
中村天風と健康法
中村天風の思想の解説本はたくさん出ていますが、そのなかでほとんど触れられていないのは、食事のことでしょう。天風は食事をかなり重視しており、『錬身抄』にはかなり細かく書かれています。
天風は心身相互の鍛錬、すなわち心をつねに積極的に保つこと、身体を健康な状態に保つことを重視しています。積極的な精神を保ち、消極的な要素を心から排し、クンバハカと言われるヨガ、瞑想を日々実践して、神経作用の調節などをすれば、成功も長寿もかなうというわけです。
身体を健康な状態に保つには、ヨガや瞑想だけでは足りません。食生活の健全化も重要です。毎日、煙草に大酒、濃厚なラーメンに脂たっぷりのビフテキという食生活を送っていれば、とうてい健康も長生も無理でしょう(そんな生活で長生きできる人がいなくはありませんが)。
『錬身抄』では、肉食は可能な限り減らすよう書かれています。もちろん、煙草も酒も駄目です。人間は果食動物なので、果物を中心にすると良いのだそうです。しかし、これは(お金がかかるので)難しいとも書かれています。
この本が書かれた戦後すぐのころでも難しかったようですが、いまはもっと難しくなっています。果物は大袈裟に言えば、いまや高嶺の花です。
野菜をとにかくたべるといいそうです。生の野菜も毎日食べるとよいとのこと。日本は野菜が高いので、これも大変ですが。
そして、血液をきれいに保つために、塩も砂糖も脂も少なめにすべきだということです。これもなかなか難しいです。
仕事をしていると、毎日の食事すべて手料理というわけにはいかないので、外食は避けられません。そうなると塩、砂糖、脂の多い料理しかありません。日本食は健康的というイメージがありますが、じつは塩も砂糖も多めです。
外食をやめるならスーパーやコンビニに買いに行くしかないのですが、すぐに食べられる、塩、砂糖の少ない食品を探すのは至難です。お弁当は塩、砂糖、油の三位一体の上に、いろいろ化学薬品も入っています。
天風は、糖分が多い上に栄養に乏しく、酸化食品である白米は勧めないので、おにぎりも駄目です。もちろん、パンも駄目です。ほとんどのパンは半分が糖分です。こうなると、食べるものがありません。
天風が薦める食生活は、大多数の人が満足できるものではないでしょう。それもあってか、天風の解説書でこれについて詳しく触れたものはほとんどないようです。
天風は自ら提唱した食生活を実践し、講演先で出された食事も、身体に悪いものはたべなかったそうです。また、酒も煙草も断っていたそうです。
その効果あって、92歳まで生きられたのでしょう。
なお、天風は若い時に重度の肺結核にかかり、肺機能が普通の人の半分以下しかなく、軍事探偵の時に負った怪我の後遺症もあったようなので、もし食生活に気を付けていなかったら長生は無理だったでしょう。
とは言え、肉も魚も減らし、塩分も糖分も脂も減らし、果物や野菜を豊富に摂取する食生活は、現代人にはなかなか厳しいものです。天風の生きた昭和のころでさえ難しかったと思いますが、食生活がすっかり欧米化した今は、なおのこと大変でしょう。
私はできるだけそのような食生活にするよう努めており、とりあえず酒はやめました。そのおかげで(かどうかは、はっきりはしませんが)胃腸の状態は以前よりよく、睡眠障害も改善しました。
酒は簡単にやめられましたが、甘いものをやめるのは難しく、ついつい菓子をつまんでしまいます。食事を控えるのは、楽しみを減らすことになるので、心を積極的にする鍛錬より、ある意味、厳しいと言えるかもしれません。
天風思想の解説書にあまり書かれていないのは、読者が嫌がるからかもしれません。好きなものをそれ食うなあれ食うなと言われるのは、意気消沈するものです。