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低予算でつくられた素晴らしいSF映画[4選]|③

こんばんは ぷらねったです
少ない製作費という逆境を アイデアと工夫で乗りこえた 素晴らしいSF映画たち
今回は「低予算で描かれた名作・傑作・カルトSF映画」をテーマに そんなSF映画の数々を紹介していきます


1.r)adius ラディウス (2017年)

監督は カロリーヌ・ラブレシュ、スティーヴ・レオナール
"一定の距離に死を放射する男"が描かれる カナダのSFスリラー映画です

交通事故を起こし 記憶を失くしたまま目覚めたリアム
助けを求めて近くの町に入りますが 目にするのは住民の死体ばかりでした
謎の致死ウイルスが大気中に広がっているのではないか...そんなことを疑い 不安になる中で ようやく生存者を発見
しかし彼が近寄ろうとした途端 その生存者は目の前で死んでしまいます
何が起きているのかもわからない状況の中で続々と増える死者でしたが 分かったことは リアムの半径15メートル以内に近寄った者は皆 なぜか死んでしまうということでした
誰の助けも借りられずに困惑するリアムでしたが 近づいてもなぜか生きている 記憶喪失のジェーンという女性と出会う...というストーリーです


製作費は低予算ですが"本来1000万ドル掛かる映画を さらに限られた予算で制作した"ということだけ明かされています
本作品は 2003年の「オールド・ボーイ」に影響を受けて構想され 時系列順で撮影されたといいます
日本語で『半径』を意味するタイトルの付けられた本作品では 15メートル以内に近づいた生物の命を奪ってしまう ひとりの男が描かれます


"一定の距離が死に影響する"という点では ルトガー・ハウアー主演の傑作「ウェドロック」に共通するテーマを扱っているとも言えるかもしれません
日本版のポスターデザインなどではB級ホラー感を前面に押し出しているのが残念なところですが 内容としては 比較的落ち着いた雰囲気のスリラーといった作品です
そのため 不可解な現象と謎に迫るような ミステリアスな雰囲気で物語が展開されていきます


低予算映画らしい製作エピソードとしては 遺体を池に沈ませるシーンにおいて ジャガイモをバッグに包んで身体に見えるように工夫し 上空からドローン撮影したといいます


映像面では『メッセージ』と同じVFX制作会社や音響編集者が関わっており 特に音響面で『メッセージ』との共通性を感じます
そんな 低予算ながら見ごたえのある 本作品
おもしろい映画なので 興味がある方は ぜひ観てみてください

2.トランス・ワールド (2011年)

監督は ジャック・ヘラー
超低予算の製作費で描かれる SFスリラー映画です

舞台は とある森の奥深く
夫とのドライブ中にガス欠に陥り ガソリンを買いに行ったまま戻ってこない夫を探すサマンサは 1軒の小屋にたどり着きます
するとそこにトムという青年が現れ 自身も車のアクシデントに遭い すでに3日前から小屋に滞在していることを明かします
さらにその後で2人の前に現れたのは とても態度の悪いジョディーという名の女性
ジョディーは 小さなお店からの強盗を各地で繰り返していた人物でした
こうして森の中の小屋で過ごすことになった3人ですが 何度森から脱出しようとしても 同じ小屋に戻ってきてしまう...というストーリーです


製作費は 推定50万ドル
ジャック・ヘラーの長編映画監督デビュー作であり クリント・イーストウッドの息子であるスコット・イーストウッドにとって 映画初主演となった作品です
また 主演のキャサリン・ウォーターストンは「カプリコン・1」のサム・ウォーターストンの娘であり サラ・パクストンは「エイリアン2」に出演していたビル・パクストンの遠い親戚という ちょっと不思議な人選です

作中では 初対面の3人が同じ小屋で過ごすことになり 森からの脱出を試みる物語が描かれます
移動手段や連絡手段もなく それぞれの正体も知らない状況の中でどこからか聞こえてくる銃声...さまざまな謎が判明しながら ストーリーが展開されていきます
89分という短い尺で 低予算らしい限られたロケーションながらも 素晴らしい脚本になっているので見ごたえ十分です
特に 終盤で明かされる3人の関係は衝撃的で パラレルワールド的な要素も登場していきます
この辺りは できるだけ何も知らずに観ていただきたい映画です

ジャック・ヘラー監督は 本作品以後「バッド・マイロ!」や「ゾンビランド:ダブルタップ」で製作総指揮をつとめるなど 飛躍を果たしています
ちなみに今作の原題は「Enter Nowhere」ですが 後に「The Haunting of Black Wood」に変更後 再公開されています
低予算らしい雰囲気ながら 脚本のアイデアが光る秀逸な内容の 本作品
見ごたえのある 傑作SFスリラー映画となっています

3.月に囚われた男 (2009年)

