2代目代表は「無味無臭」がいいー。組織の新陳代謝。
市川望美です。
2代目は「無味無臭」がいいー。この言葉は、創業者がそれぞれの前職時代に出会っていて、ほぼ同じ頃に創業したというご縁からも親しくさせてもらっている、NPO法人Arrow Arrowの創業者ほーりーこと堀江さん、2代目代表ちいさんこと海野さんと、Polarisの創業者である私、われらが2代目代表昌美ちゃんなどなどで「2代目飲み会」をやった時に出た言葉です。
厳密にいえば、「創業者は業(カルマ)みたいなもの、二代目は無味無臭がいい」というセットです。
代替わりの難しさ
私たちがいる非営利セクター、ソーシャルセクターは「ビジョン」や「想い」が大事だったりするので、創業時の熱量やキャラクターで引っ張り続けることも多く、「代替わりできないこと」が課題となることも多いのですが、そもそもPolarisは、創業時から「代表はできれば3年か5年で交代」と考えていました。誰になるかは決めていないし、現段階では分からないけど、私じゃない人が担うようにしようと。
「未来におけるあたりまえのはたらき方を創る」を掲げている以上、「今はまだない」ものだし、見て取れる実績もないわけだから、ある意味、創業初期は創業者の一人舞台となります。エビデンスもないから、可能性を担保にするしかない。人もいないから、一人何役もやり、扇子で蕎麦を食べるように、小道具を使う。
ない中で、「こんな未来をつくりたい」と指し示す必要があるけれど、なるべく早い段階で「実体化」させていかないといけない。
一人舞台から群像劇、ノンフィクションへ。
また、事業の持続的な発展のためにも、「組織化」「仕組み化」が必要不可欠で、そうなると創業者の想いやら熱量やらキャラクターというものが邪魔になる。
創業者のアイデアとか言葉って強いし、特に私はそうみたいで、「みんなで協力しながら」「対等に」と思って心掛けたとしても、どうしても「のぞみさんの組織」「のぞみさんが立ち上げた会社」という認識のもと「のぞみさんならどう考えるか」を追い求めがち。
一日も早く、一刻も早く、「わたしたちの組織」「みんなの会社」にしたい。それぞれの言葉でPolarisや事業を語ってほしい。そんな風に思っていました。
それを実現するために一番有効なのは、代表者が変わることである、というリクツです。
もちろん、「産みの母」として法人への愛着はあるし、寂しくないわけではないけれど、それよりも「なるべく多くの人に育ててもらおう」という想いの方が強かったし、産みの親が近くにいないほうが、「Polarisちゃん」に関わりやすいに決まってる。
「創業者=ファウンダー」というものは、一生変わらない肩書き・・・たとえこの場を離れても、どこにいてもPolarisちゃんの母であることは忘れない。ずうっと背負っていくわと。そんな風に思っていました。(おおげさ)
たまたま親しくしていたArrow Arrowさんが、代表交代をされたので、代表交代ってなかなか難しいよね!この辺の話聞きたい人沢山いるんだろうね、なんて話の流れから、創業者と2代目がセットになって「代表交代」について話そう、というのが冒頭の飲み会セッティングの狙いでした。
2代目が持つ雰囲気も近いものがあるよね、というのもあって。
創業者は「業」(カルマ)
創業者である私の持論であり、免罪符でもありますが、創業者というのは「業」(カルマ)みたいなものだと思っています。
カルマは宗教やスピリチュアルな視点でいろんな意味がありますが、私がこの言葉を使ったのは、自分がこれをやることは前世から決まっている、といったニュアンス。
・・・実際は、共感してくれる人や一緒にやってくれる仲間がいるからこそ事業が立ち上がるわけで、自分ひとりだって、みたいな言葉はちょっと乱暴すぎるのですが、これに近いテンションです。
できるできないとか、やりたいとかやりたくないとか、そんな話じゃなく、「私がやることだと知っている」みたいな。これはもう、何らかの因縁がある、みたいな。それはもはや「業」(カルマ)みたいなもんだよねと。
でも、そんなテンションで次を担ってくれる人なんていないし、むしろ、つきものを落としてくれるかのような、清涼感・清潔感がある人が2代目になってくれると、創業者の泥臭さが洗練されて、自分たちが言いたいことがもっと伝わるようになったり、世の中が受け取りやすくなるのではないかと。
