谷川俊太郎・訳『はな とったの だれ?』刊行記念! 子どもの本専門店さんに聞く、谷川さん作品の魅力とおすすめの楽しみ方!
ユーモアあふれる翻訳絵本『はな とったの だれ?』が、2023年10月に刊行されました。
翻訳をしてくださったのは、詩人の谷川俊太郎さん。鼻をなくしてしまったゾウが自分の鼻の行方をあれこれ想像するという、イタリアで大人気のちょっとシュールでおしゃれな幼児から楽しめる絵本です。
この刊行を記念して、谷川さんからのご推薦で、谷川さんと長年親交のある子どもの本専門店「メリーゴーランド」店主の増田喜昭さんにお話を伺いました。
今回の絵本についてはもちろん、谷川さん作品全般の魅力について、そして子どもの本を届け続ける書店員さんとしての想いなども、じっくりお話をしてくださいました。
読み聞かせのヒントや楽しみ方もご紹介してくださっています。
ぜひ最後までご覧ください!
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出会ったきっかけは、1冊の絵本
――増田さんは1976年、三重県四日市市に子どもの本専門店「メリーゴーランド」を開いて以来、四十年以上にわたり、子どもの本と向き合ってこられました。
子どもの本専門店「メリーゴーランド」について簡単にご紹介をお願いします。
(増田)ひと言でいうと、「めちゃくちゃ頑固」です。気に入らない本はどんなに売れていても置かないです。でも、だいたい1万5千冊くらいは常備しています。その中の半分が絵本、半分が童話です。
――「メリーゴーランド」では童話塾や絵本塾、作家・画家を招いてのイベントを行われています。谷川さんも出演されていますね。谷川さんとはどのようにして出会われたのですか?
(増田)もう40年近く前に、「わたし」(絵・長 新太、 福音館書店)という絵本が出ました。教科書にも載ったりして、結構評判になったんです。
「歩行者天国では大勢の一人」という文が出てくるんですけど、四日市には歩行者天国がないものですから、その部分を「『夏祭りでは大勢の一人』に変えて読んでいます」っていう手紙を俊太郎さんに書きました。それが本屋を始めて3年目の時でした。
そのあと、初めて俊太郎さんが来てくれて、それから毎年お誕生月の12月に講演会をするようになりました。
言葉や音の「間」を大事にしているのが、谷川さん作品
――谷川さんの作品の魅力は、どういった部分だと思われますか?
(増田)俊太郎さんのすごいところは、いろんな絵本作家さん、絵描きさんと組んだり、科学者の方と組んだり、絵本に対するいろいろなあたらしい実験を何百回とやっていて、「音と色」、「音と線」、「言葉と言葉」、それぞれの間にある物語についてものすごく考えていらっしゃること。
俊太郎さんは言葉と言葉の間に空気をつくる。言葉や音の「間」をすごく大事にされています。
たとえば詩の絵本なんだけど、韻を踏んで読んでいるうちに物語になっている。俊太郎さんが紡ぎ出す言葉は、みんな「音」として読んでもおもしろいんです。
流れている時間がどうも俊太郎さんと僕たちじゃ違う。僕たちの方がせっかちな感じがします。
ついつい大人は、絵本の文字を読んだら次をめくるんですよ。絵本の絵をもっとよく見てください。絵を生かせるのも言葉だし、言葉を生かすのも絵なんです。子どものように、もっとゆったりとページをめくっていくと、大人も子どもも、ページとページの間にいろんなことを想像していくチャンスをいただくんですね。
――今回の「はな とったの だれ?」はいかがでしたか。
(増田)赤ちゃん絵本は、実はね、わかんないんですよね。大人と子どもの範疇ってたぶん違うんです。たとえば「もこもこもこ」っていう絵本のが出たときも、最初は全然売れなかったんですよ。でもこういうのを子どもたちが喜ぶんだって大人たちにわかって、だんだん受け入れられました。
(増田)俊太郎さんも「赤ちゃん絵本は僕もわかんないんだけど、おもちゃとおんなじでかじったりたたいたりしてもいいんだよね」、ということをよく言っていて。この本はちゃんと角がとれていて、子どもがぶつけてもいいし、子どもの肩幅をよく考えられているサイズだなと思います。
(増田)各ページに結構韻を踏んでいて、俊太郎さんなりの工夫が凝らされているし、絵についても、この色と線の太さは子どもに理解できるような描き方をされていると思います。
結論を急ぐ人は、「最後、この鼻、本当はどこに行ったんですか」、とか絶対聞いてくると思うんですけど、まあ物議を醸し出すほどいろいろ楽しんでもらえば。
――鼻がどこに行ったのかっていうのは、読者に委ねられているんですよね。子どもたちにも自由に想像してほしいです。どんな楽しみ方をしてくれるのか、これからの反応を私も楽しみにしています。
子どもによって、読み手は育てられる
ーおすすめの絵本の読み方はありますか?
(増田)「鼻」一つとっても、僕らは東海ですけど関西よりなので「僕の鼻とったの誰?」と東京で言うのとイントネーションが違う。だから日本中の人がこれを読むとすると、正しい読み方はないんです。その人それぞれの「音」の世界、ニュアンスがあると思うんですね。
読み手の「音」に対する力量と、俊太郎さんが作っている「間」、子どもが喜んでいる時間を共有して待てるかっていうことが読み方になるんです。
たとえば『わたしのワンピース』でも歌うように読むところあるじゃないですか。ぜんぶ読む人によって違うんですよ。
(増田)時々お節介な絵本だと、譜面がついてるけど、読み手が即興で音をつけるっていうのが、絵本を読む醍醐味なんじゃないですかね。
――読み手や読み方によって全然印象が違うなんて、面白いですね。
ちなみに、増田さんがいちばん好きな絵本は何ですか。
(増田)47年間変わらないベストワンは「よあけ」(作・画: ユリー・シュルヴィッツ、訳: 瀬田 貞二 出版社: 福音館書店)です。原書は布の製本で、中のグラデーションも本当に鮮やかなんです。
(増田)どっちかっていうと子どもの本は、そんなに新しくなくても、ロングセラーのものを繰り返し楽しんでもらえばね、子どもが新しく生まれてくるから。
――最後に、増田さんが考える、とっておきの絵本の楽しみ方を教えてください。
(増田)読んであげる子どもによって、読み手は育てられると思いますね。読み手のペースでページをめくるんじゃなくて、子どもたちが一体どのようにして冒険したり、どうやってドキドキしたりしているかを見届けなくちゃいけない。
たくさんの本を読ませようとしないで、好きな本は何度でも読んであげてください。
お母さんたちは、子どもは受け身だと思っているけど、本当は違うんです。子どもは絵本を読みながら何かをつくっているんです。絵本は子どもに表現させる力を持っています。
絵本ってツールはすばらしい。いっしょに楽しみを感じて読んでください。
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谷川さんの作品、絵本の魅力についてたっぷり教えていただき、ありがとうございました。
みなさんもそれぞれの読み方で、谷川さんの作品や、絵本を楽しんでくださいね。