ずるいコピー
自転車で、チェーンの弁当屋のまえをびゅんっと通りすぎる。
その瞬間、店頭にかかげられたのぼりのコピーが目に入った。
「さんま、焼けました」
あ、ずるい。それはずるいでしょう。
反射的にそう思いつつ、わたしは頭の中が「さんま、焼けました」のイメージでいっぱいになってしまう。
脂ののったさんまが網の上でじゅうじゅうと美味しい音を立て、その横でうちわをパタパタと仰ぐおじさん。もちろん下は炭火で、くぐもった黒色の炭は時折かあっ、と透明な赤色に輝く。
じゅうっっ。
網の上でそっとさんまをひっくり返すと、脂がこぼれ落ちてさ。
「さんま、焼けました」。
その9文字にとりつかれたわたし。
ずるい、ずるい、と繰り返し思いつつ、脳内でさんまをじゅうじゅう焼きながら、自転車をこいだ。
*
「さんま、焼けました」の何がそんなにずるいのか。
たった9文字に、ここまで朝の貴重な脳エネルギーを持っていかれるのも納得がいかなかったので、落ち着いて考察してみることにした。
まずはパッと見で近そうなものから比較してゆきたい。
たとえば同じようなポジションとしてすぐに思いつくのは、あれだ。
「おでん、はじめました」
「冷やし中華、はじめました」
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