【教えた話】福島の高校生の、141日間
もうすぐ1年前になる2020年の3月、まだコロナウイルスの影響がこんなにも大きくなるとは思っていなかったある日、一通のメールが会社に届きました。
福島県内の高校生による「福島県へのおもい」のプレゼンテーション大会開催にむけての講義依頼でした。
大会の趣旨は、『福島県の”いま”を、福島県内で生まれ育った高校生の言葉で発信する』こと。東日本大震災からまもなく10年、これまでに経験したことや学んだこと、悩んだことに触れながら「私のいまのおもい」を自分の言葉で伝えてほしい、というものでした。
コンクールのようにただ発表の場を設けるのではなく、約半年間かけて故郷を知り、学び、調べ、伝えるというワークショップ形式。
”ナラティブ・スコラ”と名付けられたこの取り組みに関わった141日間は、私の「伝える」価値観を大きく変えることとなりました。
オンラインでのスタート
2020年7月、いよいよ”ナラティブ・スコラ”が始まりました。福島県内の高校生22名が集い、ワークショップの始まりです。
しかし、コロナウイルス感染拡大の影響は東京を中心におさまることなく、生徒の安全を最優先し、講師はリモートでの参加となりました。
代表の前田が総合監修で全体の講義を担当し、私は秋を過ぎたあたりのスライド作成〜発表回で出番がやってきます。なので、前半の時期は当日の様子を写真や動画で見て、打ち合わせで次回の案や内容を確認をしていく、といったサポート業務がメインでした。
正直、この頃は、後半の講義に向けて「高校生ってパワポどのくらい使えるのかな...?」「パワポの機能おさらいしとこう」くらいの気持ちでした。
資料を上手に作れるようにサポートしたい、という講師としてのいつもの考えに、この時は疑問に思うこともありませんでした。
ただの故郷プレゼンじゃない
カリキュラムはプレゼンに関するグループワークの他に、社会学の先生や詩人の先生によるメッセージの打ち出し方、施設見学や福島でアクティブに活動されている方々へのインタビューなど。様々な経験を積んだ夏を終え、高校生たちはいよいよ最終プレゼンに向けて準備を進める時期となりました。
ナラティブ・スコラ担任の岩本さんから生徒たちのプレゼン動画(ファースストテイク)と資料が送られてきて、ここで私は初めて高校生のプレゼンを見ることとなります。
もし今、みなさんが「故郷についてプレゼンをしてください。」と言われたら、どんなことを伝えるでしょうか。たぶん、地元の名所や名物、観光スポット、英雄や著名人のことが頭に浮かぶ人が多いと思います。
私も地元についてプレゼンするとなったら、きっとそうでした。
でも、22名の高校生は違いました。
並んだ言葉は「風評被害」「原発事故」「復興」
ドキッとしました。
震災当時の彼らは6、7歳。
高校生になった今もなお、心ない言葉に傷つけられること、辛い記憶が蘇ること、忘れられていくことへ胸を痛めること。
そういった現実がありました。
震災関連のこと以外にも、自分の夢を話すプレゼンや福島の特産品をPRするプレゼンもあったりとそれぞれの個性が出ていたのですが、そこには必ず東日本大震災による影響や自身の経験が入っていて、彼ら、彼女らにとって、3月11日は本当に大きな出来事であることを改めて実感しました。
過去にしっかりと向き合い、福島で過ごした10年で感じた思いを、率直に、自分の言葉で伝えようとする姿を見て
- この子達の思いを最大限に伝わるようにしたい。
- 多くの人に知ってもらいたい。
そう、強く思いました。私の意識が大きく変わった瞬間でした。
ぽにぐち、赤ペン先生するってよ
私の最大の武器は「伝えたいことを最大限に引き出すスライドにする」と(言霊的に)自負してるのですが、何よりも一番伝わるのって、やっぱり自分自身で考えて気持ちを込めて作ったスライドだとも思っています。
今回は手を貸して綺麗に仕上げるのではなくて、自分の伝えたいことを120%出し切れるようなヒントをたくさん出すことが私の任務。
早速取り掛かったのは、生徒たちから送られてきた動画とスライドを見ながら、資料に赤ペン先生をすることでした。
これがめちゃくちゃ難しかった...
