ハツカネズミと人間
"もう、人声はすぐ近くだ。ジョージは拳銃を持ち上げて、声に耳をすました。レニーがせがむ。『いますぐ、やろうよ。すぐ、その土地を手に入れよう』"1937年発刊の本書は世界恐慌時のカリフォルニアに生きる2人の出稼ぎ労働者の姿を著者の実体験を下敷きに描いた短くも衝撃的、切ない名作。
個人的にはノーベル文学賞受賞者にして『アメリカ文学の巨人』とも呼ばれた著者ですが。これまで全く未読であった事から、最初の一冊として約150ページと割と短い本書を手にとりました。
さて、そんな本書は著者が高校卒業後に働いていた砂糖工場での経験をベースにカリフォルニアから少し外れた大農場を舞台にして『いつか自分たちの農場を持つ』という夢をもつ出稼ぎ労働者、ちびのジョージとのっぽのレニーの友情、過酷な現実と悲劇が【演劇を意識して描かれている】わけですが。
まず、冒頭からのカメラが徐々に近づいていくような写実的な二人の登場シーン。作中で何度か感情を変えて二人の間で繰り返し語られる『うさぎの話』そして順番に登場してくる個性豊かな登場人物たち。と、読みながら確かに【自然と舞台の様子が浮かんでくるような】全てに無駄のない見事な戯曲的な作品だと感じました。
また、フォークナーとも違う【土の臭いが伝わってくるような文章】を読み進めながら、物語としては全てが【予感通り、必然的な悲劇のラスト】へと繋がっていくわけですが。生きることの厳しさ、不平等社会への怒りが静かに、そして確かに伝わってくる感覚があって余韻の深い作品だと思いました(=面白かった!)
アメリカ文学古典、戯曲的な作品を探す方や、またシンプルで読みやすい『男の友情話』が好きな方にもオススメ。