同期の結婚式余興ムービーを撮りに、富士山の頂きへ
同期が結婚する。
同期男子4人組の中で1番優しい青年が、結婚することになった。同期初の結婚である。
そんな新郎から同期男子にLINEが届いた。
半ば興奮気味にLINEを返した気がする。これまで一度も富士山には登ったことがない。新郎も他の同期男子も、もちろん登ったことがない。しかし、こんな機会がないと富士山には登らないかもしれない。今回こそ、初めての富士山にふさわしい。このために初めてをとっておいたのかもしれない。
とりあえず、ガイドさん付きの富士登山ツアーに申し込んだ。準備は万端だ。
せっかく登るのだから、新郎の富士登山の一部始終を皆で撮り、結婚式の余興ムービーにしようということになった。内容は、新郎が同期男子に富士山を登りたいとLINEをしたくだりから、山頂までの険しい道のり、クライマックスの山頂で新婦に向けて"愛をさけぶ”というストーリーに決まった。そして、ぼくはムービーを編集する担当になった。撮影機材は、それぞれのiPhoneのみ。一抹の不安どころか、不安の山である。編集に備えて、MacBook Proをポチった。
季節は9月初旬。当日の富士山周辺の天候は曇りのち雨だった。5合目に到着したころはまだ曇り空だったが、雲が厚い。風が強い。そしてなにより、大型で強い勢力の台風が富士山方面に向かって進んできている。
台風の存在には1週間ほど前から気づいていたが、同期男子で日取りを再調整しようにも、結婚式まであまりに日がない。結婚式の余興ムービーを富士山で撮ると決めたぼくたちは、代案を用意していない。そうこうしてると、もう5合目にまで来てしまった。もう、引き返せない。
ツアーなので、インストラクターさんと数十人で登る。夕方には7合目の山小屋へ泊まることになっている。登り始めると、雨が降り始めた。レインウェアを着る。風が強い。普段運動をしてないので、斜面がきつい。当たり前だが、ずっと上り坂だ。もはや、撮影どころではない。
登るにつれ、雨が少しずつ強まる。とりあえず、思い思いの写真は撮った。動画もたぶん撮った。山小屋に着く頃には真っ暗になっていた。
ご来光のツアーだったので、山小屋で仮眠後、ご来光に向けて夜中に再出発することになっている。天気予報では台風が一段と接近していた。山小屋の屋根に打ちつける雨音がすさまじい。
ほとんど寝れない状況で、仮眠から覚める。インストラクターさんから、今の状況で山小屋から外に出るのは危険だとの判断がくだり、ひとまず日が昇るまでは寝ててよいことになった。
目が覚めると、ご来光などどうに終えたお日様が、それなりの高さに昇っていた。天気は回復しつつあるものの、インストラクターさんの判断で、風が強いため下山することになった。
外はこんな感じである。
新郎の背中がさみしい。
はじめての富士山は、頂きを踏むことなく、下山となった。新郎は登れなかったことを悔しがっていたが、ぼくはそんなことより、結婚式の余興ムービーをどうするかで頭がいっぱいだった。
正直、5合目から7合目までの動画と写真しかない。撮れていたとしても、いい画はない。もう、びっくりするくらい素材がない。こんな感じのカメラロールである。
帰宅し、ムービー編集作業がはじまる。結婚式場へのデータ提出期限から逆算して、買ったばかりのMacBook Proでムービーを作る。繰り返すが、びっくりするくらい、素材がない。
諦めかけていたころ、MacBook Proの画面が見たことない様子になった。
何かがおかしい。
画面のやや右に何かが幅を効かせ、画面がちらつく。なんだこれは。もともとムービーの作業は進んでないが、これによって本当に進まなくなった。とにかく、Appleへ修理に出すことに。その間、編集はできない。新郎には、この写真を送り、結婚式場へのムービーの提出期限を延ばしてもらうようにお願いした。
時が経ち、復活したMacBook Proでムービーづくりを再開する。しかし、どうあがいても、素材がないし、腕もない。もう、いっそのこと、ストーリーをぎゅーーーーっと縮めることにした。
ムービーでは登りながら新郎にインタビューしたり、コメントをところどころでもらっていた。しかし、音声は全てカットすることにした。もう、音楽を流そう。映像のバックで流れる曲は、WANIMA「やってみよう」に決めた。ちょうどauのCMがテレビから流れていて、明るそうという理由で決めた。時間もないので迷いはない。1曲約3分ということで、通しで使ってもちょうどよさそう。長い余興よりも、3分くらいのほうがいいはずだ。
ちょうど、WANIMA「やってみよう」の歌詞ともリンクし、締めがちょうどいい感じにはまった。そういうわけで、結婚式場への提出期限(延長後)の日の明け方、ついにムービーが完成した。眠い。もうあとは、当日、結婚式の会場で直接、新郎から新婦へ愛を叫んでもらおうじゃないか。なにも富士山の上である必要はないのだ。きっと、もう結婚式の会場が富士山の頂上であり、日本のてっぺんである。そんな感じだ。たぶんこれでいい。自分を納得させ、結婚式場へムービーを送った。
結婚式当日。余興ムービーが流れはじめると、ドキドキした。正直クオリティは二の次で、バトンパスをするのがこのムービーの役割だ。きっとあとはなんとか新郎がやってくれる。
ムービーが終わり、新郎がおもむろに立ち上がる。
新婦に向かって、「本当は日本の一番高いところから伝えたかったけど…台風が直撃しました。7合目までしか登れてません。 ◯◯さん、愛してます! これからも末永くよろしくお願いします!!!!」。
拍手喝采だった。
富士山の頂上には登れなかったけど、これで良かったと思う。もうこの温かい拍手の溢れる会場が、もはや富士山の頂上だ。そういうことでおおむね合ってる。
そういうわけで、ぼくたちの初めての富士登山は幕を閉じた。
ちなみに、富士登山ツアーの帰りのバスで、「富士山登頂認定証」が配られた。登頂してないが、認定してくれるらしい。日付は空欄だった。登頂した日は、結婚式の日ということで。
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