なにせ、まだ動画でしか見たことのない生徒たちのプレゼンなので、どんな子なのか、一番伝えたいのはどこか、震災のことをどのように伝えたいのか、いろんな感情がぐるぐる回りながら、資料から読み取れる思いを想像してペン(という名のコメントバック、実際はPCでね)を走らせました。
一所懸命作った資料にガシガシ赤ペンが入って、嫌な気持ちにならないかな。私の赤ペンのせいで意図しない内容になったらどうしよう。
なんて思いながらも、途中から、ええーい、直接会ったときに確認すればいい!と切り替えて、ガシガシ書いていきました。
11月、PCR検査を受けて陰性を証明し、万全の体制で福島に向かい、ようやく初めて高校生たちと対面することができました。私としては動画も資料も頭に入っていて顔も覚えているので「わー!久しぶり!」感覚で教室に入ってしまったのですが、高校生たちからすると私に親近感はないわけで...(そりゃそうだ)温度差に、かるくショックだったのはここだけの話。
この日は会場ステージ確認と資料作成の日で、1日かけて22人と話しながらスライドのブラッシュアップをしていきます。
ビジュアルや数字の見せ方、アニメーションのコツを伝えて「うわ!先生、魔法みたい。」「まあ、私プロなんで。」といった会話も楽しみながら、一人ひとりの伝えたいことを確認していきました。
動画や資料を見る限りでは、もしかして本当は震災のこと言いたくないんじゃないのかな、と思う子もいました。実際に会って話をしてみると、今回のプレゼンでは震災をあまり強調したくなかった、でも10年を振り返ると意識しないわけにはいかない、そんな葛藤を抱えている気がしました。それでも自分なりに福島の10年を繋げたメッセージを作って発信しようとする姿をみて、大人が変に手を入れずにありのままを舞台で伝えてほしいと感じました。プレゼンのお仕事をしてきて、手を入れたくないなって感情になったのは初めてでした。
雑談しましょうよ
いよいよ本番の12月を迎えました。
11月の回を終えて自宅で修正や練習を重ね、再度動画を提出してチェックして、自宅に赤ペン資料第二弾が送られてさらに修正して...この数週間、生徒たちは結構大変だったと思います。担任の岩本さんも毎日のようにLINEでコミュニケーションをとって、みんなの不安や複雑な思いを聞き高校生と向き合う姿勢は、もはやお母さんでした。
本番前日に福島入りし、2つのグループに分けて最終リハーサルを行いました。もうここまで来たら資料どうこうは置いといて、いかに自分の気持ちを込めて伝えるか。詰まっても吃ってもいいから、まっすぐ前を見て話せるか、感情の込めかたを一緒に練習していきました。
本番当日。プレゼン大会は5時間の長丁場です。
主講師の鎌利さんは審査員席で、岩本さんは舞台袖で見守ります。
私は控え室でみんなを見送る役です。
本番を前にしたみんなの様子は、お菓子を食べながらおしゃべりして緊張をほぐす子達もいれば、淡々と窓に向かって練習を繰り返す子、クリッカーの練習をひたすらする子もいて、それぞれの過ごし方があるなあと見守っていました。
そんな中、一人の女の子がすーっと近くに来て隣にちょこんと座って「雑談しましょうよ」と言ってきました。彼女は資料も練習も淡々とこなし自分の空気感を作っていたので、予想外の声かけに驚きつつ、いろんな話をしました。
「先生はなんで今の仕事をしてるんですか?」「普段はどういう生活してるんですか?」たくさん聞いてくれました。たわいのない会話だったけど、会話が弾むにつれて、彼女の声も段々と弾んでいきました。
出番だよ、と呼ばれた瞬間、またクールな表情に戻って「行ってきます」と席を立った姿、めちゃくちゃかっこよかった。
