼろしのたまごに出会ったりと、新しい経験をすることが出来ると思います。
是非、夏休みはこれまで読んだことのなかったお話を読んでみてはいかがでしょうか。読み終わったとき、外がすっかり暗くなった窓に映った自分の顔は、きっと夏休み明けに出会った、あのちょっと成長した友人と同じ顔をしているかもしれません。 


*****上野萌おすすめの本*****

この夏、こんな仲間たちと出会いたい!

ニレの木広場のモモモ館(小学校高学年)

作・高楼方子
絵・千葉史子

小学5年生のモモ、モカ、4年生のカンタの3人。それまで存在すら知らなかった3人が、公園の催し物の集合に遅れ、ニレの木の下で出会ったことから物語ははじまります。

児童館の職員さんの勧めもあり、3人は一緒に壁新聞を作ることに。壁新聞といえば、大きな模造紙に油性マジックでひたすら文字や絵を描き込んだ記憶がありますが、3人がつくる壁新聞は一味違います。

児童館の工作室を借りて(ここがまた、画用紙や道具を自由に使えるすてきな場所なのです!)、3人の名前を冠した「モモモ館」という名前をつけ、館の「窓」や「扉」を開いて記事が読める仕掛けまでつけました。

この新聞の記事を書くために、取材へ出かけることから3人の冒険が広がっていきます。

仲間とアイデアをだしあって、ひとつのものを作り上げるわくわく感、それだけでも十分魅力的なお話ですが、リツやコータという仲間が加わることで、「モモモ館」の記事は深みを増し、意外な縁が繋がっていきます。

迷子のキュウカンチョウを探したり、大胆な替え玉作戦をしたり、ついには警察が追いかけている「大泥棒」まで関わってきて…!?

「壁新聞づくり」という一つの目的のもと、どんどん広がっていく物語。本当の仲間に出会う喜びや街の人々との温かい交流が描かれる中に、謎解きの要素も加わって、物語を読み進める楽しさがつまったお話です。

自分ならどんな記事が書けそうか?
記事にどんな絵を描きたいか?
誰にインタビューをしてみたいか?

この物語を読むと、モモ・モカ・カンタたちの仲間になった気分で、いろんなアイデアが湧き上がってくると思います。それに何より、「壁新聞」を自分もつくってみたくなること、間違いなし! 子どもたちにはぜひ、こんな仲間と出会う経験をしてほしいと思わずにはいられません。

時間がたっぷりあって、挑戦しがいのある夏休みにおすすめな一冊です。


 *****林利紗おすすめの本*****

悲しみを、想像力の力で乗り越えていく成長物語

エミリーとはてしない国(小学校高学年・中学生)

作・ケイト・ソーンダズ
訳・田中奈津子
絵・北見葉胡

キーワードは「死」「想像力」「自分を取り戻す」「悲しみ」

主人公エミリーは姉を亡くし、家の中はすっかり暗くなってしまいました。幼なじみとはぎくしゃくしていて、入学したばかりの中学校はまだ好きになれません。
ある夜、亡くなった姉の部屋をのぞいてみると、ベッドの上に小さな光るテントがあって、中からペンギンとクマのぬいぐるみが出てきました。ペンギンはヒューゴ、クマはスミッフィーという名前で、想像の国スモカルーンという別の世界からやってきたというのです。

姉が大好きだったクマのぬいぐるみブルーイと、姉もそこにいると知り、エミリーは会いにいきたくてたまりません。やがてヒューゴとスミッフィーが現れるのみならず、他のおもちゃたちも動き出すなどエミリーの日常生活の中に、想像の世界が入り込んできて「不思議の国のアリス」のようにおかしなことがつぎつぎ起こります。

姉の「死」を受け入れられない主人公エミリーが、想像の国の住人であるぬいぐるみたちのとの交流と、仲直りした幼なじみと新しくできた友だち、近所の骨董店のオーナーとの(ちょっと想像の世界が混ざった)現実世界での冒険を通して、本来の明るい自分を取り戻し、悲しみを乗り越えていきます。
「人間は死ぬけれど、愛と物語と想像力は死なない」というメッセージが込められた作品です。
読書感想文を書く時のヒントとして以下、ご参考にしていただければと思います。

・黒いヒキガエルの正体はなんだったのか
・友だちが家族を亡くしたことを知ったら、どう接するか
・大切だったおもちゃやぬいぐるみについて思い出す
・幸せな思い出について考える
・想像力を使うにはどうしたら良いと思うか
・悲しいできごとに自分だったらどう立ち向かっていきたいか

この物語は「ナルニア国物語」「はてしない物語」「ふしぎの国のアリス」「クマのプーさん」といった名作や、その著者とシェイクスピアについての知識、映画「トイ・ストーリー」についても知っていると、より楽しめます。共通点がどこかなど比較してみるのも良いと思います。

また、物語にたくさん登場するクマのぬいぐるみたちのモデルを探してみるのも自由研究としていかがでしょうか。
(シュタイフやメリーソートなど伝統あるテディベアをぜひチェックしてみてください。このキャラクターのモデルはこの子かなと想像してみるのも楽しいと思います)

(文/ポプラ社児童書編集グループ 高林淳一・小堺加奈子・上野萌・林利紗)

☆ご紹介した本はこちら!


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