「二人、仲良く」
幸せは、突然訪れる。
お告げのような感じで、言葉が降ってきた。
庄司と舞香は、今日も銀ぶらしてデートを楽しんでいた。
「あっ!餃子屋さん!」 「食べたい」
「ここの餃子は、大きいので有名だよ!」
「よし、入ろうか」
餃子好きな庄司は、少しだけ嬉しかった。
肉汁ジュわっとした餃子を、堪能した二人は、
築地警察署の近くにあるポケット公園へと入っていった。
ベンチに腰掛けて、他愛もない話をする二人。
すると、見知らぬおじさんが近づいてきた。
「これを、もらってほしい」と言って、茶色い包み紙に入った、
猫の置物をそっと手渡すと、スッと立ち去っていった。
白と黒の猫の置物、どことなく笑っているように見えた。
二人とも、猫好きで嬉しそうに顔を見合わせながら、
持って帰ることにした。
二人同棲しているマンションの、玄関先に置くことに。
それ以来、帰ってきたら猫の置物に向かって手を合わせる習慣が、
自然と身に付いてしまった。
「ただいま、ぱんぱん!」
今日も庄司が仕事から帰ってきて、手を合わせて入ってきた。
嬉しそうに庄司が、舞香に話をし始める。
どうも、昇進したらしい。当然ながら、給料も上がる。
舞香も報告を聞いて、一緒に喜んだが一番嬉しかったのは、
庄司のキラキラした笑顔が、見られたことだった。
その1ヶ月後、舞香にも報告したい出来事が起こった。
職場で、相談事や悩み事を聞くことが多かった舞香。
相談されたことに対して、答えたことが全て良い方向に、
結果が出たとのこと。
相談してきた人から、嬉し涙を流されて舞香に感謝の気持ちを。
運が良くなってきた。お金回りも良くなってきた。
そんな風に考えるだけで、特に不思議な感じに思わなかった。
(あんなことが、起きるまでは)
二人で力を合わせて生活してきて、何も困ったことが起こらなかった。
でも、もっと都会に住みたい、もっと良い暮らしがしたいという、
欲求が抑えられなくなって、
銀座により近い場所へ、引越しをすることになった。
引越し業者は、若いアルバイトSTAFFで構成されていて、
荷物の搬出作業が少し雑に見受けられた。
二人が、注意して運んでくださいって声を合わせて言ったが、
気がついたら、猫の置物を、落として割ってしまっていた。
引越し作業が無事に終わって、二人の新たな生活が始まった。
もう、「ただいま、ぱんぱん!」とする必要がなくなっていた。
それから1週間後、庄司が仕事中にミスを犯してしまって、
顛末書を提出しても認められず、降格になってしまった。
舞香も、相談される機会が減っていることに気がついた。
「あっ!あの猫の置物!」
二人声を合わせて、思わず叫んでいた。
そう、
あの猫の置物がなくなって以来、良いことが起こらなくなってしまった。
割れてしまった猫の置物は、廃品回収されて残っていない。
二人はまた、あのポケット公園に行くことにした。
あのおじさんに、会いに行くことにした。
「あっ!おじさん!」
二人は、また叫びながら茶色い包み紙を受け取った。
中には、犬の置物が入っていた。
※この物語は、フィクションです。