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『オッドタクシー』ネタバレあり感想

高尚な考察は何ひとつなく、「ここが面白かった〜」と言っているだけの感想文です。個人的な鑑賞記録。
最大のネタバレの直接的表現は避けています。ですが、ごく当然のように中盤〜ラストの展開やキャラクター、セリフについても触れていますのでご承知おきください。

『オッドタクシー』感想

2021年7月19日全話視聴。

⚫︎観終わって最初に思ったのは、「執念」がテーマの物語だなあ、ということ。ほぼ全キャラクターが「執念」によって行動している。小戸川さん以外。

⚫︎乗客たちそれぞれのしがみつく「執念」やそれに激昂する様子に対して、小戸川さんの徹底したテンションの低さ。基本的には、小戸川さんの低温な語り口が一定の安心感を与えてくれる(と同時に不穏でもある)。

⚫︎声優さんにはまったく詳しくないですが、小戸川さんの声を当てている花江夏樹さんは『鬼滅の刃』の主人公役ですよね。少年から41歳男性まで演じるなんて、声優さんってすごいな。

⚫︎本作は芸人さんの起用が多かったみたいですね。基本的に皆さんアニメ特有の作った声じゃなく、地声っぽい自然な発声なのが聴覚的に非常に助かりました。このおかげで最後まで観れたと言っても過言ではない。

⚫︎いろいろな世界の見方があるということ。世界は自分の感じ方、他者の感じ方、捉え方次第なのだと改めて思う。個人・あるいは社会は、誰かにとって善であり、悪でもある。誰もにとってそう。

⚫︎個人的には小戸川さんの真実自体には驚きませんでした。そういうひとたちが身近だったから。でも、そういうひとたちの世界がどういうふうに見えているか想像できたことはなくて、この作品は「そういう可能性もあるな」と思わせてくれました。他人の目線の先なんて誰もわからないよなあ。だからあのOPの歌詞の通りなんだ、と。興味深かったです。

⚫︎これ最後まで観て、また最初から観直してみると、正直、やっぱりキャラクターデザインがアニマルだったから観れたのだと思う。これは表現の成功。

⚫︎樺沢、田中、柿花あたりを掘り下げる回は痛々しくてしんどいが、みんな人間くさくてよかった。みっともなさを自覚しながら、正気の判断力を失っているあの感じは、多くの人の身に覚えがあるんじゃないかと思う。わたしもある。ちょっと過剰すぎるかとも思ったけど、事実は小説よりも奇なりで、実際こういうひとたちは居るんだろうなと思わせる。

⚫︎追い込まれた人間の行動や心理は、自分の人生においてもすごく参考になる。自分を客観視することの難しさもよく分かる。

⚫︎「執念」と言えば、まあ目が行くのは波乱を起こす上記の三人と、ドブ、ヤノ、ミステリーキッス二階堂・市村・三矢、ホモサピエンス柴垣さん、今井こと10億円当選お兄ちゃんあたりか。
地味に「執念」がすごいのは剛力先生。医者じゃなく友人として。あと関口。SNSのツイートからの自宅特定こわい。そしてやっぱりミステリーキッスマネージャー山本も。名誉欲より、ゲロを吐いてでも純粋にただただ彼女たちを守り押し上げたいという思いがそうさせるのか。みんな必死に生きている。

⚫︎意志を貫く「執念」。それは善と悪のどちらにもあり。「“殺さず”のヤクザ(悪の象徴)」と「“殺してでも”のアイドル(善の象徴)」。この対比。善悪が逆転しつつ同時に事象が関連して繋がっている。

⚫︎ただし、本作はヤクザが格好良いとかダークヒーロー的にまつりあげるわけでもない。「悪は悪」だ、裁かれねばならないと一刀両断する製作側の姿勢が好い。

⚫︎剛力先生の「友達だからだ!!」と大門兄弟(弟)の「許したいよ、でも法が許さないんだよ!」からも強い意志を感じた。友情ときょうだい愛は好きです。対等で、見返りを求めない、金で買えないものだから。(一定の恋愛関係や親子関係は対等ではないというわたし個人の偏見があります)

