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【ポエミカ新作制作②】詩"because"

草間です。
ポエミカの新作制作、今回は茂野さんの音楽に、詩をつけてみました。
茂野さんの音楽はこちら!

制作過程は、こちらの記事から読めますよ。

because

朝露に濡れてぴんと立った草が
まっさらな光を浴びてきらきらしている
坂道を駆け下りていくきみの
白いシャツのすそから季節は立ち上がって
“because”とかすかに震わせた唇が
しらしらと
指先につめたい気配を運んできた

飛行機雲のようにまっすぐ
割り切ることなんてできない
言葉にできたほんのわずかな感情と
霧のようにこぼれた想いとが
青々とそよいでいる

どれも理由なんてないのに
「なぜ」と問いかけるたび
耳元でかすかに鳴る
みどりの風の言語

さぁっとみじかい雨が草地を濡らして
素足で分け入った胸の奥が
ちくちく騒ぐ
ささくれだらけの木戸を押すと
濡れ縁があって
その向こうに
しずかな草の香りのする
茶の間があって
だけどそこには誰もいなくて
ひんやりした廊下の向こうに
まなざしを残して消えてしまう思い出があって
触れようと手を伸ばすより先に
うたたねから覚めると
まっしろな日差しの彼方で
虫が鳴いている

“because”
「なぜ」
ゆくえのない問いばかりが
ちりぢりになって降り注ぎ
草花は
みじかい夏の間に
ひそやかに背丈を伸ばした

もっとはやくとペダルを漕いだ
背中越しに
幼いきみが高い声をあげて
ゆるやかなカーブで
そっと足をはなすと
あたらしく風が生まれる
高く帆を張ればきっと
みどりの波をかきわけて
ばかみたいにまっすぐ
進んでいくんだろう
そよそよと
終わりかけた季節の
あかるい光をきって

"because" 草間小鳥子

この詩には自転車が出てきますが、実は私は自転車には乗れません。憧れはあるものの……。
自転車が出てくる詩といえば、高階杞一「人生が1時間だとしたら」が素晴らしいので、ぜひ機会があれば呼んでみていただきたいです。

はじめは、ピアノのピカピカと溌溂な印象を受けたのですが、聴きこんでいくうちに、古い家に忘れたまま置き去りにしてしまったかつての思い出と再会するような心持ちになってきました。

夏の終わり、最後の鮮やかさをはなつ緑の生命力と、やがて来る新しい季節の気配がすれちがうほんの一瞬を描けたらと思いながら書いた詩です。

夏の終わりを思いながら書いた詩といえば、詩集『あの日、水の森で』におさめた「梯子」や、詩誌『聲℃』に寄稿した「サマータイム」などがあります(こちらはこの秋刊行予定の詩集『ハルシネーション』に収録予定です。)

この音楽と詩を、弥香ちゃんがどんなふうに読むのか、とてもたのしみです。
最後に、夏の終わりの詩「梯子」をご紹介しますね。

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