日本企業が直面する”氷河期世代ロス”とは何か?
いまの日本の労働市場は大変大きな問題を抱えている。それが"氷河期ロス"だ。
氷河期ロスとは、低賃金で擦り切れるまで働かせることが出来た氷河期世代の若者たちを失った企業が困り果てている現状を指す言葉である。
給与は低く抑えて、昇給もほぼなし。それでも『お前の代わりなんていくらでもいるんだぞ!』という魔法の言葉さえ唱えれば夜中までこき使うことができたロスジェネ世代のような、都合の良い若者という歯車が今の日本にはもう存在しないのである。
少子化により若者は日本社会の貴重な資源となっている。もう昔のように無駄に使い潰せるほどの若者は日本に存在しないのだ。今の若者に『働かせてもらえるだけありがたく思え!』などと言おうものなら即退職代行サービスから電話がかかってくるだろう。今は空前絶後の売り手市場であり、会社側が若者に”働いていただいている”時代なのだ。
そもそも、この苛烈な少子化を招いたのは氷河期世代をすりつぶした日本企業に大きな責任がある。氷河期世代の若者たちは、平成時代に跋扈したブラック企業による乱獲で人生を破壊され、次世代に命を繋ぐことができなかったのだ。低賃金重労働の檻に閉じ込められ、牛丼屋やコンビニで深夜まで働いていたロスジェネ世代に、異性と出会い子供を授かる余裕は金銭面でも時間面でも与えられなかったのである。
平成時代は若くて元気なロスジェネたちを生贄にして生き延びてきた、何の付加価値も社会に対して生み出すことが出来ない中小零細企業がたくさん存在した。それらの会社が少子化の波を受けて若者を雇うことができずに苦しんでいるのは、まさに因果応報と言わざるを得ない。
氷河期ブースターのおかげで生き延びてこられた、実はもう何十年も前からすでに息絶えていた企業が、今ようやく朽ち果てようとしているのが令和なのだ。中小企業の倒産件数は右肩上がりなのはそのためである。
それに対し、大企業はすでに時代の変化を理解し対応しており、初任給を年々引き上げてやる気のある若者が入社したくなる環境を作っている。待遇改善は令和の人材確保のための必須条件だ。
こうなるとますますブラック企業や瀕死のゾンビ企業に若者は集まらない。彼らもさすがに社会の変化に気がついてはいるものの、今まで安い労働力で稼いできたため、今更労働者にまともな給与を払うシステムを作ってしまうと儲けが出なくなってしまう。
さらに若者の給与を上げれば、これまで安くこき使ってきた40代50代の氷河期社員たちが『俺たちの給与も上げろ!』と怒り出す。人を安く使って稼いでいる企業は、人件費が上がると詰みなのだ。当然新しいイノベーションなど起こせるはずもない。それが出来るならとっくに中小零細企業の殻を破っている。
このように氷河期世代という使い捨て燃料を失った企業は、採用や教育の抜本的な方針転換を迫られているのである。
では、若いころに絞りあげられてきた氷河期世代の当事者たちは今どのような状況に置かれているのであろうか?大企業勤め、中小企業勤め、バイトリーダー、様々な立場で働くロスジェネたちの現状について書いていこう。
まず初めに非正規雇用のまま歳を重ねてしまったロスジェネバイトリーダー、非正規雇用のロスジェネたちだ。彼らは令和の現在、どのような立場に置かれているのであろうか?
派遣社員として職を転々とするロスジェネ派遣社員は、50歳を目前に派遣先がどんどん少なくなり非常に困っている人たちが多い。氷河期世代の派遣労働者の多くは工場などのブルーカラー業界で働いている。ブルーカラー業界はいままさに人手不足であり、筆者も属する製造業界では多くの会社が派遣労働者を採用している。
しかし、その年齢制限は大企業では30代までが多く、それなりの規模の中小企業でも40代までだ。氷河期世代の先頭集団、50代になった派遣ロスジェネたちは、ブルーカラー業界に絞ってもなかなか派遣先を紹介してもらえない事態に陥っているのである。
そういった派遣ロスジェネ社員たちは、タイミーやUberなどで短時間バイトをしてしのいでいる者が多い。ブルーカラー業界の多くの企業が人手不足を叫んでいるが、その実態は"アラサーまでの未経験者、もしくはアラフォー辺りの経験者がいない"ということであり、3年ごとに職場を転々としてきた50代のロスジェネ非正規雇用者は求められていないのである。
フリーターとして牛丼チェーンやコンビニの夜勤シフトに入っていたロスジェネバイトリーダーたちは、実家に仕事のアテがあるものは都会から去って年老いた両親のもとへ帰っていった。帰るアテのないバイトリーダーは今も深夜のお店で働いている。
小売店や飲食店は製造業界以上に慢性的な人手不足に晒されており、もうアルバイトを募集しても若者はほとんど面接に来てくれない状態だ。そんな中、夜勤シフトに入ってくれるロスジェネバイトリーダーの存在は店にとってとても貴重であるため、店が潰れない限りは首になる心配もない。人手不足もあり時給はアップしたと喜んでいるが、それでも年収は300万円台。身体を壊せば即アウトの綱渡り生活を送っている。
このように、氷河期世代の非正規雇用組は人手不足の令和でも非常に厳しい労働環境に置かれている。彼らはみな独身だ。女性はいくら稼いでも長期的に男性を養うことはしない。そのため、所得が一定以上ない男性は結婚することができないのである。
独身男性の平均寿命が67歳という衝撃の統計データは有名だが、彼らの生活を見ていると、その数字が労働環境とリンクしていることを感じざるを得ない。
次に中小企業で働く氷河期世代たちだ。中小企業の待遇は千差万別であり……
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