創業232周年祭開幕、進む現代日本最大級の大木桶づくり~笛木醤油(埼玉県川島町)~
2021年9月10日(金)、埼玉県川島町の笛木醤油株式会社で創業232周年祭が開幕した。今回の目玉の1つは、現代日本では最大級となる30石、高さ直径ともに2メートルを超える大木桶づくりだ。
9月6日(月)、日本各地で、醤油や味噌、酒などを醸造する大桶の製造や修理を行っている木桶職人集団「結い物で繋ぐ会」のメンバーが笛木醤油に集結、同月8日(水)から組み立てを開始した。
日本の伝統的な調味料である醤油は、杉の大木桶で「もろみ」を季節の温度変化に寄り添いじっくりと仕込むのが伝統的な製造法だった。現在は、日本で作られる醤油の98%が効率化重視でステンレスタンクで温度を管理しながら年間を通じて発酵を行う手法で製造されている。
これに伴い、大きな木桶を作る技術も衰退。高さ2メートルを超える30石の大木桶は、現存する桶職人の誰も作ったことがないサイズだという。(「結い物で繋ぐ会」ウェブサイトによると、香川県小豆島町のヤマロク醤油では毎年正月に20石(高さ・直径1.85メートル)の大桶を作っている。)
実はこれだけの大プロジェクト、たかだか1週間程度で出来るものではない。笛木醤油十二代目当主・代表取締役社長の笛木吉五郎氏によると、今回組み立てる大木桶の大枠は、2019年に製造が開始され、佐渡国小木民族博物館(新潟県佐渡市宿根木)で保存展示されていたものだという。
では、今回の創業祭の大木桶づくりは単なる分解組み立てかというとそうでもない。本体の杉材も、それを締める箍(たが)の竹も生き物だ。今年の組み直しに当たっては、本体の杉板の追加をはじめ細かい調整と仕上げが続いている。
笛木醤油は2016年から半世紀ぶりに木桶の製作を再開した。徐々に大きさを増し、2018年には埼玉県内の杉と竹を使って20石のサイズまでは実現した。サイズが大きくなるに従い、材料の調達も、実用に足る加工の精度を保つのも、困難さを増すと笛木社長は語る。
なぜ笛木醤油は失われた大木桶づくりの技の復活に取り組むのか。
「ステンレスタンクと異なり、木桶では酵母菌などの微生物が生き続け、季節とともにじっくりと発酵が進む。日本の和食文化の根幹を担う調味料を、昔ながらの伝統製法で作り、この蔵だけの味を作り続ける。それがサステイナブルな未来につながるのではないか。」(笛木社長)
笛木醤油の蔵では、いまも50年以上前に作られた木桶が「笛木醤油ならでは」の味を醸し続けている。木桶の中にもろみを入れて醸し続ける限り、木桶は長持ちするというが、この味を社長の子どもたち、十三代目につなげていけるかは、私たち消費者の選択による今後の日本の食文化の展開にかかっている。
笛木醤油では、2019年11月に「金笛しょうゆ楽校」(工場見学)を開校、平日は1日3回、土日祝は1日11回もの頻度で見学者を受け入れている(無料)。私たちは次の世代にどんな食文化をつなげていくべきなのか、考えてみるいい機会になるかもしれない。
創業祭は9月12日(日)15:00まで。大木桶の完成披露は、同日(日)正午頃を予定している。