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【木曜日連載】虎徹書林のチョイ怖シリーズ第三話『そば処千妖にいらっしゃい』 第十一回【書き下ろし】
初めましての方、ようこそいらっしゃいました。
二度目以上お運びの方、本日もありがとうございます。
こんにちは、あらたまです。
木曜日は怖い話の連載。
第三話は第二話に引き続き【御愛読感謝企画】でまいります。
テーマは『御蕎麦屋さんの話』です。
読者様アンケートにお答えして「憎めない、愛着湧くような妖怪」が出てきたり「悶絶するような、美味しいアテ」で皆々様の唾液腺をぐいぐい刺激したり。その合間に「チョイとだけ怖い」思いを楽しんでいただけるような……そんなお話を目指します。
連載一回分は約2000~3000文字です。
企画の性質上、第三話は電子書籍・紙書籍への収録は予定しておりません。
専用マガジンは無期限無料で開放いたしますので、お好きな時にお好きなだけ楽しまれてくださいね。
※たまに勘違いされる方が居られるとのことで、一応書いておきますと『無期限無料の創作小説ですが、無断転載・無断使用・まとめサイト等への引用は厳禁』です。ご了承くださいませ。
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【四把目】舞茸の揚げ焼きは衣を薄く~其之二~
そもそも、だ。
御蕎麦屋さんに来て、御蕎麦も食べずに、御蕎麦の味わいのどのあたりについて語っているのだろう?よりにもよって、私のおばあちゃんの御蕎麦を一本も食べずに御蕎麦の何を判っているというのだ。
ていうか。
この人たちと来たら、普段何を食べて、どんな仕事をどんな暮らしをしているんだろう?
不思議に思う事は山ほどあったけれど。
自分でも意外なことに、この人たちには直接訊いてみたいという衝動は起きなかった。
質問したところで、この人たちからは面白い答えが返って来るとは思えなかった、というのもある。何故だか分かっちゃったのだ、つまらな過ぎて呆れるだろうな、と。
なんだろう、こういうのを直感というのかな?
そんなことより、他のお客様のために早く席を空けて欲しかった。
レジ横の壁にかかった大きな柱時計を見ると、ちょうど彼らが着席してから一時間が過ぎた。
「すみません、ラストオーダーです」
私はほぼ棒読みに近い形で、彼らにオーダーを促した。
「え、もう?」
「いやあ、楽しい時間は経つのが速いねえ」
全員が全員、口をそろえて薄っぺらなお気持ちを述べた。
そして、結局というべきかやっぱりというべきか、ラストオーダーで追加注文は無かった。
四人も居ながら、ざるの一枚も食べずに帰っていった。
「おぅ、済まねえが……ざる、二枚」
客席の一番隅っこ、祠の前に一人で座るお客様が右手を上げて、こちらは四度目の追加のオーダーを入れた。
鼠色を基調にしたタータンチェックのハンチング帽を目深に被り、駱駝色のブルゾンをぴっちりと着込んだ姿は、猫背が過ぎて、小さなフェルトの毬のようだった。
五十代男性といえばそうなのかもしれないし、七十台女性といえばそれもあり得る気がする、なんとも不可思議な佇まい。河向こうの競馬場帰りの雰囲気はあるけれど、余程の大勝ちをしたのだろうか?
こっちはこっちで随分な長っちりだ……でもまあいい、一人でざるを合計八枚だもの。さっきの四人の分まで食べてくれるなんて、こんな蕎麦ッ食いなら大歓迎だ。
有難いことに、その後に入ってくださるお客様に於かれては粋な方が多く、入れ代わり立ち代わりを実にスムーズにしてくださった……もっとも、例の四人の傍若無人ぶりを外の行列から察したということならば、ああは為りなくないものだとお気遣いくださったのかもしれない。
不幸にも同席してしまったお客様には、せっかくの御蕎麦が不味くなってないことを祈るばかりだったが、残席の回転率は悪くもなく、皆様満足げに帰られたので先ずは一安心といったところだった。
妙なトラブルはあったけれども客足は途絶えず、一日分の仕込みがそろそろ底を突こうかという頃。
厨房から客席を窺ったおばあちゃんが、こっそり。
「今日の売り上げはまあまあよ」
ホクホクの恵比須顔で私に囁いたから、結果オーライということだったんだろう。
「今日は夕方からお休みにしちゃおうか?」
おばあちゃんが早じまいの支度のために、厨房から出てきた。
そして……割烹着を脱ぎかけた手を止め、アラ!と驚いた声を上げた。
「あら、あら。いらしてたんなら、おっしゃって下さればいいのに」
「よう……すまねえ。こんな長っちりするつもりはさらさらなかったんだが、いやさ、つい帰るタイミングを逃しちまった」
おばあちゃんが親し気に声を掛けたのは、例の、祠の前に陣取っていた蕎麦ッ食いのお客様。
「なぁるほど、それで……どおりで今日はお客様がひっきりなしだと思ったんですよ」
ふふふ、と笑って。おばあちゃんは女子中学生みたいに、ぴょんと一つ飛び跳ねた。
「ところで……嬢ちゃん、見かけない顔だな。女将の遠い親戚かなんかかい」
はしゃぐおばあちゃんを脇に置いといて、かなり鋭い斬り込み方である。
何でも訊きたい、考えるよりも口が先に仕事を始める、そんな私といい勝負だ。
「え、ええ。おばあちゃん……あの、えと、女将!の孫なんです。訳あって居候兼ホールスタッフをやっています」
「ほう!そうかぃ、そらアがんばんな。おれは、そこの……角曲がってすぐんとこにダイコクベーカリーってあンだろう?そこにな【間借り】させてもらってんだ。昔、その隣の大黒屋って米屋の爺さんに世話になってなあ……その縁もあって【依らせて】もらってる」
「へー!ご近所さんだったんですね」
ん?と思った。
大黒屋さんは配達をお願いすることもあるし、うちに御出前を頼んでくれたりする、そんな間柄だ。もちろんお隣のダイコクベーカリーさんも懇意にしてる。
ダイコクベーカリーは大黒屋さんの先代のお孫さんが切り盛りしてるパン屋さんで、お昼に個数限定でおにぎりのランチボックスを出したりと、お米屋さんとの連携もユニークな経営で人気だ。
けど、間借りって、つまり不動産業のこと?
そんなの、噂でも聞いたこと無かった。
「時にだ、お嬢ちゃん」
ハイ?と、考え事に夢中になっていた私は、声にならない返事をした。
「蕎麦屋ってのは、いつからケチな野郎どもの溜まり場になったんだィ?」
「え……と、申しますと」
「板わさ一皿、熱燗二本。それで一時間の長っちり。しかも蕎麦を食いもしねエで他人の蕎麦の食い方にどうのこうの、と。
あのな、お嬢ちゃん。店は客の言いなりになるもんじゃねえぜ。客の求めには応じても、無法は許しちゃならねえ。そういう客を赦してちゃァ、他の客に示しが付かねェてもんだ。店に、客の前に立つなら……その、なんだ。
この【おれ】が言えた立場じゃねえが、な。
客を育てる意識ってェのも、ちったァ……米の二、三粒程度でいいんだ、持っててもバチは当たらんもんだと思うんだよ。おれは、な?」
【四把目 其之三に続く】
お読みいただきありがとうございましたm(__)m
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それでは。
こーんな端っこまでお読みいただいて、感謝感激アメアラレ♪
次回をお楽しみにね、バイバイ~(ΦωΦ)ノシシ
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