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2019年度 新潟大学 法学部 前期試験 小論文 模範解答

 

 高齢運転者に対して運転免許証を強制返納させるメリットは大きく二点が挙げられる。第一に、運転免許証の強制返納によって高齢者が自動車の運転を行わなくなれば、端的に高齢運転者の死亡事故件数が減少することが見込まれる点である。第二に、運転免許証の強制返納によって、高齢運転者による事故を抑止することは、高齢者自身の身の安全にもつながる点が挙げられる。他方でデメリットとしては、高齢者の移動手段を奪うことになる点が考えられる。たとえば、我が国における過疎地域などでは、自動車は生活に必要な買い物や通院などの移動手段として、高齢者にとって不可欠である。しかし、運転免許証の強制返納によって高齢者から自動車などの移動手段を奪うことは、高齢者の生活基盤を崩すことになる。 
 それでは、上記のようなメリット、デメリットを勘案したうえで、高齢運転者の運転免許証を強制返納させることは妥当であるだろうか。私は、高齢運転者の運転免許証強制返納は交通死亡事故件数や割合の増加の状況を鑑みれば、妥当であると考える。その理由は、二点ある。第一に、免許の強制返納によって高齢者が自動車の運転をしなくなれば、端的に高齢運転者の死亡事故件数が減少することが期待できるからである。第二に、高齢者特有の事情である運動能力や判断力の低下は、高齢になればごく自然に生じることであり、多くの高齢者にとって不可避であるからだ。
 ただし、運転免許の強制返納については条件がある。というのも、上記のように、運転免許証の強制返納により高齢者から移動手段を奪うことは、高齢者の生活基盤を崩すことになるからだ。したがって、自動車という移動手段を代替する方法や生活基盤を守る設備や制度を実現することが条件となる。たとえば、自動車に代わる移動手段として、公共交通機関であるバスの路線や運行本数を増加させることが必要となる。また、運転免許を返納すれば過疎地などでは高齢者が自ら車を運転して買い物や通院などに行けなくなるため、移動販売車を定期的に高齢者の居宅に向かわせることや、オンラインにて医師の問診を受けることができる体制を整えたり、訪問看護などの制度をこれまで以上に充実させる必要があるといえる。つまり、移動手段を失う高齢者の生活をこれまでと変わらないようにする体制を整備することが、高齢運転者の運転免許強制返納に対する条件となると考える。(987字)

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