ソラニン感想 ※ネタバレあり※
私アジカンにハマっておりまして、特にムスタングが好きなわけです。そしたらムスタングはソラニンという映画のエンディングだということで、アマプラでレンタルしてソラニンを見ました。ネタバレありでつらつら感想書くのでぜひ読んでください。
ストーリー全体について
前半は近年の若者にありがちな、将来に対する不安を慰め合い勇気をつけてバンド活動に乗り出してバンドが成功するような話なのかなと思ったが、そんな単純な話ではなく主人公の種田が事故で死んでしまう。そこがまず意外だった。赤信号のショットの後芽衣子と種田が2人で会話するシーンになったので死にはしなかったのかと思ったが、急に現在の出血した種田のショットに変わったので余計に衝撃が強かった。そしてそのあとに芽衣子がLOTTIに加わって練習を重ねステージに立つ。種田がかつて言っていたようにギターを持って無敵になったように感じる。人生が急にひらけたような気になる。ここのかつての種田と状況が重なったところは印象に残った、あとで書く。最後にはみんなと笑うことができなくなるまではそうしていたい、という芽衣子の心のセリフで終わる。
印象に残ったシーンについて
・芽衣子が「種田は頑張って大人になろうとしてるのかな」と友人に問うシーン
その前に飲み会の後に種田が嘔吐してから「怖い」と言うシーンがあった。その種田の言動を受けてのこのセリフである。彼はバンド活動で食っていこうとするのではなく、自分の好きではないことを仕方なく職業にして生きていく、という「大人」な生き方を頑張ろうとしていた。このシーンまでは芯を食ったような発言があまりなく、そのセリフで「若者」と「大人」の対比がより意識された。
・種田が芽衣子に別れよう、と告げるシーン
それを告げること自体も衝撃はあったが、その後に川に落ちた芽衣子に約束しただろ、と諭されてすぐに「僕は最低だ」と謝ったこと。ここの演技がわざとかはわからないが白々しく感じた。だからこそこの「最低だ」が100%そう思った、というよりかは揺らいで葛藤の状態に入った程度だと思ったし、このあとにまた別れるのではないか、と不安に思った。実際にその予感は当たって種田は5日間失踪する。仕事で徹夜していたと言っていたが、連絡もなかったわけだし本当にそうだとは思えない。
・芽衣子が、ソラニンは恋人との別れではなく過去の自分との別れをテーマにした歌なのではないかと思うシーン
これはハッとさせられた。ソラニンは自分も好きだし、勝手に人との別れだと想定していた。しかし、種田が帰って来ると思った芽衣子にはソラニンを書いた時の種田は音楽に乗り切ろうと決めたときであり、それは頑張って大人になろうとしていた過去の自分との別れを歌っているのではないか、と思えてくるわけである。しかし実際にそうなのかもと思えてくる。「昔住んでた小さな部屋は今は誰かが住んでんだ」とかは過去の自分を意識した歌詞だし。
・種田が事故で死ぬ直前のシーン
彼は5日間芽衣子の家を訪れなかった。仕事で徹夜してただけだと久しぶりに電話をして芽衣子に会いに行こうとする。そもそも5日間家を空けていたのがほんとに仕事なのかも疑問である。きっと才能とか努力の面で自分の音楽を突き通して食っていくことはできない現実とそれでも芽衣子との約束の罪悪感の間で葛藤があったんだろうなあ。原付に乗りながら「ああ俺は幸せだなあ」と言う。しかしその後表情は曇っていく。黒背景に白字で「本当に…?」と出る。種田は泣き出す。そこに少し共感があった。自分を幸せだと言い聞かせようとするけれどやはり納得のいっていないところはずっと残っている。元の生活に戻るには自分を無理やり納得させるしかない。という状況は引きこもりをしていたからの自分の感情に少し似ていた。厳しい現実だなあと思った。そしてこのシーンと直接関係はないが、種田のこの葛藤や不満感、苦しさは解消されずに彼は死んでしまう。それもこの作品に味を一つ加えているものだと思う。芽衣子は晴れ晴れとした気持ちで終わったかもしれないが、種田の若者によくあるらしい苦しさは解決されないで終わるのである。それが独特の感覚を作る。
