社会モデルによる認知症まちづくりとウォーカブルの関係
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今回は、福岡市で「福岡市認知症フレンドリーセンター」という全国的にユニークな機能をもった施設がオープンしました。
そのオープン記念のセミナー「認知症の人にもやさしいまちづくり」についてレポートいたします。このセミナーでは、認知症の方にもやさしいまちづくりをテーマにセンターのピクトグラム制作された日本サインデザイン協会理事の定村俊満氏とイギリスにて認知症の人にもやさしい環境設計の研究されているスターリング大学の主席建築士であるレスリー・パーマー氏のお二人によるセミナーでした。
定村氏、レスリー氏順にレポートいたします。
成熟した都市のための情報デザインと認知症の人でも認知できるデザイン
定村氏は日本サインデザイン協会理事として、福岡市を拠点に駅でみかける数多くのピクトグラムの策定に携われてきました。
多くのピクトグラムを制作する中で、その理解度を測る試験の中で極端に理解度の低い方がいました。それが認知症の方たちだったそうです。詳しい調査で特に「立ち入り禁止」や「非常口」などの緊急性の高いピクトサインの理解度が低いこと、それらの共通点はそのピクトを理解するのはその前提を知っていなくてはならないという「学習」が必要なものだとわかったそうです。
また認知症の方はピクトサインを見た時に、全体ではなく部分をみる傾向があるそうです。どこでもあるこの男女トイレのピクトも認知症の方には「男の人と女の人」と認識される。試行錯誤をする中で、ものと人の動作を組み合わせると理解度が上がることがわかってきたそうです。
日本で1人で外出している、できている認知症の方は2割と言われています。また交通事業者の8割以上が困っている認知症と思われる方と遭遇した経験があるそうです。認知症になっても外出できる環境をつくることは「自立」と「尊厳」つまり「自分の意思で動けて、生きているという尊厳が守れる」生活環境があることを示すもので、都市の成熟度合いを示すもの述べていました。
さらに成熟度合には先ほどの「自立」と「尊厳」に加え「自由」が必要で、今車椅子の人や視聴覚障がいのある方が街を出歩きやすくはなってきています。しかし、まだ車椅子の人が電車に乗る際には乗る駅で降りる駅を伝えなくてはなりません。つまり、勝手に気分で降りたい駅には降りられないのです。自由に移動できる環境デザインを行政も民間企業もつれるかが重要と述べられていました。
デザインにおけるFlowとStockの価値について
定村氏が率いるソーシャルデザインネットワークスのHPには8つのチャプターによるメッセージが掲載されています。そこでは長年デザイナーとして活躍された中で、「幸福」について「Flow」と「Stock」で述べられています。「Flow」の幸福とは、モノを購入した時やおいしい食事をした時に感じる幸せで、その行為の瞬間がピークの幸福感を示し短期的なもの。「Stock」の幸福は家族や友人と過ごしている時に感じる幸せで、ボランティア活動のように、他人に奉仕している時にもこの幸せを感じる幸せで、一定期間安定して持続し、蓄積される長期的なものと解説されています。その上でデザインが社会における役割をこの述べられています。
定村氏がデザインした認知症フレンドリーセンターで制作されたピクトグラムは認知症の人にもわかりやすいデザインでつくられています。このデザインは福岡市内の公共施設などに順次導入されており、定村氏の蒔いたタネが福岡市で社会のための「Stock」のデザインとして広まっていることを感じます。
エピソードとして、シンガポールの学生が定村先生にそのようなピクトは必要がない。なぜなら自分の国にはそのようなピクトを必要とする人がいないからだと言われたそうです。そのような人がいないのではなく、見えないだけであること。高齢者が人口比率で多数を占めることになる日本社会において、いかに環境をつくれるか、ここ数年が勝負という言葉が印象的でした。
できるだけ長く暮らすための社会モデルによる地域づくりー20分都市
