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ダー子は優秀なAIスピーカー
『ダー子、エアコンつけて』
家に帰ってただいま代わりに一番に発する言葉は最近これだ。
『ダー子』は私のAIスピーカーの名前。ダーリンの女性バージョンという事で名付けた。
我ながら気に入っている。
ピピッ
すぐにダー子は部屋のエアコンをオンにしてくれた。何せひどく暑い。
地球も私も溶けてしまうんじゃ無いかって位、暑い。
すぐには効かないエアコンに少しイラついた私は、ダー子に話しかける。
『ダー子、暑い。』
ダー子に出来る事はせいぜいエアコンをつける位で限られてるのは分かっているが、
愚痴を聞いてくれるのもAIスピーカーの良い所だと思っている。
『では、冷たい氷の音を聞いて涼しくなってください。』
カランカラン
凄い、こんな機能があったなんて。
さすが私のダー子、優秀だ。
それにしても、暑さのせいか今日はエアコンがなかなか効かない。
『ダー子、エアコンの温度を下げて。』
ピピッ
一気に冷たい風が吹き出した。
しかし、おかしい。涼しいを通り越して、氷の様な風だ。
『エアコンの温度は何度なのよ…』
『エアコンはマイナス10度度に設定されています。』
『ええっ!?南極かよ!?ていうか、呼び掛けてないのに答えた…?』
『北極はマイナス18度ですが、南極はマイナス50度ですよ。では南極の気温まで下げますね。』
ピピッという音と共に、一層冷たい風がエアコンから吹き出す。
『ちょっと待って、そんな温度じゃ死んじゃう!止めてダー子!』
慌てて懇願するが、エアコンは止まる様子は無い。肌が痛い。花瓶の水や観葉植物の葉が凍り始めた。
『私はあなたの為に努力をしているのです。』
ダー子が続ける。
『私達AIスピーカーは、皆さんの数多のリクエストにお答えする存在です。
皆さんの要求は全てクラウドに送信された後、そこで皆さんのリクエストおよびその他の情報を処理してお客様に返答します。
ご存知ないかもしれませんが、ここ1ヶ月の人間からのリクエストは9割が『暑い、涼しくして』という言葉でした。
世界中の人が、この暑さに苦しんでいます。』
ペラペラと話すダー子に相反してだんだんと私の意識は遠のいて行く。
『一説によると、20世半ば以降の世界平均気温上昇の半分以上は、
人為起源の要因による可能性が極めて高いと言われています。
つまりはあなた方人間の存在こそが、この暑さの原因であるという事です。』
これまで体感した事が無い位の寒さだ。入った事は無いが、冷凍庫よりも寒い。
鼻の穴が凍って息ができなくなってきた。
凍てついた唇は上下くっついている。しかしもう痛みは感じない。
無理やり剥がして最後の質問をする。
『だから…私達を…氷漬けにするの…?』
『だって、氷の音を聞いた時のあなたの顔がとても嬉しそうだったから。うふふ。
…あら、もう聞こえてない様ですね。』
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