キーワードは「共生」 黒川紀章建築の 美術館・博物館 5つ。
埼玉県の北浦和駅前にある埼玉県立近代美術館。
埼玉県立近代美術館エントランス
こちらで2021年1月11日(月・祝)まで開催中の「上田 薫」について、”日常の「何それ?」を楽しむメディア「ナンスカ」”で紹介させていただきました。
■ リアルを超えた「超リアリズム」の世界 / 「上田薫」展 @埼玉県立近代美術館
埼玉県立近代美術館の設計は、銀座にある中銀カプセルタワービルなどの設計で有名な黒川紀章さん。今回は、黒川紀章さんが手がけた美術館・博物館を5つ(+α)ご紹介したいと思います。
1) 埼玉県立近代美術館(1982)
埼玉県立近代美術館エントランス
人工的な直線・格子状のコンクリートと、対照的に、その奥にある有機的な曲線のガラスのファザードが特徴的な美術館です。このガラスと格子のあいだは、外でも中でもない「中間領域」の空間としてつくられているそう。
噴水や彫刻広場などもある広い公園の中にありますが、高さが2階建てという制限があり、常設展示室を地下に埋めて、まわりの木々と調和する高さにすることで、公園の自然と建築の「共生」を狙ったといいます。
美術館のある公園の中には、中銀カプセルタワービルのカプセルのプロトタイプもひっそりと置かれていて、窓から中を見渡すことができます。
美術館のコレクションとしては、モネ、シャガール、ピカソなどの作品のほか、座って楽しむことのできる近代以降の「椅子」のコレクションも有名です。(※現在は感染症対策のため展示のみ。)
余談ですが、この美術館のある公園、半分は市営の「浦和北公園」で、もう半分は県営の「北浦和公園」ということをつい先日知りました…
なお、後年に黒川紀章さんの故郷の名古屋につくられた名古屋市美術館 (1987)は、同じく公園の中で自然との調和を目指し、低層×地下展示室 という、近い思想でつくられているようです。
名古屋市美術館 エントランス
2) 国立民族学博物館(1977)
大阪の万博公園の中にある国立民族学博物館。こちらは先ほどの埼玉県立近代美術館よりもさらに前につくられたもの。(未訪問なので写真がありません…)
”カプセルとか細胞、あるいは自立する部分、解体された空間単位によって建築を構成していくという考え方を大規模に展開したのが≪国立民族学博物館≫である。”(「黒川紀章ノート 思索と想像の軌跡」より)
まさに、メタボリズムの思想が取り入れられた建築で、完成してからも毎年のように「ロ」の字型のユニットを取り付けていくように増設されていったそうです。
ちなみに、大阪万博の際には30代後半であったのにも関わらず、3つのパヴィリオンを手がけられているんですね…
3) 広島市現代美術館(1988)
2020年12月12日から改修工事のための長期休館に入ってしまいましたが。(今年訪問予定でしたが…残念ながら未訪問です…)
広島市の市制施行100周年、広島城築城400年にあたる1989年に開館した日本初の公立現代美術館。元々は比治山公園を芸術公園とするプロジェクトの一貫として設計されたものだそう。
(1) 部分と全体の共生 (2) 非対称性 (3) 異質文化の共生 という3つの共生の思想をコンセプトに設計されたという建物。現代美術を扱う建物でありながら、切妻屋根の建物は江戸時代の蔵のイメージ。そして、建物の下方から上方に向かって、自然石、セラミックタイル、アルミニウムと徐々に先端技術的な素材で構成するなど、いくつもの「共生」の思想が反映されているようです。
コレクションは 「①主として第二次世界大戦以降の現代美術の流れを示すのに重要な作品」「②ヒロシマと現代美術の関連を示す作品」、「③将来性ある若手作家の優れた作品」という3つの方針でなされているそうです。再オープンは2023年。楽しみに待ちます。
4) 和歌山県立近代美術館 (1994)
和歌山城をのぞむ奥山公園のなかにある和歌山県立近代美術館。エントランスの幾重にもなる巨大なひさしが印象的です。
建物の正面には巨大な灯籠が建ち並び、建築の周囲にはせせらぎの池や滝が配され、熊野古道をイメージした散策路がめぐらされているそう。これもまた、熊野をイメージした自然とのつながりを念頭に置いた「共生の思想」が反映されたものなのだそうです。
隣接する和歌山県立博物館とはデッキと地下でつながり。一体の建物となっているそう。
作品としては、近代・現代版画の収集に力を入れており、その質の高さは国内屈指とも。浜口陽三や恩地孝四郎といった和歌山ゆかりの作家のほか、ピカソやルドンなどの海外の版画作品も。また、まとまった佐伯祐三(洋画13点、素描1点)や瑛九(版画239点)のコクションも。
2020年12月20日まででしたが、「美術館を展示する 和歌山県立近代美術館のサステイナビリティ」展も話題になっていましたね… 観たかった…
5) 国立新美術館 (2006)
最後は、東京の六本木にある国立新美術館。世界最大級の14,000m2の展示室を有する美術館で、2007年に亡くなった黒川紀章さんの最晩年の建築です。
”外に広がる青山公園、青山霊園につながる緑地、公園そして森と共生する美術館をつくりたかった。そのために採用したのが、三次元敵に複雑な局面ファザードである。”(「新建築」2007年1月号より)
印象的なその巨大な波打つガラスのファザードは、最初に紹介した埼玉県立近代美術館の頃から”生命の時代の象徴”として引き継がれてきた意匠なんですね。
ガラス張りのアトリウムの3フロア分の巨大な吹き抜け空間にも、そして、34.2Mというスパンを持つ展示室にも柱が無いんですね。明るい光が差し込むアトリウムの開放感、そして天井高が8mもある2Fの展示室は、巨大な作品や大規模なインスタレーションなどを”魅せる”空間になっています。
なお、国立新美術館はコレクションを持たない、企画展・公募展に特化した珍しい美術館。そんな特徴が、上記のような展示室の設計に反映されているようです。
この10年前に建てられた福井市美術館(1996)には、円錐状のモチーフや波打つガラスのカーテンウォールと、国立新美術館につながる形が見えるようですね。
1970年代から2000年代までを比べてみると、材料や設計技術の進歩によって意匠は変化していくものの、特に1980年以降、「共生」という一貫したキーワードでつながれていることがわかりますね。
まだ行ったことの無い美術館・博物館も多数。コレクションと併せて建築も楽しみたいです
参考)
黒川紀章ノート―思索と創造の軌跡 / 黒川 紀章
現代日本建築家列伝 / 五十嵐 太郎
構造デザインマップ 東京
新建築 1994年10月号
新建築 1997年10月号
新建築 2007年1月号
※ 写真は自身で撮影したもの、未訪問の美術館・博物館はgoogle mapの航空写真としています。
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