パッケージで商品とお客さんの新たな出会いを”発明” 国内外のマーケティング賞も多数受賞「大好物醤油」の発想(前編)
日本各地の醤油蔵さんのお醤油に、料理のイラストが描かれた「2枚目のパッケージを被せる」というユニークな発想で、国内外の様々なマーケティング賞を受賞した「大好物醤油」。自身の好物から醤油を選ぶという提案が生まれた背景からその発想について、大好物醤油を展開する(株)伝統デザイン工房代表の高橋さんと、大好物醤油の企画・デザインを担当した(株)博報堂の小泉さん、天畠さんに話を聞きました。
・カンヌライオンズ「クリエイティブコマース部門シルバー」
・ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS「マーケティング・エフェクティブネス部門ゴールド」
・JPM プランニング・ソリューション・アワード「ベスト・プロモーショナル・クリエイティブ賞」
・グッドデザイン賞
醤油専門店に届いた、博報堂 小泉からの怪しいラブメール
- まずは会社について教えてください。
高橋:「職人醤油」という醤油の専門店をやっています。蔵元仕込みの醤油を100mlサイズの小さなサイズに統一し販売するセレクトショップのような位置付けです。15年ぐらい前にこの業界に飛び込んできたのですが、そこから400件ぐらいは蔵元を直接訪問し、その中でいいなと思ったところに、100mlサイズにしてくださいっていうお願いをして、今取り扱いは約60社あります。
高橋万太郎/(株)伝統デザイン工房代表取締役
1980年群馬県前橋市出身。立命館大学卒業後、(株)キーエンスにて精密光学機器の営業に従事2006年退職。(株)伝統デザイン工房を設立し、これまでとは180度転換した伝統産業や地域産業に身を投じる。
- 醤油の会社を始めるきっかけは何だったのでしょうか。
高橋:伝統産業というか、地域産業で何かしたい、という思いがありました。消費者の立場から見た時に、大量生産されてるものとそうじゃないものを、意識せず無意識に買っている、かつ日常生活に欠かせないようなものであれば、これは「量産されているもの」でこっちは「違いますよ、こだわってますよ」っていうのを言ってあげると、比較的買ってくれる人が多いんじゃないかなと思って。
そんなことを考えながら、日本中を旅をした時に出会ったアイテムをリストアップして、どれがいいか絞り込んでいきました。次に、その中でも購入単価の高いものは除外していったんです。 いかに技術がすごくても仏壇とかは、いきなり売る自信がなくて。そうすると醤油とか日本酒とか、お茶とか、そういうのが最後に残りました。その中でも当時、醤油ってダサいWEBサイトしかなかったんですよ。つまり誰も何もやってないぞ、みたいなことを感じた。
もう1つ、うちの母親が初めてインターネットで買ったのが、醤油だったんです。あの人を動かすぐらいだから、何か魅力あるのかなとも思って、面白いかなっていうとこで飛び込んでみました。
- そんな中で大好物醤油を2020年に発売されましたが、開発するきっかけは何だったのですか。
博報堂 小泉:当時、何か好きなことで仕事をしたいなと思っており、ちょうどその時ハマっていたお醤油というテーマで自主提案企画を、同期と2人で考えていました。
小泉和信/(株)博報堂 クリエイティブディレクター
1989年生まれ。東北大学大学院を卒業後、2014年に博報堂入社。コピーライター/クリエイティブディレクターとして様々な企業のマーケティングを担当。国内外の広告クリエイティブ賞も多数受賞。
企画をどこに提案しようかっていう時に、大手醤油メーカーさんも考えたんですけど、 まずは色々なメーカーさんと繋がりがある「職人醤油」さんにご提案するのは、広がりがあるんじゃないかってことでメールを送りお会いできることになりました。粗いアイデアも含めると100案ぐらい考えて、その中の20案ほどを持っていき、ご提案したという感じでした。
- なるほど。いきなり博報堂からメールが来たんですね笑
