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森のブック・カフェ

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#短編小説

百年探しつづけた犬【SF短編小説】

「こんにちは」  僕はその声を聞いて、目を開けた。目線を下げて、足元を見下ろす。透明な壁の向こうに、空色の小さな巻き毛の塊がある。記憶ライブラリで照合する……『犬』。  巻き毛の中から、焦茶色の眼が見えた。丸くて艶々に光るその眼は僕の目を見つめる。僕も見つめ返し、発声してみる。 「こんにちは」  巻き毛の塊は尻尾をちょこちょこ動かして、その場でぴょんと小さく跳ねた。“それ”から、また声が聞こえた。 「良かった。起動した。君にはわたしが見える?どう見える?」  僕は答えた。

理想郷の墓掘り人【SF短編小説】

 マキハラは、“Twilight Clean Service”のロゴが大きく描かれた社用車に乗り込むと、行き先を入力した。助手席に相棒のコウダが乗り込み、マキハラにコーヒーゼリー飲料のパックを手渡した。車は目的地に向かって自動走行を開始した。  移動時の雑談は、彼の楽しみのひとつだ。自宅での会話も悪くないのだが、やはり人間相手の会話の方が楽しいと感じる。ただ、それを若いコウダに言うのは憚られた。”ロボットより人間の方が〜”という文脈が「差別用語」化して久しい。彼は、結婚は基