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【詩を食べるレシピ】いちめんほわほわの春がすみ(まど・みちお)/春のワンタン

詩を文字通り「味わう」ためのエッセイとレシピです。レシピもあるので、よかったら詩を読んで味わい、作って味わってみてください。

春はぼんやりする。

3年前くらいの春。ぽわ〜っと歩くわたしの前を、老人ふたりが連れ立って歩いていた。暖かい日で、彼らの白髪に光が遊んでいた。

「なつかしいねぇ」
「このあたり、昔は地球があったのにねぇ」
「そうだった、なつかしいねぇ」

彼らの会話が風に運ばれてきた。
もしかすると、「地球」というのは喫茶店かなにかの名前だったのかもしれないし、ただの聞き間違いだったのかもしれない。

でも、春のおだやかな光の中、会話におどろかなかった。むしろ、時空がワープしたような気がして心愉しかった。わたしもまた、どこから来て、どこへ行くのだろう。風がしずかに問う。

意識が時空にとけていく、春

そんな季節に、まど・みちおさんの「春がすみ」という詩を読んでみよう。意識がふわっと異次元にもっていかれる。

いちめん ほわほわの 春がすみ
ぼくは海のまん中に うかんでいて
ぷわん ぷわん あそんでいる

うまれる まえの ことなのやら
しんでからの ことなのやら
どっちなのやら わからないけれど
どっちかなのは よく わかる

「春がすみ」より一部抜粋

ほわほわ、ぷわんぷわん。海のまん中に浮かんでいると、自意識がとけていく。春がすみのなか、ただ、ただよう。

まど・みちおさんの詩は、この詩にかぎらず、人間なのか、何歳くらいなのか、(この詩では「ぼく」とあるものの)男女の別もはっきりしていない。つまり、「詩的一人称(詩のなかで主語となる人物像)」があいまいなのが魅力的だ。もちろん「詩的一人称≒作者」である詩もビリビリとリアルな感じがあっていいが、まどさんの詩を読むたびに幼い頃の気分になったり、人ではないものになったりできるのはこの曖昧さのおかげ。まどさんがさらりとやってのける「一人称を、詩を書いている自分から離脱させる行為」は真似しようにもできないなぁ、と思ってしまう。

えびのワンタンスープを作る+えび学

この詩からイメージするのは、「ぷわんぷわん」とただよう雲呑(ワンタン)。春だから桜色のえびにしようか。えびについて調べていたら、おもしろいことがわかった。

・えびは「節足動物」に分類され、水中でしか生きられないものがほとんどだが、一部、陸で生活するえび(キノボリエビ)もいる。→
・現存する生物(約300万種)のうち半分以上が節足動物。節足動物は古生代(約5億5000万年〜2億5000万年前)には現在とかなり近い形態をしていた。(今から6500万年前以降の新生代に多様化した哺乳類に比べ、大先輩にあたる)→
・甘えびやぼたんえびは「性転換」する。ソース→

えびは人間よりもずっとずっと前からいて、ずっと複雑なわかれかたをしているのだ。うまれるまえ、男にも女にもなるまえ、水から陸にのぼるまえ…いろんな「むかし」を喚起させる。

身近なえびについて妙に(?)くわしくなったところで、さっそくワンタンスープをつくろう。

【材料】2人分 
▼スープ
・水750cc
・中華スープのもと(味覇など)小さじ1.5(お好みで)
・薄口醤油小さじ1(お好みで)
・塩
・白ネギ1/2

▼ワンタン
・ワンタンの皮
・えび 大なら4尾、バナメイエビなどなら5〜6尾
・白ネギ1/2
・卵の白身1個分
・塩
・ごま油 少量
(分量外)片栗粉、水

①下準備。白ネギは半分きざみ、半分はスープ用に薄切りにする。
②えびはカラをむいて背わたをとる。片栗粉をまぶして水で洗いながす(こうするとくさみが取れ、プリプリになる)あらく包丁で刻んでたたく。

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③ワンタンの中身をつくる。白身、刻んだ白ネギ、えび、塩、ごま油をあえる。ほわほわとまとまったらOK
④スープをこさえる。味覇、塩、薄口醤油で味をみる。薄切りした白ネギをいれる(きのこなどを入れてもよい)。
⑤ワンタンを作る。③をティースプーン1杯ほどいれ(多いとやぶけるので少量で)、水で三角にとじる。(上の2辺に水をつける)

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⑥スープにワンタンを投入し、ゆでる。

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さっと色づいたえびのピンクが、春らしい。ぷわんぷわんと「雲を呑む」ように、ワンタンを口に運ぶと、むかし海でほわほわ揺れていた頃を思い出すかのようだ。

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作者について

まど・みちおさんについてはこちらの記事でも紹介しています。

どんだけすきな・・・すきなんです。社会人になってからすきになった。

詩人の目がわかるエッセイもおもしろい。


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