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私の個人主義

"元来国と国とは(中略)詐欺をやる、誤魔化しをやる、ペテンに掛ける、滅茶苦茶なものであります(中略)だから国家の平穏な時には、徳義心の高い個人主義にやはり重きを置く方が、私にはどうしても当然のように思われます"1978年発表の本書は夏目漱石の五つの講演を収録した、作品理解にも役立つ普遍的な魅力ある一冊。

個人的には人前で話す機会も多いことから、座談や講演の名手としても定評があった著者の語り口にヒントを求めて本書を手にとりました。

そんな本書は夏目漱石が45歳の時に行った明石、和歌山、堺、大阪の四市で一般大衆向けに開催された関西講演会での『道楽と職業』『現代日本の開化』『中味と形式』『文芸と道徳』。そして関西講演後から3年、死の1年前の48歳の時に学習院の学生に行った『私の個人主義』を収録しているわけですが。

まず最初に感じたのは、私が関西、大阪在住ということもあり、講演で語られる漱石視点から見た各都市での歓迎の様子、そして集まっていた当時の人々の様子がありありと浮かんできて、何だか嬉しい中、講演録ということもあり、漱石の【他の登壇者や主催者への配慮、また自身をへり下って聴衆から笑いをとる様子】話上手な姿が当時そのままに保存されて伝わってきて大変に新鮮かつ勉強になりました。

また収録されたそれぞれの講演自体、愛読者や研究者にとっては【作品理解を深める上でもとても貴重】だと思われるのですが、それを敢えて割愛するとして。私には中でも、将来の日本を担っていく上流階級のエリート学生にむけて、自身の若い時を振り返りながら述べている【私の個人主義】『ある程度の修養を積んだ人でなければ、個性を発展する価値もなし、権力を使う価値もなし、金力を使う価値もなし』は学生のみならず、現代の拝金主義、政治的腐敗が蔓延する某極東の島国の経営者や政治家にも届いてほしい。などと思ってしまいました。

著者ファンの方はもちろん、人前で話す機会が多い人にオススメ。また明治末期から大正の時代の空気感を感じたい方もぜひ。

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