彼女にとって資料作りや練習では、私は先生としてあまり役に立てなかったかもしれないけど、緊張をほぐすために頼ってくれたんだなと思うと、生徒たちとの関わり方って本当に色々できるんだなと感じました。
何度も「もう1回、練習聞いてもらっていいですか?」と声をかけてくれる子もいました。「こっちを向いた方が伝わるかな。」「ここで間を置いた方がこの言葉は響きますか?」もう現時点でも十分なくらいなのに、何度も何度もトライしていました。
最後の最後、聞いてください!と本番直前にしてくれたプレゼンを聞いて、思わず涙がこぼれました。プレゼンの内容は覚えてしまうくらい聞いていたのに、びっくりするくらい感情が揺さぶられました。決して演技ではない、本当に自分の声と気持ちが、言葉に乗る瞬間を初めて感じた気がしました。
前日から本番にかけて、いちばん話をした子がいました。
彼女のプレゼンは大人に対するストレートなメッセージが込められていました。今の自分の気持ちと正直に向き合っていて思ったこと、17歳という多感な時期に感じている大人や社会に対する違和感、それを大舞台でプレゼンするのはとても勇気のいることです。だからこそ、大人代表として私が向き合って、彼女の気持ちをかたちにしてあげたいなと思っていました。
最初は資料のブラッシュアップについて話し始め、そこから会話を重ねていき、発表時の立ち位置や間も一緒に考えて練習していきました。
「大丈夫だよ」って言葉をたくさんかけたくなる、そんな子でした。
プレゼンを終えた後、「堀口さんが控え室にいるって思ったら安心した」と言ってくれたこと、今でも思い出すと目頭が熱くなります。
私はみんなの発表を生で聞くことはできなかったけれど、緊張する背中を見てドキドキし、笑顔や泣き顔で帰ってくる様子にホッとする、たった数十分で大きく成長する瞬間を近くで見えたことが何より幸せでした。
こうして、福島の高校生の141日が幕を閉じました。
向き合うということ
ここでは話しきれなかった、ちょっとした会話や気づき、葛藤、笑顔もたくさんあります。その様子や本番のプレゼンも交えて、ドキュメンタリーとして"ナラティブ・スコラ"が放映されることになりました。
ぜひ、見ていただきたいです。
高校生たちがナラティブ・プレゼンテーションに挑む姿を追った特別番組
「ふくしまの高校生が伝える ナラティブ・プレゼンテーション 『10年目、私の物語。』」が放送されます。
テレビ東京 : 2021年2月20日(土) 16:00〜
福島テレビ : 2021年2月27日(土) 16:00〜
https://www.fukushima-kankyosozo.jp/fns/
(あわわ、明日です。もっと早くnote書けばよかった...)
この”ナラティブ・スコラ”に携わったことによって、自分と向き合うこととは何か、ということをすごく考えさせられました。忙しさやめんどくささにかまけたり、こうすれば場が丸く収まるだろうと思ったり、そんな向き合い方で人間関係や仕事への取り組みをしていたんじゃないかなと。
真っ直ぐに自分と向き合い、悩みながら資料を作り、大きな舞台で発表する経験をした高校生を間近で見たことで、その純粋さを間近で感じたことで、気持ちが大きく動きました。
自己啓発の本などでは決して替えられない、自分を奮い立たせてくれる経験でした。
この”ナラティブ・スコラ”に携わった運営企画のプロジェさん、イダテンさん、福島県環境創造センターさん、福島県職員のみなさん
鎌利さん、岩本さん、本当にお疲れ様でした。
こういった出会いと経験をさせてもらえたことに、心から感謝を込めて。
そして、新しい感情に出会わせてくれた、22人の高校生へ。
本当にありがとう。また会えるように、私も頑張るね。