落語家・瀧川鯉八との出会い
2021年1月現在、わたしの頭の中はとある落語家のことでいっぱいだ。
なにせ、いま都内で唯一開いている定席、新宿は末廣亭1月下席、その夜席のトリを、その落語家が担っているのだ。聞けば、真打昇進から歴代最速での主任なのだそうだ。
彼の名前は、瀧川鯉八。
1981年鹿児島県生まれの落語家である。
瀧川鯉八との出会い
彼に出会ったのは、昨年2020年。わたしが26歳の誕生日を目前に控えた11月10日のことである。
この日、「寄席とやらに行ってみよ~」なんて軽いきもちで池袋演芸場に向かうことになったのは、講談師・神田伯山のラジオがきっかけだ。10月頭のラジオで「3人の落語家の真打……(当時、聞き慣れてなく理解できていない)何とかが面白い」、という話を聴いて興味をもったのだった。
当時の日記を見返すと、「真打」が何なのかも分かっておらず「?」がちゃんと書かれている。紹介されていた3人の落語家の名前も、何度も巻き戻しながら聴き取って、「せきせきてい えいたろう」「たきがわ こいはち」「かつら しんえもん」と平仮名でメモってある……このレベルの理解で現地に行った当時のわたしの勇気を褒めたたえたい。
▼2020年10月21日の記事
▼2020年11月16日の記事
さて11月10日。
池袋演芸場に到着早々、チケット売り場は?入るタイミングは?座る席は?……もう、分からないことばかりである。しかもこの日、「真打昇進披露興行」3会場の千秋楽。そんな熱を帯びた雰囲気の中、なにを思ったか、パイプ椅子で追加された最前ど真ん中の席に座ることに。なぜなんだ。
そうして何とか着席したのが中入りのタイミング。いよいよ始まるぞ、と幕が開いたかと思えば「口上」とやらが始まる。「落語の壇上ってこんなに派手だっけ……?」「あれ、想像と違うぞ……?」「うわ、3本締めとか久々すぎる……」、開幕早々そんな予想外の展開の連続だった。
こんなドキドキソワソワの中、わたしは瀧川鯉八に出会うことになる。
この日の鯉八師匠のネタは「ぷかぷか」。
新作落語を生で聞くのはこの日が初めてである。鯉八師匠の独特のリズムや声色も相まって、序盤は頭の中に小宇宙が広がった。「ど、どういうことなの……?」そんな風に戸惑いつつも、気づけばニヤリと顔がほころぶ自分がいた。そしていつの間にかマスクがずれるくらい声を出して笑っていた。このご時世、声を出しちゃいけないと分かっていたが、こらえるのはムリだった。中盤からは前のめりに聴き入って、鯉八師匠が座布団から立ち上がるころには、大きな拍手を送りながら、あまりの衝撃によくわからないため息が漏れたのを覚えている。ちなみにこの「ぷかぷか」、わたしが2021年最初に行った落語会でも演ってくださって、なんだか思い出深い噺となっている。
こうして、11月10日のたった数十分で、鯉八沼に落ちたのだった。
瀧川鯉八がトリを飾る10日間
そうして今わたしが推しに推している落語家・瀧川鯉八は、2021年1月21日から、新宿末廣亭の夜席の主任を務めている。10日間毎日、鯉八師匠に会えるチャンスがあるなんて、本当にうれしい。ありがとう世界、ありがとう命。
▼10日間の盛り上がりをまとめた記事
緊急事態宣言が発令され、「不要不急」が外出を控えるよう呼びかけられているこの時期に、寄席に通う日々をすごしている。わたしにはまったく「不要」ではないのでね。
瀧川鯉八の魅力
それにしても、こうやって誰かに夢中になるのは、いつぶりだろう。
これまで、アニメキャラ・邦ロックバンド・K-POPアイドル・若手舞台俳優に夢中になることはあれど、まさか落語にハマるとは夢にも思わなんだ。
今のわたしにとって鯉八師匠は、アニメよりもポップでファンタジーで、ロックよりもリズムとフレーズの美学に満ち、アイドルよりもキラキラと輝き、若手舞台俳優よりも伸び代がはかり知れない、そんな存在である。この文が各方面で失礼極まりないのは反省してる。
そこまで言う瀧川鯉八の魅力って??
という話なのだけど、自分でもよく分かっていない。正直、ファン歴が浅すぎて言語化が追いついていない。噺の内容・着眼点・世界観はもちろんだけど、おそらく、テンポ・フレーズ・声色・表情・仕草……ボディランゲージ?……あとはツヤツヤな髪の毛……?淡いピンクが似合うところ……?
いやほんとうに分からない。分からないんだ。けど、なんかめちゃくちゃ好きなんだ……好きって、そういうもんだろ……?(急に雑だけど言語化を諦めたわけじゃない、長い旅の途中なんだ)
瀧川鯉八が教えてくれた芳醇な世界
わたしはファン歴がとても浅く、まだまだ知らない・分からないことばかりだ。けど、だからこそ彼にはたくさんのことを教えてもらっている。ファンとしての伸びしろたっぷりなのが今のわたしの強みだと信じている。彼の高座を目の当たりにするたび、新たな学び・発見の連続で毎日がキラキラと色を増していくのが、体温が上がっていくのが分かる。「見える」「感じとれる」世界が少しずつ広がっていくのだ。
特に演芸初心者のわたしは、この末廣亭一月下席で初めて拝見する芸人さんたちの魅力のコンボに打ちのめされている。
「うわ、この人もっと見たい」
「え、このジャンルめっちゃおもしろいじゃん……」
「あ、この噺ってこういうパターンもあるんだ?!」
その連続で、世界の広さを思い知ると同時に、落語沼の大きさとその深さに恐れおののいている。圧倒的多幸感を感じる日々だ。
そんな推し活に忙しい2021年1月。世情はこんなにも不安定だけれど、だからこそこんなに夢中になれるものがあって、そのきもちを行動に移せるほどの余裕とスタミナと機会があることが、とても、とても幸せで仕方がない。推しがいなかったら今ごろ、暗い部屋の隅で体育座りしながらボケーっとしてた。引っ張り出してくれて、ありがとう。
末廣亭の1月下席は30日まで。今は「みんな!!末廣亭に行こうな!!!!」なんて大きな声では言えないけれど、わたしの推し・瀧川鯉八師匠だけじゃなく、演芸の魅力がたくさんの人に届くこと、そしてより多くの人の笑顔が増えることを願っている。
瀧川鯉八は、いいぞ。
寄席は、いいぞ。
落語は、いいぞ。
追記)瀧川鯉八師匠のスケジュールは、ご本人の公式サイトが思いやりにあふれたまとめ方をしてくださってるので、ぜひ覗いてみてほしい。