高橋:文章も練ってくれている、醤油に対する愛情もごっと入っている、送るまでにものすごく考えてくれたことがわかるメールでした。そして最後に博報堂と書いてある…「怪しい」の一言でした笑。とりあえず話すだけなら、みたいな形でコーヒーを飲みながら2時間どっぷり話しました。
ボツになった20案、そして蔵元を訪ねたからこそ生まれた”大好物醤油”
- 最初の提案の反応はどうでしたか。
博報堂 小泉:結論から言うと全ボツで…。なんですけど、万太郎さんに熱量だけは、買っていただけたというか。それで一緒に醤油蔵に行きませんかとお声がけをいただき、 瀬戸内海にある小豆島と兵庫県のたつの市の蔵元さんを一緒に視察させてもらいました。初めてそこで職人さんたちの話しや想いを、しっかり聞けたんです。
- ちなみに、小泉さんからの提案内容は覚えてますか。
高橋:なんとなく覚えてます。かっこよすぎました(笑)かっこいいんです。かっこいいんすけど、自分ごととしてやるかっていうと、ちょっと違うかもしれないなっていう。僕の先入観として、デザイナーさんは偉そうっていう先入観もあって。よくあるパッケージのデザインをリニューアルして高く売りましたみたいな話、中身は全く変わってないのに、デザインだけ変えて付加価値をつけますよみたいなやつに、僕はちょっと抵抗感がある。
で、実際に蔵元さんを見てくれた上で出てきたのが今の大好物醤油で、作り手たちのオリジナリティーは消さずに、一般のお客さんが選んでくれる、そこの部分だけデザインをし直すという提案が、僕的にはしっくり来たというか、すごく納得感があった。そのプレゼンは最後まで聞いてなくて、「ここまででいいです、これはぜひやりたい」って言ったくらい、テンションがすごく上がりました。
新たな出会いと体験の発明
- 改めて大好物醤油の内容と企画のポイントを教えてください。
博報堂 小泉:既存の商品パッケージの上に、料理のイラストだけを載せたスリーブ型のパッケージを新しくつけて販売をした、職人醤油の新しいブランドという立ち位置です。
そうすることによって、パッとお店とかで見たときに、自分の好きな大好物で醤油を選ぶことができる。例えば、アイスクリームが好きな人は、アイスクリームに合う醤油が選べるとか、トーストが好きな人は、トーストに合わせて選べる。お醤油って、どれを選んだらいいか、自分で選ぶのは難しいなと思ってるので。そこに対して「大好物」という選びやすいトリガーを作って、それをパッケージにしました。
最初提案してた時も「名前のない醤油」という企画で、料理のイラストだけを配したラベルで販売したら、選びやすくなるんじゃないですかというご提案はしてたんですけど…改めて職人さんたちに話を聞いて、すごい想いがあることを知ったのが1つ。 2つ目に、万太郎さんとの話しで、商品ラベルは醤油蔵さんが独自でお持ちのラベルを大事にし、それを使っていると伺いラベルを剥がすのは違うんだなと。
だからといって、元々の蔵のラベルのまま売ることは、その商品の最適な売り方なのかっていうと、そこにはやっぱ疑問があって。だったら、後付けで、売るときだけに機能するパッケージが作れたらいいんじゃないかと。 取り外すと、これはヤマロク醤油の鶴醤っていう醤油なんだとか、ちゃんと銘柄まで分かって、 2本目以降は指名買いに繋がるということが作れるんじゃないかと考え、後付けのパッケージにしました。
- 「名前のない醤油」と「大好物醤油」って、両方とも選びやすさの提示をコンセプトにしてると思いますが、この2つの大きな違いはどこになるのでしょうか?
高橋:そうですね、やっぱり最後は、どこの誰が作った、どういう銘柄なのか分かるかどうかっていうところが大きく違います。単純にアイスクリームに合う醤油みたいなことで買って、あーおいしいって終わるんじゃなくて。「名前のない醤油」はラベルを張り替えてしまう提案だったので、その先のどこで誰が作っているのかが抜けていました。
対して「大好物醤油」では、 買うときはちゃんとユーザビリティを意識して買いやすくする、その後に作り手がわかって、なんならもう大好物醤油をリピートするんじゃなくて、 醤油の蔵元さんから直接買う。そういう形で、最終的にファンになるのは大好物醤油じゃなくて、そこの醤油蔵さんになることを意識したっていうところが大きいかもしれないです。
(後編へ続く)