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現代アート研究

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現代アートを学び始めた外資系IT企業のプリセールス。 難解な現代アートを探求する学びの記録。
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2020年6月の記事一覧

Les Immatériaux or How to Construct the History of Exhibitions 考察メモ

非物質化または展覧会の歴史の構築の仕方。TATE PAPERSとして公開されているテキストを読んでみたメモ。JOHN RAJCHMAN の2009年に書かれたテキスト。 1985年の『Les Immatériaux(非物質的なものたち)』展は、哲学から現代アートへ接続する展覧会だった。それは、アートの境界を解放し、何にでも接続できるように捉えなおした、ある種の実験的な取り組みだったのだろうと推測する。その後の展覧会においても、考え方の拡張を提示することとなった。これほど重大

表象文化論学会 第10回大会 パネル2: 今日のLes immatériaux

2015年に、表象文化論学会のパネル2でジャン=フランソワ・リオタールの『非物質的なものたち』展について、発表が行われていたらしい。 「Les immatériaux(非物質的なものたち)」とは、哲学者ジャン゠フランソワ・リオタールが共同企画し、1985年にポンピドゥー・センターで開催された展覧会のタイトルである。芸術作品が、さまざまな科学的イメージ、そして工業製品やポピュラー・カルチャーなどと無差別に並置され、定まった順路のない会場を鑑賞者は無線レシーバーを装着して歩きま

中野香織『「イノベーター」で読むアパレル全史』 読書メモ

イノベーター。ファッション・アパレル界隈では、そうした突出した革新者の出現によって、それまでとは違った世界が出現する。 ファッション。人の姿を象る。実用なのか、夢なのか、華やかなようでいて、泥臭い業界でもある。 コンサルタントとして、2013年からファッション業界の裏方、サプライチェーンや e コマース周りの支援をしてきた。製造、製薬、消費財、小売り、金融、総合商社、様々な業界、業種の仕事をしてきたけれど、ファッション業界の経験が一番長くなった。現代アートの研究によって、

東京 TOKYO / MIKA NINAGAWA @ PARCO MUSEUM TOKYO 鑑賞メモ

恥ずかしながら(?)、大学院に進学するまで蜷川実花なる人物を知らなかった。まぁ、どんなに有名人であっても知らない人は知らない。世の中、そんな感じでいいと思っている。現代アートを研究するようになって、個人の仕事に注目するようになった。最近はアーティスト・コレクティブもあるけれど、個人の名前で勝負しているというのは変わらないと思う。 6月から営業再開した渋谷パルコ。泉水さんの話を聞いたのは今年のことだった。そういえば、その話をnoteに書くのを忘れていた。さて、500枚の写真を

ジャン=フランソワ・リオタール『知識人の終焉〈新装版〉』読書メモ

リオタールの『知識人の終焉』を読んでみた。この本を手に取ったきっかけは、あまりにも『ポスト・モダンの条件』が分かりづらかったから。この人の言うことを、違った翻訳で著した本からアプローチしてみようと思った次第。この『知識人の終焉』は、『ポスト・モダンの条件』の姉妹書とされている。 科学者、技術者とは、その領域で最高のパフォーマンスを発揮することを目的としている。インプットとアウトプットを収入と支出という観点で整理し、それに手を貸すテクノロジー。複雑な科学技術が何を表しているの

ピーター・ドイグ展 @ 東京国立近代美術館 鑑賞メモ

当初は、予約制だったけれど、それは解除されたみたい。混雑しない程度の制限は行っているみたいだけど、予約無しでも鑑賞することができる。 壁面を覆いつくすかのような巨大な作品。絵本のような印象でもあるが、見ていると吸い込まれていくかのような感覚がある。絵の大きさが、視線を動かし、見ていく順序によって、鑑賞者それぞれの物語が進行していくかのようである。 ニコニコ美術館、Eテレでのインタビューなども見ていたが、やはり、自分の目でスケール感を含めた体験をすることが、大事だと思った。

オラファー・エリアソン ときに川は橋となる @ 東京都現代美術館 鑑賞メモ

ようやくオープンしたオラファー・エリアソンの展覧会『ときに川は橋となる』、小学生の娘二人を連れて鑑賞に出かけてみた。小学生を連れて行ったのは、このオラファーの展覧会が、教育的な意味があるのではないか?そうしたゼミ同級生の問いかけがあり、僕も、それに興味があったから。 平日の休み、時間短縮の小学校の授業終了を待って、清澄白河までやってきた。午後になっていたからか、想定よりも人が多いなと思った。K先輩は展示再開初日に訪問したと話してくれて、開館1時間前から行列ができていたという

