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肩こり持ちの14歳が28歳で整体師になって開業するまでの話。#1
きっかけは、ひとつのFacebook投稿でした。
忘れもしない、2018年8月8日。
群馬の夏は過酷です。朝は暑すぎて目が覚めます。
その日もいつもの癖で、SNSをチェックしながらぼーっとしていました。
ふとFacebookを開くと、コトー先生が私の投稿をスクショして、自身の投稿でコメントを書いてくださっていました。
「どぅええええええ????」
目玉が飛び出るかと思いました。あれこれは夢かな?と。まだ寝てたっけ?と。
何度見返しても、そのスクショは私の投稿。5日前の8月3日に、コトー先生の施術を受けに行った時の感動を書いたものでした。
コトー先生とは、自由が丘の整体サロン「ソレシカ」オーナーの古藤格啓先生のことです。
当時私は、コトー先生の主催するセミナーに通っていました。
実はもう1年以上通っているのに、施術を受けたことはなかったのです。漠然と、このままではマズい!という危機感がありました。
なぜなら、今まで手技を覚えるときは、必ずその人の施術を最初から最後まで受けたことがあったから。受けた感覚まで覚えることができると、施術の精度が上がるような気がしていました。
その時は、実際に施術を受ければ、全部は無理でも少しくらいなら再現できるはず…と信じていたのです。
でもソレシカは常に予約が埋まっていて、クライアントさんからのSOSのお電話も絶えないサロン。こんな理由で私なんかが予約枠を取ってしまってもいいのだろうか……
恐れ多すぎるけれど、それでもコトー先生の施術が受けたい!と思って、ビクビクしながら予約をお願いしたのでした。
コトー先生は快く引き受けてくださいました。そして、運よく8月に予約を取ることができたのです。
***
8月3日、13時の予約。
憧れている先生の施術を受けに行くのに、私はものすごく緊張していました。何度も通っているはずの自由が丘駅前からの道。もう目をつぶっていても歩けそうなほどでしたが、途中何度も足が止まりそうになりました。
吹き出る汗は、真夏の暑さからなのか、はたまた冷や汗なのか。
若干ふらふらしながら奥沢のデザイナーズマンションに辿り着き、最上階601号室の呼び出しボタンを押しました。
『はいどうぞー』
スピーカーから先生の声。よかった、いつもと同じだ。
少しほっとしながらエレベーターに乗り、6階の赤いドアの前に降り立ちました。
「こんにちは……」
赤いドアを開けると、当たり前ですが、先生は施術中でした。
予約時間より少し早めに伺ったので、前の時間帯のクライアントさんがいらっしゃったのです。
そこは私の知っているソレシカとは違う、治療家の現場でした。
セミナーの時は、他の先生方と一緒にコトー先生の手技をシェアしてもらうため、家具の配置がかなり変わるのです。
施術スペースと、待合、受付。パッと見ではわからないけれど、ワンルームは空間がちゃんと整理されていました。
……どうしよう、帰りたい。
あまりのセンスの良さにいたたまれなくなって、とうとう訳の分からないことまで考え出す始末。カッコいいインテリアと、たくさん置かれたグリーン。部屋の中は、東京とは思えないほど空気が澄んでいました。
なのに、息苦しささえ感じられるようになり……
実際に施術を受けるまでに、何をお話していたかあまり覚えていません。
着替えるタイミングも見失ってしまって、ホントどれだけ緊張していたのでしょうか。告白前の男子中学生か。
それでも不思議なことに、施術が始まると、緊張がすーっとほどけていきました。
最初から最後まで、大きなやさしい手で包み込まれているような、守られているような感覚。
別格でした。
……遠いなぁ。
「再現」なんて、おこがましいほどのレベルの高さでした。
何が違うのだろう。
全部違う、と言えばそうなんだけど。
私がこの手になるには、いったいどれだけの経験が必要になるのだろう。
もし一生かけたとして、辿り着けるのだろうか。
清々しいほどの絶望と感動の中、帰りの高速バスで、スマホのメモ機能を使って必死に言葉を綴りました。
この気持ちを何とかして伝えたい!!
群馬へ帰る高速バスの中。書いては消し、書いては消しを繰り返していると、いつの間にかバスは高崎に着いていました。
たった2時間あれば行ける距離なのに。
それはあまりに遠く、長いものでした。
***
あのとき綴った文面が、コトー先生のタイムラインに載っている!!
何度も、何度も読み返して、嬉しくて、あったかくて、泣きました。
いつかは自分で開業させたい、また、するべき女性だ。
あなたならできる。
独り立ちする日を僕は楽しみにしているよ。
ーーコトー先生。本当に、そんな日は来るのでしょうか。
そう思ってから9か月後。
そんな日は、まさか、ついに来てしまったのでした。
これからのお話は、その日が来るまでのお話です。
始まりは今から17年前。
肩こり持ちの14歳が、進路希望調査票を前に悩むところから始まります。
次回もお付き合い頂けたら幸いです。