偶然の科学
"本書でわたしが論じるのは、この矛盾の鍵は『常識』そのものにあるということだ(中略)常識は数々の誤りを犯し、われわれは否応なく惑わされる。だが常識に基づく推論の欠陥にはめったに気づかない"2014年発刊の本書は蔓延する偽りの物語達を指摘し、複雑系社科学の可能性を探った一冊。
個人的には物理学者から社会学者に転じた人物として、また1998年にスティーヴン・ストロガッツと共に、スモール・ワールド現象を提唱した著者に興味があったので手にとりました。
さて、そんな本書は著者曰く【少なくない人に有用性に疑いを持たれている】社会科学の可能性について。【誰もが前提としている有名事例】例えばSNSにおける「インフルエンサーの有用性」「スティーブ・ジョブズの偉大さ」や、名画とされる「モナリザ」はたまたビジネス事例としては「ベータとVHSの争いの結果」「アップルの成功とソニーの失敗」を持ち出してきては、人物も企業も【『結果として成功した』から正しいと感じているのではないか?】とフレーミングやミラー効果などで読み手の多くが陥っているであろう【『単純な直感や常識』認識を揺さぶりつつ】それでも”有用な解決策を社会科学は見つけることができる”ー前進できる。と述べているわけですが。
個人的には、美術ファンとしては例えばモナリザが発表された同時代では知名度が高くなかったにも関わらず、ルーブル職員のイタリア人、ペルッジャの【盗難をきっかけに注目され】評価がのぼり調子になっていったなどのエピソードは面白かったし、ハリーポッターやFacebookなどへの個別言及も面白かったのですが。いささか冗長というか、少なくとも【表題(邦題)の"偶然の科学"について解説、回収されているような本ではない】と思いました。
一方で、日本のみならず世界中で一人一人の、また歴史に学ばない感覚的な思い込みが『常識』としてまかり通っていることに関しては自虐的な苦笑いをしてしまう位によくわかったし、ビジネス書コーナーに並ぶ各界、ジャンルの成功者たちの『如何にして成功したか?』本や、自己啓発本の内容が【どれほど怪しいものであるか】を再確認させてくれたのは良かったように思いました。
常識や非常識、社会学。はたまたビジネス本や自己啓発本にモヤモヤしている誰かにオススメ。