英語の試験2 「ヨロイは1領2領、小舟は1艘2艘、カニやイカは1杯2杯。英語の試験は、国語の試験なのです」
「人を信用しちゃあ、いかんのです!」事件以降、僕たちはロイド眼鏡の英語リーダー試験に、警戒感を強めてはいた。
── どこに地雷が埋まっているかわからない。
そうした警戒が次第に緩んでいった、後期試験、だったと思う、 ── 次の地雷がさく裂したのは。
教科書の英語教材に、「海産物に関する話」と「中世の武具に関する話」があった。
はっきり覚えていないが、前者は漁師が舟でエビ、カニ、イカなどを獲る、というようなストーリー、後者は博物館で鎧や兜を見て回るような話だったと思う。
そして、それら教科書掲載の英文の一部がそのまま出題され、和訳するように、というのが試験問題だった。
ごく普通の問題だった。僕たちはすっかり油断していた。
その英文には
「three crabs」
「two boats」
「five armors」
というように、「数詞+名詞」型語句がたくさん散りばめられていた。
僕は、そしてクラスメイトの多くが、
「カニ3匹」
「ボート2せき」
「5つのよろい」
などと訳していった。
翌週、答案が返された。
それらの語句を訳した箇所は、赤字で「|袈裟《けさ》切り」にあっており、ことごとく減点されていた。
ロイド先生は浅黒い顔を突き出し、眼鏡を指先で押さえて言った。
「授業中に話したはずです。モノには数え方がある。|箪笥《たんす》は1棹2棹、鎧は1領2領、鳥は1羽2羽、ウサギも1羽2羽、小さな船は1隻2隻ではなく1艘2艘、カニやイカは1杯2杯、と数える」
──それは確かに聞いたような気がする。しかし、誰もが授業中の雑談だと思っていた。
当然、またしても、教室はブーイングの嵐となった。
「これ、英語の試験じゃないの?」
「そんなの、日本語の問題じゃないか!」
「和訳は、意味さえあってりゃ、いいんじゃないのか!」
前回同様、嵐が静まるのを待ち、ロイド眼鏡は言い放った。
「英語の試験というのは、実は、国語の試験なのです」
この開き直りに、僕らはもう、それ以上、何も言えなかった。
さて。
その後の人生で、英語力は国語力と強く関連している、と思うことは何度もあった。特に、「Reading」力は共通点が多い。
結局、英語も国語(日本語)も、
➀「文字記号の連なり」から意味を読み解くルールを覚えること。
➁その「意味」の連なりから文章の内容を「想像」すること。
と言える。
➀を会得しなければ、どの言語のどんな語句も単なる記号の羅列だし、➁は、どの言語でもほぼ共通した、コミュニケーションの基本能力だ。
ただ、ロイド眼鏡がそこまで考えて言ったとは思えない。
「英語の試験というのは、実は、国語の試験なのです」
うーん。