見出し画像

ぽんこつ奮闘記 VOL.2 姉のSOS


「とにかく、走れー!」


今日も店長の掛け声と共に、走り出した。それはまるで、徒競走のピストルのようにも聞こえ、瞬発的に駆け出した。

絶賛やらかし中である。

新卒がそろそろ会社の底辺ではなく、マウントを取りに行く頃、私は日々何かをやらかしていた。

そんな中、クレジットカードの返し忘れで、MISS IKESEIポイントカードに1つスタンプが押されていた。溜まったら交換できるのは、割引特典や、サービスでは無く、異動である。
ちなみに、ミス池西とは、「ミスコン」のミスでは無く、ミスが多い西武百貨店池袋本店の販売員の意味である。

もちろん、そんなカードは存在しない、でも店長からの脅しに冷汗が止まらない日々だった・・。


そんな中の大事件、今回のクレジットカードは、大事である。数ある落ち度の中でも重症である。

まさに、「やべえ奴」。

とにかく走りながら、さっきまでの会話の内容を思い出す…。確か、購入されたワンピースが大層お気に召されていて、会わせる靴も欲しくなったと仰っていた。当店舗にあるシューズは、小柄過ぎる彼女にはサイズが合わなかったのだ。


館内を走る販売員なんて正直いない、でも今回は時間が迫っていた。
リミットは、あと15分。このボーダーを過ぎたら、館内アナウンスである。皆様も一度は聞いたことがあるだろう。
あの放送は、テナントブランドの減点と一緒に放送されている。
正確なペナルティの内容は聞いたことがなかったが、ヤバイとだけ認識していた。

「神よ!見放さないよね?絶対大丈夫!」

そんな心のSOSを神は聴いてくれたのだ。

レディーズシューズの靴売り場に、先ほどのシンデレラは、新たな靴を履きながら、幸せそうな顔でポーズをとっていた。すべてが勝った!と有頂天になった瞬間だ。

「あ!お客様、やっぱりここだー!その靴、先ほどのワンピースにぴったりですよ。心配で追いかけて来ちゃいました。」
とんだお調子者である。

「ありがとう。チェックしにきてくれたの?あなたが見てくれたら、もう安心。これに決めます」

「ありがとうございます!ぴったりですね。」

靴売り場の販売員と声が重なる。

「あ。それで、先ほど・・・」
と小声で経緯を説明し、謝罪と共にカードをお返しした。

ミッションコンプリート。その時はそう思っていた。

画像1

しかし、変わろうとしないと、人は変わらない。

先輩の不在により、代わりに顧客を接客した時に、またしても悪夢が起きた。今度はポイントカードの渡し忘れである。

この時、初めて落ち込んだのだ。
それはオランゲ先輩に言われた一言である。

「何度も同じ失敗繰り返して、悔しく無いの?」

”ORANGE(オレンジ)”をオランゲと読んでしまうくらい、中高の授業に縁のなかった2つ上の先輩は、専門卒の同じ歳ということもあり、先輩といっても近い存在に感じていた。年間のトップセールスの上位を誇る彼女の接客は、日本語がめちゃくちゃで、なぜ売れているのか理解できていなかった。

しかし、あるきっかけで、リスペクトするようになったのである。
それは、ある残業した日の翌日。

「昨日〜眠過ぎて、電車の中でずっと寝ながら帰っちゃいましたよ。」

さも世界一頑張った社会人とも言える表情で話すと、意外な返答にショックを受けた。

「ふーん?私は、自分よりもヘビーで、最悪な1日を過ごした人もいるかもじゃん?まあ、自分はハッピーな1日だったし、ぶっちゃけ席譲るわ。」

1時間の通勤電車の中、誰かの1日を気にかけたことがあっただろうか。完全な、ホスピタリティの違いである。

初めて、彼女がなぜルーキーと言われ、トップセールスなのかを理解した瞬間だった。


オランゲ先輩の一言から、毎日時間さえあれば、接客のロープレをお願いし、クロージングミスを潰していった。
1ヶ月で、MISS IKESEIカードの存在なんてなかったように、私は変貌を遂げていた。

画像2

2010年の秋。新人だったサラリーマンが、ネクタイを当たり前に巻けるようになる頃、私は先輩面を覚えて、、いなかった。

3年目の予算は、ビギナーズラックでは取れない。西武池袋本店は当時、私たちのブランドでは、1番売れていて予算の高い店。涼しい顔ではいられないのが、現実だった。

月末のある日。

「ちょっといい。MTG。」
店長の一言。

「あのさー。今の時点で、100%達成は難しいじゃん。修正の予算は何%でいける?」
まるで、3年目の分際で取れる予算じゃ無いから、みんな出来るところまでを目指すんだよ。と言わんばかりの慣れた口調だった。

出来なくて、当然と言われた事に無性に腹が立ち、気づいた時には、

「大丈夫です。100%取るので、見ててください。」
そう、呟いて立ち去っていた。

「今から、取れる数字じゃ無いでしょ。現実考えないと。」
背後で聞こえていたが、私の頭には、絶対に取れる!という言葉が響いていた。

月末締めまで、あと3日の事である。

その日の夜、絶対に数字を取るため、妄想で接客をしていた。時間単位で何を売って、お昼の休憩後には幾らになって…のような綿密な策略を、電卓を叩きながら刷り込ませたのである。

画像3

思いは招く。あの日の屈辱から3日間、私は驚異的な売り上げで巻き上げていった。

最終日の昼、あと30万。ここで、奇跡が起きたのだ。

お昼から戻る頃、化粧室を出た途端、あるお客様の顔が思い浮かんだ。
「先輩。お客様が来る予感がするので、先戻ります。」

「マジ?がんばれー!」

心に浮かんだカンを、ただただ信じて、小走りになった。そこにいたのは、初夏以来、全く音沙汰のなかったお客様がだった。

「ムートン思い出しちゃって、買いに来ちゃった!」

夏の始まりで、紹介したコートを覚えていてくれていたのである。
今でこそファーもレザーも、エコが良しとされるが、当時はリアルこそが、ファッションの正解で、フェイクは言葉通り偽物と見なされていた。
そのコートは15万円。ファッション業界の人であれば、質の良さに納得するようなコートだった。

その時、風向きが変わったのである。

あれよあれよと物が売れ、1日の平均5万ペースだった人間が、最終日に約50万売っていた。

「SOS」そう、思ったら、そうなる。

信じた自分にしかなれないのだ。あの日、ミスをやらかしていた自分のSOS。ミスを無くした時のSOS。そして思いを実現する時のSOS。


きっと、神様へ伝わるおまじないなのかも知れない・・。



-------------------------------------

「ぽんこつ奮闘記」VOL2は、会社の中で葛藤しながらも、自分と戦うあなたにむけて、思い出したリアルな話です。アパレルで生きているあなた、営業で成果に悩むあなた。

SOS!そう、思ったら、そうなる!

いい事も、悪いことも自分の気持ち次第。きっとあなたが自分を信じたぶんだけ、あなたは応えてくれます。


宜しければサポートをお願いします!いただいたご支援で、YouTube活動の費用に使わさせて頂きます。