田舎暮らし マルマラ海沿い街道の旅★2019(11)
脇道から戻ります。
友人Mは仕事があるため、朝早くイスタンブールに戻りました。
私はもう1台の車の鍵を渡され、チャナッカレ近郊の村に残り、わずかな期間ではありますが、田舎のひとり暮らしを体験することになりました。
前日に買ったトマトとメロンを食べ、しばらく読書。
往きの飛行機の中で読みかけた「トルコ現代史 オスマン帝国崩壊からエルドアンの時代まで (中公新書)」を読了。
教授室から屋台まで、あらゆるところに肖像が掲げてある、ムスタファ・ケマル・アタテュルクが成し遂げたこと、彼の闘争、その後の政界の抗争と軍のクーデターが錯綜するトルコ政治史を学ぶ。
やはり、異国ではその国の歴史を勉強すると、見えてくるものがあるよね、とひとりつぶやく。
たまにグループツアーに参加して海外旅行に出かけることがありますが、一行の中で、その土地の歴史や文化、宗教などに、驚くほど関心がない人によく出会います。大金を出して参加しているのに、もったいないな、と心中思いますが、これは《余計なお世話》ですね。
《名所》で写真を撮り、《食事》にコメント(口に合わない、なんてのが多い)をする、──それだけを楽しむ人も、観光地の経済に大いに貢献しているのですから。
時折、バルコニーに出て、ダーダネルス海峡を行きかう船を眺め、PCに向かい、書きかけの物語をボチボチと。
本やPCを手に室内やバルコニーをうろうろした後、落ち着ける場所を見つけます。
食事は自分で作ることも考えましたが、ここに長逗留することを想定すると、近くのレストランを調べておくことが重要だ、と思い、街道沿いのレストラン「MANZARA」にでかけました。
サラダ9 TL、ラム肉のケバブ30 TL、チャイ3 TLを頼み、楽しみに待っていると、サラダに続いて肉料理が来たが??
ウェイターが、
「ラムが少ししかなかったので、チキン、ビーフとのミックスにした」
と言う。
おいおい、それならそうと、俺が注文した時に言えよ、と思うが、まあ、ここに住むことになるかもしれないし、土地の人とは仲良くしなくちゃ、と、
「All right」
と、そこは許容した。
味はまあまあ悪くないが、サラダは頼む必要なかったな、などと思いながら食事を終えると、52 TL(約1000円)請求される。
おいおい、ケバブは30 TLだから合計がおかしいだろ、と言うと、ミックスケバブに変更したから、とメニュー表を見せる。たしかに40 TLと書いてある。うーむ、これはキミたちの作戦かい?
まあしかし、郷に入れば郷に従え、とチップ5 TLを足して店を出る。
街道と海の間は一面のオリーブ畑である。
レストランでも、レモンとオリーブオイルは料理の皿と共に必ずサーブされる。
夕食には卵を茹で、シャワーを浴びた後、ビールを飲みながら、トマトと卵と日本製カップヌードルを食べた。その後、赤ワインの残りをのみながらトルコ産チーズを食べた。友人Mが昨夜スーパーで選んだこのチーズがなかなか美味い。
田舎のことゆえ、外は真っ暗で、
(こんなひとり暮らしに、長期間耐えられるだろうか?)
との不安はよぎる。
(まあ、近所に行きつけの飲み屋でもできれば大丈夫かもしれない)
(……しかし、トルコ語は絶対必要だな)
食後にPCを使っていると、外から私の名を呼ぶ声がする。
バルコニーに出ると、小柄な老人が隣からあいさつしてきた。スマホの番号を交換しよう、とジェスチャーで。
この隣人は英語がほとんど話せなかったので、スマホの「Google翻訳」を初めて使ってみた。誤訳もけっこうあったが、かなり使えることがわかる。
庭の境界越しに、お土産のクッキーと《忍者》の絵柄がついたユニクロTシャツを渡すと、畑でとれたばかりのグリーンペッパーとトマトをくれた。トマトは出荷するのか、山のようにあった。
黒いマスチフのような、大きく狂暴そうな犬が巨大な小屋の中にいた。
「こわくない、わしの友だちだ」
爺さんは言っていたが、俺はトモダチになれそうにないよ。
庭では鶏が放し飼いになっており、その鶏を狙う狐が近づくと、この《コワモテの友だち》が吠えて追い払うのだとか。
40歳くらいの息子さんが、夏の休暇の間、一家で同居して、魚釣りなどを楽しんでいるとのことで、出てきてあいさつした。
「Mがイスタンブールに帰っている間、あんたがひとりになるから、と連絡を受けた。何か困ったことがあったら言ってきなさい」
友人と隣人の配慮に感謝しつつ、田舎・ひとり暮らしの《初夜》は更けていった。