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「オーロラってそうやって動くんだ、そうやって見えるんだ」をアイルランドの空で観察した話

オーロラを人生ではじめて見た!

今年の10月10日。家から5時間離れたアイルランド南部、コークの離島で出張を終え、夕飯も済ませた20時。お腹も膨れたし帰ろう、と思っていると、同僚のブライアン君からチームにメッセージが送られていた。

「今夜、アイルランドでかなり強めのオーロラが見られるらしいよ!時刻は分からないけど要チェックだよ!」な、何~っ?!今晩?!

アイルランドは北海道より8度ほど緯度が高いものの、北海道と同じタイミングでいつもオーロラが見られる日が到来する。今年はこれで3度目だ。私はいつも見逃しているし、そもそも人生で一度も見たことがない。

今年5月にオーロラを見に家の近くの海岸に行って、オーロラが見られなかった代わりに禅の好きなおじいさんと出会えた話は以前の記事で書いた。

そのおじいさんにも「オーロラが今晩見られるらしいですよ!」とメッセージを送っておく。それから予報サイトをいろいろ見たが、ブライアン君の言う通りはっきりとした時刻は不明らしかった。ただし「late evening to early night」と書いてあったため、深夜ではなさそうだ。ガッツポーズをする。

私はふと思う。今、調査帰りでレンタカーがある。コークからゴールウェイまで、明かりの少ない場所にはごまんと寄れるし、オーロラの出る北の空に正面を向いて4時間くらい走っていくのだ。………めちゃくちゃチャンスだ。帰りは遅くなってもいいから、絶対に見よう。こうしてオーロラチャレンジがスタートした。

コークからゴールウェイは普通、高速道路ではなく国道で北に進んでいく。高速道路に比べて、途中で脇に停車したり、ローカル線に気軽に降りて見えやすい場所を探したり出来るため、オーロラチャレンジにはもってこいだった。国道18号線を走っている最中、21時半頃、車を停車してXで「aurora Ireland」「aurora Cork」と検索し、目撃情報を集めた。すると、コークの南海岸ですでに30分前にオーロラを撮っている人達がいた。しまった、遅すぎたか?もうオーロラが出ているか、あるいは消えているということだ。急いで国道から、暗くて高台になりそうな場所に行くためにローカル線に降りた。幸い降りた道はどんどん斜面を登り、丘陵の農地帯に続いているようだった。しかし家や生け垣でなかなか北の空が見えないし、狭い道なので駐車できる場所も探さないといけない。

しばらく車を走らせて丘を登っていると、工事現場の入り口が脇に現れたので、駐車する。アイスランドでオーロラを見た同僚ヒューは「肉眼だとほんのり緑だなーって感じで、写真に撮ると普通オーロラって聞いてイメージするような、くっきり何色にも分かれた帯みたいなのが認識出来たよ」と言っていた。彼の言葉を元に、何かほんのり色づいてれば写真で確認しよう、と思っていた。北の方角を見てみる。あれ?緑色の水平方向の帯が見える気がする。しかし大きな町の方向も北だ。町の明かりの可能性もある。

写真に撮ってみよう。一眼を手に取り、車から出ると……………

死ぬほど寒い

本当に寒い。5分も外にいられないくらい。車の気温計を見ると、3℃だった。寒っ!

ちゃっちゃと撮っちゃおう!と思ってふと考える。オーロラ撮影の設定ってどうするんだっけ?スマホを見ようとしたけれど手がガチガチに震えていたので車に急いで戻る。えーなになに、絞りは小さく2.8くらい、シャッタースピードは遅く"1.3くらい、ISOは高く3200くらい。なるほど。寒さとオーロラが消えちゃうかもという焦燥感とトイレ行きたいという気持ちが混ざりつつ急いで設定をする。

外に出てシャッターを押すと……今度はピントが合わない!暗いし対象が遠くの星空なのに絞りが2.8だから、そりゃそうか。ど、どうしよう。とりあえず車にまた走って戻る。「オーロラ撮影 ピントが合わない」で検索する。探している最中、あ!マニュアルフォーカスは?と思い立ってまた外でチャレンジしてみると…………撮れた!

三脚なしなのでブレブレ。緑色の水平状の帯が見える気がするが、どうだ………?

そして、何となく緑だ!これは来たんじゃないか?!オーロラが、目の前に広がっているんじゃないか?

興奮を抑えつつ、もっと開けた場所ではっきり撮って確信しようと思った。これだと町の光で緑がかった写真になったのか、オーロラだったのか自信が持てない。そこでまた丘を登っていると、今度は目の前に赤色の垂直の帯が広がっているのが肉眼でもわずかに分かった。これは間違いない。こんな緑と赤に空が染まることは、オーロラかサーカス以外でなかなかないんじゃなかろうか。

ちなみに次の写真達はスマホの夜モードで撮影したもの。スマホってすごい。

こ、これは………まだサーカスの可能性も捨てきれない!

丘の上の道路で、広めの路側帯を発見した。向かい側は生け垣に囲まれた農場で、入り口のゲートの隙間から牧草地側を撮影すれば、障害物なしに空が撮れそうだった。今度は肉眼でもはっきりと、赤い垂直帯が北東側から広がり、緑の水平帯に重なっているのが見えた。

北東側の空
さっき下側にあった模様が少し上に来たのが分かるだろうか

写真を撮っている間にも光はどんどんと形を変えていき、北東側にいた赤い帯が北西の方へ移動していくのが見えた。オーロラってこうやって見え方が変わるんだ、というのをはじめて観察した。

しばらくすると、オーロラらしい垂れ幕状になった
またしばらくして、だんだんと色が薄くなってきた
代わりに、道路を挟んで北西側の光が濃くなっていた

完全にオーロラが北西側、私のいる場所からは見えない位置に移動したのを確認して、満足した。時計を見る。22時。家まで2時間半。よし、帰ろう!

帰りのドライブはへとへとだったけれど、たったさっき見たオーロラを思い出しては頭が冴えた。肉眼だと色は淡いこと、一つの方角でずっと観測出来るというよりは、だんだんと光の強さや帯の数や形を変えつつ動くこと………調べものをしないズボラな私は、この体験なしではこれらのことを一生知らなかったと思う。オーロラチャレンジ、また機会があればやってみたい。

余談で、先に述べた禅じいさんはこの日、オーロラを見逃したと言っていた。しかしそれよりもオークションで競り落とした日本刀が近々届くのに夢中らしく、「届いたら刻印されている漢字を訳してくれ!」とメッセージが来た。相変わらずの日本マニアである。


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