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【連載小説】もし、未来が変えられるなら『11話』

 入院前、時系列は、また前後する。ある日、僕はリビングの隣の和室でスマホを見ていた。何気なく見ていると違和感に気づく。でも今となっては、どんな違和感だったか、あまり覚えていない。おそらく時間が表示されていないとか、検索結果がおかしいとか、そういうものだったと思う。気味悪くなりスマホから小説に持ち替えた。手に持った小説は以前に読んだことのある小説だった。何気なくパラパラめくる。特に違和感はない。初めから読んでみようと、最初のページを読み始める。するとおかしい。内容が全く別の話になっていた。その先もパラパラとめくって読んでみたが、全く読んだ覚えのない内容で怖くなった。これが、冒頭に書いた小説の内容が別物になっていた話である。

 怖くなって小説も床に置いた。和室からリビングのテレビが見える。父親がニュース番組を観ているようだ。でも報道しているニュースがおかしな内容ばかりだった。そんなことあるわけないだろといった内容や、ふざけてるんだろと思うような内容ばかりで、思わず笑ってしまった。そのうちCMになった。CMは大丈夫そうだと思ったその時だった。急に早送りみたいにCMの言葉が早口になった。と思ったら、今度は巻き戻る。そしてまた早送り。それを観ていて、また怖くなった。そしてもっと怖いことに気づく。もうずいぶん時間が経っていて、暗くなっても良さそうなのに、窓から見える外は明るかった。おかしい。おそるおそる、スマホを見て時間を確認する。今度はちゃんと時間は表示されていたが、やっぱり午前中の時間を示していて、時間がおかしい。さっき父親が観ていたニュースは夕方のニュースだったはずだ。

 そこからが地獄だった。それからまた何時間も経ったのに、まだ外は明るい。そしてさらに時間が経った。もう次の日になっていいくらい時間が過ぎた。でも僕は怖くて寝れない。父親はそんなことないと言わんばかりにまだテレビを観ている。スマホを見る。日付は昨日のままだ。同じ日から抜け出せなくなったと思った。怖くて気が動転していて、僕はそばにあったノートに時系列を書いて落ち着こうと思った。でも書いて余計怖くなった。書くことによって時間が進んでいないことが、より明確になってしまう。もう何日も経った気がする。でも日付は一向に同じ日だった。ここから抜け出すにはどうしたらいいだろう? 異世界にでも迷い込んだのだろうか? そうだとしたら、どうやって抜け出せば良いのだろう? 色々考えた。そして思い当たった。ベランダから飛び降りれば抜け出せるかもと。でも僕は、思いとどまった。まだ理性があったみたいだ。そして、自殺する人の気持ちがわかってしまったと思った。誰しもがそうではないだろうが、僕みたいに、異世界に迷い込んだと思って、抜け出すために飛び降りてしまう人も本当にいるだろうと。


 今日のデイケアは、運動の時間がある。確か今日はバレーボールだ。そういえば、なぎは知っているのだろうか? まあなぎが知らなかったら、一緒に残れば良いと思ってあまり気にしなかった。

 僕がデイケアルームに着くとなぎはもう机に座って、前と同じように絵を描いていた。隣に座ってなぎに声をかける。

「おはよう。ちゃんと来れたんだね。嬉しいよ」

「何が?」

(この何がは、嬉しいに対して言っているようだ)

「なぎが居てくれてだよ」

「ふーん」

 僕は思わず笑ってしまった。なぎはわけがわからないというような顔をしている。あまりにも今まで通りすぎた。なぎはなぎだ。そんなところが自然体であることがわかって好きだ。

「そういえば本ちゃんと持ってきてくれた?」

「え? あ、うん。もちろん持ってきたよ」笑っていた僕は、思わず不意をつかれたようになってしまう。気を取り直して、僕はカバンから本の束を取り出してなぎに渡す。なぎはさも当たり前のように「ありがとう」と無表情で受け取った。それでも許せてしまうのがなぎである(他の人ならムッとしたかも)。

 そのまま僕も隣で絵を描いた。なぎから話しかけてこないけど、僕が話しかけると、なぎは答えれくれる。そうやって午前中を過ごした。

 午後、バレーの時間だ。更衣室で着替えて出てくると、遅れてなぎも着替えて出てきた。なぎの方がデイケアに通っている期間が長いし、なぎにとってはバレーがあることも当たり前のことのようだ。みんなでゾロゾロとバスに乗って、近くの市民体育館に行く。外も風が身に染みる季節になってきている。着くと誰もがイメージするような普通の市民体育館だった。バレーボールなんて授業で数回やった記憶しかない。

 デイケアの職員は僕となぎが仲がいいのを知っている。だからか僕となぎは同じチームになった。試合が始まる前に練習をする。なぎは思ったよりはしゃいでいた。トスの練習をなぎと一緒にした。なぎはニコニコいつもより楽しそうだった。

「ええーい!」

「ははっ! いつもより元気だね」

「うるさーい!」

 そう言いながらトスをしてくる。意外となぎはバレーボールが上手かった。デイケアでもう何回もしているのかもしれない。楽しそうななぎを見ているのが嬉しくて僕も笑っていたと思う。体育館独特の匂いと、外とは違い少し暖かいその空間に僕たちは、はしゃいで流す汗を落とした。


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ぽー@ドルオタのぼやき
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