見出し画像

音楽が 背中を押してたり

いえの電話がしつこく鳴り続ける。
「イヤ〜な予感」
我家には90代が3人、実家の両親と 義母(老人ホーム)いるので、毎回必ずヒヤリとした緊張が走る。

母  「あのね(電子)ピアノのファの鍵盤が飛び出ちゃって音が出ないの。(妹に)頼んで新しいの買ってもらったから。(娘達の安いお古を譲った)ピアノ、今までどうもありがとう」
はぁ〜心臓に悪い。

「まだ練習中なの、ノクターン」
辿々たどたどしい 母の大真面目。
こりゃ ショパンもズッコケるな

展示会に行った妹がお金を建て替えて購入。来週 届くと言う電子ピアノは¥15万って。
「えっ?」
母が長年使ってたウチのお古は 確か…¥35000。で、90過ぎの今?
ま、ま、良いけど。

* * * * *

子供の頃、唐突に母は 兄と私のために高価なアップライトピアノを買った。家族の部屋は尋常じゃないほど狭く、どう見ても 地道な練習をする要素の無いダラダラ 喧嘩ばかりしてる子供。
案の定、兄は半年で野球にシフトチェンジ(後にギター男子に)私が 仕方なく ピアノ教室に通わせられていた。

「向いてない」
子供ながらに しっかり自覚

母は大の観劇好き。女学校時代、歌舞伎役者が指導に来ていた(校長の知り合い)せいで、母は歌舞伎や踊りに夢中に。今もやたら詳しく饒舌じょうぜつだ。
母「梅幸ばいこうの踊りはね…仁左衛門にざえもんの十八番は…」
私「なに お母さん 友だち?」
思わず 突っ込んでみたり。
家族の誰も受け継がなかったが(切符も高くて)母に染み込んだ 色褪せない知識と熱い眼差しに心底 憧れる。

数年前まで母は 1人でフットワーク軽くあちこちの劇場へ出かけていた。
亡くなって直前に取り止めになったフジコ・ヘミングのリサイタルも 私と一緒に行くのを楽しみにしていた。(母は3回目、私は初めて)

独身時代ニューヨークにいた私は、バレエにオペラ、コンサートに野外フェスまで足繁く通った。知り合いも多く、オーケストラ奏者達のバスに同乗して 地方公演に出かけたりも。そんな私が長いブランクを越え今、母の楽しそうな顔が見たくて 劇場へと誘う。


☆   石田組のコンサートin 武道館

「武道館は(体力に)自信がない」
母に断られ 夫と2人で
「ニューシネマパラダイス」
やって欲しかったな

石田組は、大きな会場は初めてだそう。気合いでりきんだ演奏は少々走りがち、曲の選択が散漫で まとを外してた。やはり もう少し小さな会場でじっくりの方が、向いてるのかもしれない。
しかし会場は 熱狂的な40-60才を中心に満員。クラシックで この数、完全な黒字くろじです。キョードー東京が 間に入ると 販売力が断然違います。

* * * * *

私達の席は2階正面で 落ち着いた年代一色、その薄暗い中に 全身ゴスロリファッション(ピンクシルバーのボブヘア)の女の子が1人でいて、とにかく目立つ。開始時間寸前に 日焼けした(場違いな)年配男性が隣に座ると、女の子がニコニコ甘えて 楽しそう。
「ね、あれって新手あらて援交えんこうじゃないわよね〜?」

石田組は10-15人の管楽器奏者(あちこちの交響楽団から個人参加も)で構成されていて、メンバー1人1人を紹介する時間がある。
「今日はなーんと、高3受験生の1人娘さんが会場に来てくれてるそうです。バイオリンの〇〇〜!」
前のゴスロリが 舞台に向かって 小さく手を振ってると、隣の男性は眼鏡を外して 突然 自分の膝に顔埋めて大号泣。指や肩が震えてるのが見えた。
「(奏者の)お父さんだったかぁ…」
本人には 来る事 知らせてなかったのかな、関係者席は1階だしな。

男性は少し立ち直って、孫のゴスロリにお金あげて(会場 冷えて)売店へ 石田組の背に筆文字の ゴツい黒パーカーを買いに行かせ、嬉しそうにダボッとしたのを着て(ゴスロリファッション台無しなのに)席に戻って来た。年頃の孫娘とあんなに仲の良いお爺ちゃん なかなか居ない、微笑ましい。

「〇〇君のご両親、近所の方々20名、森林公園からいらしてます」
オー!大盛り上がり。
海外からわざわざ駆けつけた親も。演奏者への拍手、笑いを交えたエピソードで 会場に来てくれた家族達へのささやかな恩返し。大空間が温かいもので溢れた。生ライブの魅力だな。

こんな感じ?ゴスロリちゃん

「プロ奏者になる」息子に言われたら、どこの親だって反対するだろう。道行く人がギョッとする派手なゴスロリファッションの孫娘も。自分の「好き」を貫き だから頑張れる強靭な 遺伝子が脈々と この一族に流れている。きっとあの男性も今、わかってる。自分の中にも確かにあるよなって。

ニューウェーブ
開拓者って 応援したくなる


友人の娘(繊細で不器用な 秀才)も プロのバイオリン奏者になった。

友  「ええ 行ったの?〇〇ちゃん(娘)も石田組に 入れて欲しいな」
私  「いいね。楽しそうだったわよ」

友人一家は 音楽家


☆  兄のCDデビュー

ただただ ビックリ(爆笑)

青春回帰?良かったね
楽しい人生だ


☆   友人の息子 作

とびっきりハッピーな ウクレレ


「お稽古ごとって 馬鹿みたいに沢山お金と時間を使って、結局さぁ なーんにも残ってなくない?」
そう言われりゃ 今、家族 誰も何の特技にもホント、確かになってない。

ああでも 10年以上前になるが、何も食べられず 寝たきりだった(頭はしっかり)義父の病室で、連れて行った娘達の歌声、バイオリンの音に(今は亡き)義父は喜んでくれ、片手を上げて 見えない指揮棒タクトを振って見せていた。

我家のお稽古は あの日のためだけだったのか。まっそれでもいいか、家族みんなの心に 今もちゃんと残っているのだから。それでいい、上出来だ。


いいなと思ったら応援しよう!