広島・宮島口 AKAI「エリック・サティのような料理」
2020年。stay homeな毎日になる前に味わった、広島・宮島口「AKAI」のメニュー。
「AKAI」の料理を頂き、心の片隅に名状しがたい不思議な思いが、しばらくあった。
何かに、何かに似ている・・・。
気付いたのは翌日のこと。
エリック・サティに似ている・・・。
サティは既存の枠組みに捉われない作風の音楽家である。
サティの音楽は、中世音楽のようでも、現代音楽のようでも、イージーリスニングのようでもある。
しかしサティの音楽はそんな人為的な区分をすり抜ける。サティの音楽はあくまでも「サティの音楽」なのだ。
同様に「AKAI」の料理は、フランス料理のようでも、日本料理のようでも、和風フレンチのようでもある。
しかし「AKAI」の料理を、フランス料理といったり、日本料理といったり、和風フレンチといったりするのを、僕は躊躇する。
どれでもあるようだが、どれでもないと思うからだ。そんな定義付けで収まりが付く料理とは、到底思えない。
僕は「AKAI」の料理を一口味わう度に、深く思いを巡らせた。
シェフは食材の魅力や生産者の苦心に深く思いをいたし、食材の持ち味をいかに引き出すかに、注力する。
調理に手間暇を掛ける一方、あえて既存の方法論から遠ざかることも厭わない。シェフの徹底した思考と試行錯誤が伺えた。
例えばカスレのコロッケ。カスレは、ソーセージと豆のトマト風味で煮込む南仏の郷土料理。シェフはレシピを大胆に引き算。豚肉を塩で煮込み、ほぐし、コロッケに。味付けはオランデーズソース。素材にフォーカスを当て、郷土料理を再構成し、洗練させたシェフのアレンジが光る逸品。
例えば鹿肉のロースト(画像参照)。遠火の炭火でじっくりと焼き、休ませ。焼き、休ませ・・・。気が遠くなるほどの繰り返し。その過程が、びっくりするほどレアで瑞々しく、それでいて十分火入れされたローストを産み出す。「小股の切れ上がった」といいたくなる、艶のある味わいに感激。綿密な火入れと、炭火ならではの良さを兼ね備えた旨さだ。古いヴィンテージのピノ・ノワールと合うのは当然だが、凍頂烏龍とのマリアージュも素晴らしい。
サティをイージーリスニングとして聴くことができるように、「AKAI」の料理も「食べやすい和風フレンチ」として味わうこともできる。もちろんそういう受容を否定しない。
僕が「AKAI」の料理から感じたのは、味付けの簡素さを躊躇わないシェフのロジックであり、実験精神だ。それは、食材の自然な味わいを殺したくないという、シェフのストイックさ、そして生産者へのリスペクトの現れではないだろうか。