Visiting Art Basel From the Hamptons Will Test Online Model

アート・バーゼルのニュースでメール・ボックスが溢れ出した。遠いスイスで開催されているフェアがオンラインになったことで、随分身近に感じるようになった。ブルームバーグの記事、高級別荘地のザ・ハンプトンズからオンラインでアート・バーゼルを見る。オンラインのテストを行っているということ。 https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-06-17/visiting-art-basel-from-the-hamptons-will-test-

中野香織『モードとエロスと資本』 読書メモ

ファッションというのは、現代アートと同じように時代を写す鏡である。本業のコンサルティング現場において、企業を動かす人たちがファッションに興味が無いと言ってのけるのは、ビジネスに関する今後の展望に興味がありませんと言っているのと等しいようにも感じる。まぁ業界、業種に因るのだけども。 『モードとエロスと資本』。この3つを関連付けて書籍として読むということに興味があった。ファッション・アパレルのサプライチェーンマネジメント(SCM)変革の仕事を長くやっていたけれど、モードについて

ルーシー・R・リパード『美術の非物質化』 読書メモ

よく手に入れられたものである。 美術手帖の1973年7月号。 国立国会図書館に予約申請をして閲覧に行こうと考えていた。まだ、図書館に自由に入れない。 1960年より前の20年間に特徴的だった反知性的・情感的・直観的な制作プロセスは、もっぱら思考のプロセスに重点を置くようになった。オブジェが単に、結果としての産物に過ぎないものになり、スタジオが書斎と化した。 いま現在、視覚芸術は、一見して二つの源泉から出てきているようではあるが、実はひとつの場所へ向かう二つの道であると

誰が、どんなアートをオンラインで買っているか?

アート・バーゼルのオンライン・ビューイング・ルームが 6/19 からオープンする。それに合わせて、フィナンシャル・タイムで一連の記事が公開されていて、そのうち気になった記事について考えたことをテキストとして残しておこうと思った。 オンライン・ビューイング・ルームによるデジタル体験の再評価が行われてるということ アート・アドバイザー、アート・ライターの Melanie Gerlis 氏のテキスト、オンラインでアートを買っているのは、どんな人なのか、また、買った作品は、どのよ

アートワールドの未来はデジタル(のみ)ではない

フィナンシャル・タイムズのオンライン・レポート、アート・バーゼルのグローバル・ディレクター、Marc Spiegler のレポート。コロナ禍において、アート・ワールドがどのような影響を受けたのか。これは、この論考を読んでみた考察のテキスト。 Marc Spiegler, the global director of Art Basel, penned a piece for the Financial Times about the pandemic's impact on

SHOHEI YAMAMOTO 山本捷平 iconic @ MEDEL GALLERY SHU 鑑賞メモ

緊急事態宣言が解除されて、帝国ホテルプラザの営業が再開。MEDEL GALLERY SHUも当初ビューイングルームだけの展開だったものが1週間だけ展示ができた。期間が短いので急いで見に行く。 アンスティチュ・フランセ東京で受賞トークショーに参加した。去年のことだと思ってたけれど、これ今年の1月のことだったんだ。 アンスティチュ・フランセの展示で見たradialシリーズ、形とコントラストと色の組み合わせに目が離せなくなったタイミングがある。たしか、展覧会の様子を伝えるTwi

渋谷 典子 原宿1980 ─日曜日のヒ-ロ-たち─ @ Place M 鑑賞メモ

ベトナム戦争と学生運動の70年代。 バブル経済崩壊、東西冷戦終結と湾岸戦争の90年代。 その時代の狭間、1980年代を写す渋谷典子の写真展。緊急事態宣言解除を受けて、Place Mで一週間だけオープンしていた。こんな時期だからアーティストは不在だったけれど、雄弁な写真にこの年代のパワーを感じた。 1980年代は、ベトナム戦争は終わったけれどイラン・イラク戦争が始まった。ワイドショーではスカッドミサイルのことをしきりに報じていたような気がする。身の回りの問題といえば、トヨ