監督は ダンカン・ジョーンズ
低予算の逆境を跳ね返した 月面を舞台にしたSF映画です

舞台は2035年
主人公のサムは"ルナ産業"との契約を結び 地球で必要なエネルギー源としてヘリウム3を採掘する業務のため 3年間 月面基地サランにたった一人で滞在する仕事に就きました
そこでは地球と直接通信することができず サムの話し相手といえば 1台の人工知能搭載のコンピュータであるガーティだけでした
ある日の業務中 アクシデントによって負傷した彼でしたが 基地で目覚めたあとで思わぬ人物と出会うことになる...というストーリーです


製作費は 500万ドル
今回紹介する中では 高額の製作費と言えるかもしれません
デヴィッド・ボウイの息子であるダンカン・ジョーンズが監督をつとめ「銀河ヒッチハイク・ガイド」などで知られるサム・ロックウェルが主演として ほぼ一人芝居ながらも素晴らしい演技を見せています


作中では 月面で孤独な仕事を続けるひとりの男の姿が描かれます
必要な採掘業務が終われば 独り言を話してみたり 植物に水をやってみたり AIのガーティと会話してみたり...かなり退屈そうな様子です
しかしサムが採掘業務中に事故を起こしたことをきっかけに さまざまな衝撃的事実が明かされていきます
「2001年宇宙の旅」をはじめ さまざまなSF映画の影響を感じる本作品ですが いったいどのように構想されたのでしょうか


元々コンピューターゲーム業界で働いたり コマーシャル映像の製作をしていたダンカン・ジョーンズ監督は 当時まだ長編映画の監督の経験がありませんでしたが「月に囚われた男」ではない別映画のプロジェクトに取り組んでいたと言います
そのプロジェクトとは 2018年に公開されることになる「ミュート」に関するものでしたが 監督自身 そこでサム・ロックウェルに出演してほしいと願っており ロックウェル自身も脚本を気に入っていました
しかし彼は主演としての出演を希望しており その話し合いの中でSF映画への興味を語り合う時間があり「アウトランド」,「サイレント・ランニング」,「エイリアン」という まさに今作の内容に関係するSF映画の話で盛り上がったそうです
そこでダンカン・ジョーンズ監督は「あなたのためにSF映画を書く」と言って 本作品の構想にいたったといいます
つまり サム・ロックウェルのために用意されたのが「月に囚われた男」だったということになります...主人公の名前がサムなのも納得です

低予算のインディーズ映画ということで『月面での撮影は選択肢になかった』ということも とあるインタビューで冗談半分に明かされていますが やはり登場人物やセットを最小限に抑え 特殊効果も安く仕上げる必要がありました
そのためにまず ゲーム業界の元同僚であり 2021年の「アーカイブ」の監督であるギャヴィン・ロザリーと共に 基地の内部を3Dモデルで構築
それをお手本に 奥行27メートル 幅21メートルほどのサイズで月面基地のセットをスタジオ内に制作しました
次に月面のシーンですが ここでは往年のSF映画へのリスペクトも込めて CGよりもミニチュアを多く用いているといいます
月面に関しては 背景以外のほとんどがミニチュアを使った撮影で表現されていて 月面探査車もミニチュアだそうです

撮影には33日間掛かったと言われており サム・ロックウェルは ほとんど他に俳優がいない環境だったため 役と同じような孤独を感じていたといいます
俳優としては"ロビン・チョーク"という人物もクレジットされていますが 彼も現場におり 必要に応じて"別のサム"を演じていたそうです
また AIであるガーティーの声はケヴィン・スペイシーが担当していますが 彼はオファーを受けた際『映画の完成後に内容が気に入ったら』という条件を提示しており 実際に気に入ったのでオファーを受け 半日でセリフを録音したそうです


そんなこの映画には 紹介しきれない小ネタもまだまだ存在していますので チャンスがあればいつか紹介したいと思います
『もし自分自身に出会ったらどう思うのか』をテーマにしたという 本作品
すべて分かった上で観なおすのも楽しい 低予算の傑作SF映画となっています

4.地球に落ちてきた男 (1976年)

監督は ニコラス・ローグ
先ほど紹介した「月に囚われた男」の ダンカン・ジョーンズ監督の父親であるデヴィッド・ボウイが主演した イギリスのSF映画です

ある日 ニューメキシコ州郊外の湖に どこか遠くから来た1つの宇宙船が落下します
そこから降りてきた宇宙人は なぜか"トーマス・ジェローム・ニュートン"という名前が記載された イギリスのパスポートをもっていました
その後 弁護士オリバー・ファーンズワースのもとを訪れたニュートンは 人知を超えた9つの発明に関する特許を元に 巨大企業"ワールド・エンタープライズ"を立ち上げ 莫大な財産を得ていきます
メアリー・ルーという女性と関わる中で テレビなどを通して地球の文化を学んでいきますが ニュートンにはとある目的があった...というストーリーです


