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美を選ぶか死を選ぶか ~手に入らない特別な美しさ~

前回ベニスに死すを観たものの、コロナウイルスのことで頭がいっぱいになってしまったという感想を書きました。

書いた文章を後から読み返しましたが、私自身映像作品を観て本当にウイルスのことでいっぱいになってしまっていたようなので、改めてその他の感想を書き残しておきたいと思います。

今回こそはネタバレを含みますので、読むかどうすべきかは検討してください。


ベニスに死すにしかない独特の表現

ベニスに死すにしかない独特の表現として挙げられるのが、余白の使い方です。
セリフがほとんどありません。

きっと主人公の作曲家のおじさま、アッシェンバッハは待ち行く人にウイルスのことを次々に聞いていくことができない程度にはシャイで、それでいて会話をすると人とぶつかり合うほど頑固です。
静かな世界をひとりで生きてきたのだなと思いました。

タジオ君を追うカメラワークも、おじさま目線のシーンが多い。

言葉を発さない、バックで音楽も流れないシーンが多いこの映画の表現方法全てが、おじさまの人柄、人生を表わしていると私は解釈しました。


一目惚れとはこのことでは

おじさまは美少年タジオ君の美しさに惚れます。
あの短期間で頑固な心があれほど動かされているのですから、一目惚れだと思います。

もしかして作曲家のおじさまは、初恋だったのではと思います。

ようやく初恋。
自身が少年の頃に出会っていれば、彼と一緒になれたかもしれないのにという悔しい思いと、相手が男であるという戸惑いも混ざり、苛立ちを隠せなかったのでしょう。
(そこまでのことは話には出て来なかったので、あくまで私個人の推測です)。

おじさまのメイク

失礼極まりないことを言わせていただくとおじさまのメイクはこわいです。

当時は男性のメイクといえば、あの白色のスティックを使って顔を白く塗り、濃い赤を唇に塗って、髪には真っ黒の液体を施すのが精一杯だったのかもしれません。

今の時代だと、より自然に見せるために自分の肌色に近いカラーで肌を整え、唇にはわずかに血色を足すか足さないかでほんのりと。髪色は、より似合う絶妙なカラーに染め上げることができるので、センス次第で若く見せることは可能だと思います。

洗練され自然に仕上げられているだけで、ベニスに死すに出てくるおじさまと似た境遇の男性は今の時代特に増えているのではないかと思いました。


おじさまは試された

娼婦の女の子エスメラルダがおじさまを誘惑するシーンがありましたが、神様に試されたのかなと思いました。

本来であればあのシーンは、もう少し上の年齢の女性でもよかったはず。
ですが、誘惑してきた女の子は明らかにタジオ君より少し上ほどの若い女の子であった。
あまりあのようなパターンは無いと思うんです。
試されたと思います。

タジオ君は男の子。では女の子はどうか?をはっきりさせるためにも女の子が登場したのでしょう。

あと私の見解としては若い男の子が恋愛の対象になるわけではきっとなくて、
タジオ君がよかった。タジオ君でなければならなかったのだと思います。


美を選ぶか死を選ぶか

ウイルスの影響で刻一刻と迫る時間。
ベニスの街を離れるのか、それともタジオ君がいるベニスの街にできる限り残りたいのか。

実際に関わるのではなく、離れたところから見ることだけしかできない人に与えられた特権として
「手に入らない特別な美しさ」は存在すると思うのです。
タジオ君の横にいた少年では、おじさまのような芸術的感性は得られなかったはず。
そういう意味では、恋愛によって芸術的感性を得る点では最高に近づけたのではないかと私は思っています。

最期に知りたい。
片方だけしか手に入れられなかったのか、もしくは両方手に入れた人生だったのか。

あの世に行ったおじさまに聞くしかない永遠のテーマですね。


不思議なシーンがいくつかあった

イタリアとは文化や伝統の違いがあるためか、日本に住む私としてはあまり見たことが無いような不思議なシーンがいくつかありました。そのことについて最後に話します。

➀海岸で物を売る人々
日本の海岸では海の家のような屋台はありますが、あのようにカゴに果物を入れて売ったりするような販売方法は見たことが無かったので、純粋に驚きました。

娼婦のような女の子が出てくる部屋
“エリーゼのために”をピアノで弾いていた女の子、エスメラルダがおじさまを部屋に呼び誘惑しようとしていましたが、イタリアにはあのような妖しげな部屋がホテルの一角などに存在していたりするのでしょうか。
それとも、たまたまあの女の子があの部屋を使って男性を誘惑していただけなのか。

③あちこちを燃やしているシーン
建物の前や内部のあちこちで燃やしているシーンがありましたが、あれは一体何だったのでしょうか?
人が亡くなった場所に木の枝などを置いて燃やす儀式があるのか、それともウイルスの影響で燃やすことにより消毒か何かを行っているのか。
このシーンについては解説を知りたいなと思っています。


また、コロナウイルスが落ち着いた頃にあらためてベニスに死すを観直すのも良いかなと考えています。




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