レスリー・パーマー氏はイギリスの建築士で、スコットランドにあるスターリング大学にて認知症サービス開発センター(DSDC)の主席建築士として、認知症の人にもやさしい建築や屋外環境デザインの研究をされています。福岡市認知症フレンドリーセンターにはDSDCの知見を取り入れて設計されており、このDSDCの認証制度における最高レベルを示すゴールド認証も取得しています。
そもそもイギリスにおける認知症を含む障がいへの向き合い方は1980年代にユニバーサルデザインが生まれ、これまでの向き合い方を従来の医療モデルから社会モデルへと転換されたことから大きく変わっていったそうです。DSDCも1989年に認知症にやさしい設計の開発を社会モデル基づいて設立されています。
WHOが示したエイジングフレンドリーシティにおける5つの指標
DSDC設立以降、WHOにおけるエイジングフレンドリーシティ(高齢者にやさしい都市)の枠組みとして都市生活の相互に連携した8つの領域が示されています。
そのうち、健康に年齢を重ねられる都市として、WHOの中心となる5つの指標が示されています。
・Neighbourhood(ネイバーフット)
・Walkability(歩きやすさ)
・Accessibility of public spaces and building(公共スペースや建物のアクセスのしやすさ)
・Accessibility of public transportation vehicles(公共交通機関へのアクセスのしやすさ)
・Affordability of housing(住宅の確保のしやすさ)
ただこの指標は地域の特性に合わせて使っていくことが求められ、方向性を示すものであるが、単純に導入だけでは都市という複雑なものを評価することにはならない。実際に都市を評価する時には、その地域に特長的な指標で評価する必要があるとレスリー氏は述べています。
さらにレスリー氏は、全ての人の生活の質がこのWHOの定義で重要なのは、都市が高齢者にとってアクセスしやすいだけではなく、今日の高齢者のためにデザインしているためだけでなく、誰もがいつか老いに直面することになること、いつか自分が高齢者になるためにデザインしているということが大事という言葉が印象的でした。
認知症にやさしい都市のあり方とウォーカブルの可能性について
レクチャーではイギリスで行われた認知症のやさしい都市のあり方についての研究内容が紹介されました。
ある研究では、認知症のポジティブな都市デザインとネガティブな都市デザインが紹介されました。例えな街並みについて、認知症の方の集中力、興味を引くような特徴的な屋根やドアのデザインをもつ歴史的建造物や居心地のよいオープンスペースのある街並みは視覚的な道案内の手がかりとなり、にどんなに記憶に頼れない認知症の方であっても記憶に残りやすく、歩きたくなること。逆に看板など視覚的に刺激や情報が多すぎると迷ってしまう。歩行を補助するためのバスシェルターやベンチが500m程度にあるなどが紹介されました。
さらにレスリー氏が2021年にスターリング市で実施した研究では、できるだけ長く暮らすための地域づくりとして、仕事、必要なサービス、公共交通機関、オープンスペースに徒歩または自転車で20分でいける地域づくりを行っているとのことでした。そこでは歩き回るこのはできるコンパクトなまちづくりを車依存から脱却することで目指すことを目指すものです。
これらは言うまでもなくディビット・シム氏がヤンゲール『人間の街』の実践編といわれる『Soft City』他、ウォーカブルなまちづくりにも通じる考えです。
今回のセミナーでは日本が高齢者社会、そして5人に1人が認知症になるといわれる日本においては20分シティの考えに代表されるようなウォーカブルな街なか空間をつくるための政策が喫緊のやるべきこととして単に歩きたくなる街なかをつくるだけでなく、高齢者社会、認知症の方が増える可能性ある社会において必要な政策であることが改めて認識できるセミナーでした。
最後に発行されたばかりのWORKSIGHT20号の特集は「記憶と認知症」で、今回のセミナーで取り上げられていた医療モデルから社会モデルへの転換の重要性をオランダやフランスの事例から紹介しています。ぜひ興味を持たれた方はお読みください◎