・種田の父親が息子のギターを持って行こうとしたとき芽衣子がギターを抱くシーン
大事な人を失って虚な心の状態なのに、ギターを失いたくないという思いからなのか、自分が種田の代わりに歌いたいという思いからなのかはわからないが咄嗟にギターに抱きつくシーンは単純に演技も上手く胸に残るシーンだった。
・ドラムの人の自転車の後ろで芽衣子が「やっぱりあんたはいい奴だよ」というシーン
あんなに気丈に見えた人が力いっぱいに泣いているのも印象的だったが、たしかに2ヶ月前に死んだ友人を思い出していつも泣く、というのは人情の厚いやつだと思った。
・芽衣子がステージでソラニンを歌うシーン
ソラニンが始まる前の間が長くて繊細な曲が始まる雰囲気でよかった。フル尺で曲が載せられていて、歌詞に着目できるシーンである。過去の自分との別れ、という考えで聞けた。その捉え方だからこそ芽衣子も種田を失って茫然自失の状態から抜け出そう、とギターボーカルになることを決意したのだと思う。自分は今までは無力だと思っていたのにギターをもつと無敵になった気がして、世界を変えることができるんじゃないかと思った種田とに重なっている。回想シーンで「私と重ねないでよ」と種田に言っていたが重なっている。そもそも、芽衣子は会社員を辞める前に日々が怖いと感じており、その時点から重なっていた。きっとみんなそうだと思うけど。ベースの人もドラムの人もみんな人生に対して漠とした不安にかられていた。その2人も芽衣子とステージに立つ前のシーンでは「不満なんかいくらでもあるけどそれでも…」みたいにセリフを言っていた。ドラムの人は「俺にとっての人生はただ生きることだ」と言っていたが、その考えがエンディング直前の「みんなと楽しくいられなくなるまでは楽しくしていたい」という芽衣子の考えに繋がったのではないだろうか。そして種田の死を自分の糧にして不安を持ちながらも穏やかな気持ちになることができた芽衣子は強いのだろう。
そしてソラニンの最後の「さよならそれもいいさ どこかで元気でやれよ さよなら僕もどーにかやるさ さよならそうするよ」という歌詞はやはり2人の人間の別れを踏まえての歌詞に思える。過去の自分だけでなく、やはり他人(今回は恋人)との別れを踏まえた歌なのだろう。
楽曲について
最後のライブのソラニンの前の曲の歌詞は雨で流される、という感じでムスタングの歌詞に似ていた。
テーマになった話のギターがムスタング(種田のギター)なだけで、楽曲のムスタングにはムスタングは使われてるのか疑問である。ムスタングの「君との誓い」というのは「芽衣子をなんとかしてやる」という種田と芽衣子の間の誓いなのではないかと思った。からソラニンが作られたタイミングで作られたのかもな、と思った。でもやはりこの歌も「鮮やかな君の面影も僕は見失う」とあり、大切な人の顔も忘れてしまう、というようにとれる。途中芽衣子が疑問に思っていたように、種田はソラニンを作るタイミングの時点で、バンドで売れることができないとなったら芽衣子と別れたい、とは思ってたのかもしれない。だからこそボートの上では芽衣子に「君に縛られてるようでしんどい」みたいなセリフを言っていたし、芽衣子をなんとかしてやる、と言ったからこそ死ぬ直前「自分は本当に幸せなのか、やはり縛られているのではないか、大人にならないと食ってけないのに芽衣子と約束してしまって板挟みで苦しい」というような思いがあったんだろう。
終わりに
この人たちは社会人になってきてこういう曖昧な不安に襲われているが、自分は今結構孤独で、ずっと不安を紛らわすようなコミュニティがないのですでにそういう不安に意識が向かっている。将来への不安は共感できるものであり、自分も漠然とバンドで食っていきたいと思っているのでこの作品はすごく引き込まれた。そういう不安は誰しも持ってあると思うけどそれも含めて歌にしたい。不安とか不満はあるけど、やっぱり楽しく生きたい。簡単にはいかないだろうけど。
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