⚫︎擬人化していない蝸牛やインコ、「ズーデン」が出てきたあたりでなんとなく気付く。キャラクターデザインがアニマルなのはそういう設定の世界のお話(『ズートピア』みたいな)じゃなくて「意図的な表現」なのだと。1話から見直してみたら、今思えば伏線だらけ。

⚫︎展開が進むにつれて小戸川さんの冴えっぷりがすごい。とても頭が良い。自分はところどころ戻ったりして因果関係や人間関係を整理しながら観た。
全体のテンポのよさ、対話のやりとりの素早さは最近のファスト的な消費者・視聴者層を意識したのかな。自分は、全体通してやや早口で、会話が早すぎてついていけないところもあった。

⚫︎白川さんのカポエイラや水中救命は、マチズムを否定する要素だとしてもちょっとチートすぎる強さではないか? と思ったけれど、「身体能力的な強さも精神的な弱さも真実の彼女である」という描かれ方は多面的で好ましい。
パッとしない中年男性になんかしらんが若い女性が惚れる、みたいなのがちょっと洋ドラっぽいイメージだが。

⚫︎アクション、カーチェイス、ミステリ、少年漫画的な熱さもあり。物語自体は勧善懲悪を肯定しているが、そうはいかない展開。誰も完全な善/悪ではいられない。

⚫︎悪役もめちゃくちゃ良いな。声を当てているメテオさんという方は、大好きな漫画家の香山哲さんがよく交流されているようなので、お名前だけは存じておりました。
明らかにヤノの登場によって、中盤からの物語の体感が良くなった(ダレずにテンポよく進んでいく感じがした)。いきなり現れて初手ラップは確かにインパクトがある。

⚫︎誰の感想や考察も読まずにこの感想文を書いていますが、たぶんみんなヤノの登場で「おお!?」となったんじゃないか。彼の存在自体が物語に良いリズム感と変化を与えてくれている。
ただ、別作品で恐縮ですが、近年『ヒプノシスマイク』でラップそのものを認知する層が増え、知名度がある程度広まったとはいえ、ヤノの口調についていける人はやや限られるのでは……? とも。(誤解なきよう付記しますが、名前を出したからとて『ヒプノシスマイク』は支持していません。ラッパー版紅白歌合戦は平成でやってほしい。)

⚫︎50代の家人が現在2話くらいまで観てますが、中盤からいきなり(でもないけど)現れるヤノのライム口調をすんなり受け止められるかどうか。今のところ「面白い、続きが気になる作りだ」とのこと。確かに、自分も毎回良いところで終わるので気になって一気観してしまった。単純に作りがものすごく上手い。

⚫︎終盤、真っ赤な回想からの、蒼白い月夜へのダイブシーン。これもまた鮮やかな対比。全キャラクターの記憶のフラッシュバック、美しい整合性。水にものが落ちる。第1話冒頭のシーンを思い出させる。

⚫︎笑ったところ。関口の「韻が踏めていません!!」一番面白かった。そこ心配するんだ。あと「車が突っ込むんかい!!」言うと思ったけど笑ったくやしい。あのシーンで笑わせてくれた柴垣さんは清涼剤的存在。

⚫︎一件落着、いい塩梅で収拾をつけたかと思いきや、最後の事実が発覚。ラストシーンがまじで怖い。本当の戦いはこれからだ? なのか? 「ミステリーキッス、マジもんのミステリーじゃん」というのが素直な感想。わたしはミステリ初心者なのでまったく読めませんでした。
生きる「執念」は必要だけどほどほどに生きようね。小戸川さんよりこっちのが驚きました。

⚫︎最後に。今作『オッドタクシー』は、好きというか、純粋に単純にとても面白かったです。「いろんなひとが居る」この世界を肯定する感性や価値観などが自分と似通っていて良いなと思いました。

追記するかもしれませんがこの辺で。
画像使用させて頂きました。ありがとうございます。


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