製作費は 150万ドル
本作品は ウォルター・テヴィスによる原作を元に映画化されました
「華氏451」や「アラビアのロレンス」の撮影で知られ クリストファー・ノーランが影響を公言する ニコラス・ローグが監督をつとめています
また デヴィッド・ボウイにとっては初主演となった映画であり 第4回サターンSF映画賞では 主演男優賞を受賞しています


作中では とある使命をもった宇宙人が遠い惑星から地球にやってきて さまざまな人々と関わっていく姿が描かれます
この宇宙人は多数のテレビを同時に視聴できる能力をもっており 人とのかかわりやテレビの映像などを通して 地球への理解を深めていくのです

ニコラス・ローグ監督は この映画で『時間に関する感覚を一切排除したい』と考えていたそうで 例えばセリフからは時間・日付などを示す内容が排除されています
これについては 編集段階で滞在期間を示すセリフがあることに気づき 吹き替えもしたそうです
また SF的ガジェットが宇宙船以外に登場しない中でも独特のSF感を生みだしているのは 映像センスやカメラワーク そして何よりデヴィッド・ボウイの存在感が大きいと思います

多くの場面でさまざまな曲が流れますが 元々これらの音楽はデヴィッド・ボウイが担当する予定もあったそうです
しかし契約上の問題でこれは無くなり 最終的には「ママス&パパス」の元リーダーであるジョン・フィリップスが監修することになりました
日本のパーカッショニストであるツトム・ヤマシタの個人的な協力や 元ローリング・ストーンズのギタリストであるミック・テイラーがアイデア出しを手伝った他 ストックミュージックも使用されているそうです

撮影は主にニューメキシコ州で行われましたが なぜかカメラが頻繁に壊れただけでなく 近くでキャンプをしていたバイクギャングの"ヘルズ・エンジェルス"と揉めるなど アクシデントも多発したそうです
また デヴィッド・ボウイならではのエピソードが多数あります
まず 撮影に際して400冊の本を持って行き 本の置いてある場所は個人図書館のような様相だったといいます


これについて当時のボウイは"かなり怪しい連中と付き合っていた"そうで 家に出入りしていた売人に本を盗まれたくないという理由があったそうです
さらにボウイは 腐った牛乳を飲んだことで体調を崩し 撮影が2日間中断
また ドラッグを使用して撮影に臨んでいたボウイは 精神的に不安定な状態にありました
映画撮影の手順に慣れていないこともあり 役柄と同じように疎外感を感じていたそうですが 当時の自分を作品にそのまま注ぎ込んだといいます
この撮影については『あの映画を作れたことをとても嬉しく思っているが 何が作られているのか全く分かっていなかった』ということや『あの映画で唯一思い出に残っているのは演技をしなくて済んだこと。ただ自分らしくいることで役柄に完全に適合していた。あのとき自分はこの世の人間ではなかった』ということを後に語っています


そんな今作でのボウイの役柄と 2006年の映画「プレステージ」におけるニコラ・テスラについて クリストファー・ノーランは共通するものを感じたそうで ボウイをテスラ役で起用することに繋がっています

話は変わりますが ニコラス・ローグ監督はミュージシャンを何度も主演に起用しており 1970年の映画「パフォーマンス 青春の罠」ではミック・ジャガー, 1980年の「ジェラシー」ではアート・ガーファンクル, 今作ではデヴィッド・ボウイを起用しています
当初主役のニュートン役には 206.6センチメートルという長身である 作家のマイケル・クライトンの起用も検討されていたとされますが 実現しませんでした


ちなみに 元々は119分の尺でしたが 1999年に139分の完全版が公開されています
さらに 同じ原作を元にした1987年のテレビ映画版に加え 2022年のドラマ版も存在し このドラマでは今作の続きを描いています
このドラマ版はシーズン1で打ち切りになってしまいましたが...
地球に来訪する宇宙人の映画としては 後に制作される1984年の名作「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」と通じるところもある 本作品
あまり低予算を感じさせずに ユニークな内容を描いた傑作SF映画となっています

あとがき

今回は「低予算で描かれた名作・傑作・カルトSF映画」というテーマでのSF映画紹介でした

さまざまな予算規模があり 製作側はその範囲内でなんとか収めつつ 良い作品を作ろうとする...こんな経緯により 低予算映画には 大規模な映画とは違う良さがあると感じます
そうして出来上がった傑作が次世代に影響を与えていき これからも新たな低予算の傑作が生まれていくことを願いたいです

低予算映画特集についてはこれで第3回目ですが まだまだこれからも紹介させていただきたいと思っています
最後までご覧いただき ありがとうございました

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ぷらねった【SF映画チャンネル】
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