彼女たちのことを考えると、有名なこの動画を思い出します。
デレク・シヴァーズ: 社会運動はどうやって起こすか | TED Talk
最初の「フォロワー」が来てくれることで、1人のバカがリーダーとなるし、フォローするというのは、リーダーシップの一つのありかただと。
2人目が来ることで、3人目が来る。3人になれば集団となり、それはニュースとなり、運動が公のものとなると、デレクは教えてくれています。(面白い動画なので見たことない方がいたらぜひリンクへ)
2代目が持つ「ろ過装置」
で、なぜ「無味無臭がいい」という話になったかというと、2代目が抱えがちな悩みや苦悩というのは、「創業者みたいに熱量高くできないこと」が多いけど、実際の所そんなものはいらないと。
創業者が持つアクを抜いてくれるようなさわやかさこそ必要で、泥水を衛生的な水に換えてくれるろ過装置付きのストローのような人であってほしいと。
本人はああ見えてとてもタフなんだけどね。だって、まだ何物でもない頃から一緒にやってきて、道なき道をともに歩いてきた。2代目には、清濁併せ呑むハートの強さと消化力があるかもしれないけど、それは普段は引っ込んでいて見えない、隠された爪なのです。広げていくためにはむしろ「ろ過装置」が必要。雑味もクセもない。衛生的。だからこそみんなが安心して飲める。人を集められる。
2代目は、無味無臭であることがスバラシイんだって!泥水が飲料水に変わる魔法のストローがあなたたちなのだ、と、酔っ払いながら気持ちよく語ったことを覚えています。ディスってるのかリスペクトしてるのか分からない発言のように聞こえますが、完全にリスペクトです。
2代目だからこそ実現できる、フォロワーシップのチームづくり
Polarisについて言えば、代表交代は「フォロワーシップ経営への舵きり」の象徴でもありました。創業者のビジョンによるトップダウンではなく、関わる現場のみんなからの声をきく、「フォロワーシップによる経営」こそが、Polarisの第二創業を実現するために最重要な要素。
わたし自身が、自分の限界というものをよくよくわかっていたんだと思います。私じゃできないことを、2代目の代表はできる。
掲げたビジョンを追いかけるのではなく、関わってくれるみんなを見る、後ろから支えていく。強すぎないリーダーシップ(サーバント・リーダー)だからこそ、関わる余地や余白、アソビが生まれる。
2代目は、フォロワーシップによるチームづくり、組織づくりをすることに長けている、と思っています。変な確信がないから聞く耳があるし、みんなの想いが集まりやすい。
これは、すべての組織に当てはまるわけじゃないけれど、創業者と2代目の関係性を示すには、そうそう的外れではないんじゃないかしら。
代表交代して4年たったPolaris。あの時に代表交代できてよかったと、みんな思えているはず。
「権限渡したいけど、頼りないわ」と思っている創業者の方は、「頼りなさ」というのは自分が持っていない、最大の武器であることを知った方がいいと思う。
「ファウンダー」とは「初恋の人」みたいなもので、忘れられない存在なのです。(ほんとか) だから、安心して次に渡せばいい。「ファウンダー」という業だけを味わう楽しさや、新しい何かをつくることにふけった方が、きっとあなたは役に立つ。忘れ去られることも、ある種の爽快感が伴うのかもしれないなって思う。
自分たちの存在がこの世の中から必要なくなることが、ソーシャルセクターが目指すべき最大の成功だとすれば、創業者が抱えてきた「業」も解消されるしね。
(私はいろんな創業者に「ファウンダー、いいですよー、気が楽ですよー 組織もいい感じで代替わりできますよーと囁く)
「あんな風にできない」と、くよくよしている2代目がいたら「無味無臭でいいんだ!それだからいいんだ!」と、開き直って自信を持ってください。
創業者は業であり、治ることのない、重い病にかかっているようなものなのです。
あなただからこそ見えたり気が付けたりすることもあるし、実現できるチームづくりがあるのだと思うのです。
なにより「捨てる」こともできる。
組織をあなたが引き受けてくれたこと、それだけでも称賛に値する。
組織に必要な新陳代謝であり、今までと違うものへと変化すること。そのものに重要な価値があると思っています。
創業者は業であり、二代目は無味無臭がいい。というお話でした。
Polarisの経営メンバーは5人です。(↓)