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心理学の再現性問題 4
このnoteを書いたのは西田さん.
前回の記事 心理学の再現性問題3 の続きです。
再現性の危機、その後
2011年に早急に解決するべき課題として現れた心理学の「再現性」をめぐる問題を受けて、現在では心理学だけではなく、医学・薬学系や生物学系など、いくつもの学術誌が具体的な対応策を発表しています。
日本の心理学系ジャーナルだと、例えば日本パーソナリティ心理学会は2018年に「追試研究」「事前登録研究」「事前登録追試研究」を導入することを発表しました。
加藤司(2018)「『パーソナリティ研究』の新たな挑戦――追試研究と事前登録研究の掲載について」『パーソナリティ研究』27 (2): 99-124.
研究の事前登録とは、著者がデータを収集するより前に、その研究における仮説や方法論をジャーナルに申請し、その申請が査読を通過すれば仮説が支持できたかどうかに関わらず論文が掲載される制度です。この制度のもとでなら、仮説を支持する結果にするためにデータを恣意的に扱ってしまうことや、仮説を支持する結果になった研究ばかりが発表されてしまうバイアスを防ぐことが期待できます。
また、こうした制度のもとなら、特に若手研究者は仮説を支持する結果を出さなければならないということよりも、より綿密で明確な仮説や方法論で研究計画を立てるということに、注力できるようになるでしょう。
「良い科学」であるために
この記事の最初に、「これは科学だ!」は言いにくいけれど「科学らしさを保つためには、どういった点を重視する必要があるのか」に対しては答えられると書きました。
心理学は、科学らしさを担う要素の一つである「再現性」の、その危機を自覚したとき、「慣習を変えるか、それとも科学であることをあきらめるか」というくらい重大な問いに直面したのだと思います。そしてこれは、おそらく歴史として記録されるだろう大きな変化なのでしょう。
この変化が、心理学、もっと広く言えば科学全体にどんな良い影響を与えるかということに、これからも注目していきたいですね。
文献案内
発表バイアス、p値ハッキング、心理学統計の手法、データ管理など、心理学の慣習が抱える問題点とその対応策が書かれた書籍です。
Chambers, Chris. (2017) The Seven Deadly Sins of Psychology: A Manifesto for Reforming the Culture of Scientific Practice. Prinston University Press. (=大塚紳一郎, 2019, 『心理学の7つの大罪』みすず書房.)
ベムの論文に対するウェイゲンメーカーズらの批判の2つ目と3つ目は、以下の研究ノートで簡単にまとめられています。
伊勢田哲治(2022)「 <研究ノート>境界設定問題の事例研究としての再現性の危機」『科学哲学科学史研究』16: 4-14.